イグ=ドラ
「……何を独り言を……我の前に、竜など、地を這う塵芥か、はたまた宙を舞う鬱陶しい蝿よ」
「翼を持たぬものは、その蝿を前に、空に憧れる」
私は、毅然とした顔で、話す。
内心は、怒り心頭だ……が、怒りで我を見失うな。
解らせればいい、我々竜の、偉大さを。
「……っは、くだらん意地を……〈審判〉」
右手を上げ、振り下ろす。
「……っうぉ!?」
無詠唱の、魔法だが……これは聖魔法か!?
小さな光が、私の身体の周りに舞う。
振り払おうにも……透ける、払えない。
「囀るな小物」
「……あぁん!?」
なんてイラつく奴なんだ!?
「囀るなと言っただろう……それは攻撃ではない、言わば……そう、下見だ」
そう言った瞬間指をパチンと鳴らす事で、光は消えた。
下見?……まさか私を暴いたとでも?
「……ふむ……まずはほんの挨拶から〈堪えがたき賛美〉」
左掌をパッと開いて、その美しい顔に似合わない邪悪な笑みを浮かべ、その指の五指から光が空へ打ち上がる。
それが、美しい弧を描いて、私の方へ落ちてくる。
前へ走り、それを回避しながら、イグドラへ詰め寄る。
「……貴様、挨拶もろくに出来んのか?」
少しその言葉に嫌な予感がして、上へ向く、光は……ない、そういえば落ちた音は?……なら光はどこだ!?
その瞬間、背後から焼け付くような嫌な予感。
同時にそれが足元からも。
咄嗟にジャンプし、背後に対応すべく、くるりと回りながらジャンプした。
背後、そのすぐ近くまで……もしも背中に目が着いていたのなら、背中の目の前に、そこまで来ていた。
身体をひねり、飛び上がった勢いで、脇の下、目の前、足の間を通って前方へ。
ジャンプした、少し前までいた足元から、瞬間、飲み込むように歪んだ。
「上と思わせておいての下……ありがちだが、乙なものだろ?」
横からも来ていたが!?
……落ちている、は違ったな、正確には、上空から追跡してきていたのか。
また私の前から追跡してくるだろう光に対応しよう前へ向くと、光はない。
代わりに、拍手があった。
「素晴らしい動きだ、賞賛に値する、並のものでは、避けられもしまい」
確かにあれは、ヤバい、剣で打ち返す気にも、魔法で迎撃する気にもならなかった。
しかし、あんなものを食らって初めて貰える賛美とは、随分と遠いものだ。
「さて、次は〈光の計測具〉」
そう言って、拍手よりも強くてを叩く。
左手から刃が生まれ、右手には、篭手?いや爪?が。
「私の真似事か?」
「貴様の実力を見てやる、かかってこい」
近距離戦でも負けない……とでも言いたげだな
「っ後悔するなよ!『神速』っ!」
地面を踏みつけ、直線で一気に距離を詰める。
「神速ゥ?それは……我のスキルだな」
いとも容易く躱された!?だけでなく、優しく小突かれた。
屈辱的なまでに優しく、頭の上を刃の面で叩かれた。
「……っ!イグドラァ!」
「?痛かったか?なら今度はもう少し優しくしよう」
ブチンと音が鳴った。
どこから?……そりゃあ、頭の中だろ!?
「『世界の夜明けを迎えるものは』『その代償に勇気を求めた!』『しかし真に夜明けを迎えるものは』『払わずとも迎えれよう』『先にいるから迎えるのだ』『先を行くも勇気』《勇敢なる者》!!」
「固有スキル……か、それに感情が丸々乗っている……挑発は下手な手を打ったか?」
なんて顎に手を当てて悩む、そんな余裕、直ぐに消し飛ばす!
「っこっちを!見ろ!」
左の刃で、迎える刃を弾く。
右の爪も、弾き飛ばし口を大きく開く。
「〈恐ろしき気性〉」
エメラルドグリーンの奥に、聖魔法よりも白い光を見た……フレイ程ではないが、恐ろしい光だ。
恐らくこれは、状態異常系だろう……が!
「私を舐めるな!アァ!」
ギザギザの竜の牙で喉に食らいつく。
噛みちぎる、その時体内に……菌が入ったか!?
「……暑苦しいやつだ、貴様のせいで我が菌も生きられぬ」
傷……治ったのか!?もう!?
「……世界樹を切り倒し、神獣を殺し、我を傷つけた……貴様のその罪に、審判は下る!」
その声に、ビクッと肩が跳ねた。
「《裁き》」
光の玉が……あれは……フレイのアレに似ている、内包しているおぞましさも含めて似ている。
しかし、レベルが違う、格が違う。
あれに当たれば……どうなってしまうんだ!?
「……貴様まさか、無傷で我に勝とうと?」
パッと手を向ける。
以外にそれは……遅かった。
ゆぅぅぅっくりと、それが大量に。
恐らく早く飛ばすことも出来るんだろうが……まるで網をはるかのように、ゆっくりと飛ばしてくる。
「……さぁ、我を倒せるか?」
数がどんどんと増えていく。
恐らく、時間が経てば経つだけ、私が不利だ。
玉の数が少ない、今のうちに!
「……ほぅ?距離を詰めてこないか?」
息を大きく吸って、ブレスを吐く!
「当たり前………っだ!!」
言葉に乗る感情も、そのままに吹き付ける。
いつもと違い、広範囲に吹き付ける。
「……面白い」
その炎さえも突っ切って、光の玉がいくつも見えた。
しかし、私はもうそこにはいない。
隠れて、不意打ちをする!
「……煙幕に身を隠せるのは、貴様だけではないぞ?」
バッと目の前に光の玉が……っしかも早い!!
「……貴様とて!死にはするだろ!?」
左腕を伸ばし、真っ直ぐ突き刺す。
パシュとみずみずしい音が響いた。
私の右肩、左横腹、右足の太ももと右耳が熱い。
だが、幸い切断……とまではいっていない、ギリギリついている。
そして、煙が晴れる。
その先には……まっすぐ心臓を一突きした私の剣が、赤く染っていた。
「……っやられたか……」
「……満身創痍だがな」
「……最後に、貴様の名を聞こう」
そういえば名乗っていなかった。
「サクラ グランド、英雄になる者の名だ」
口の端が上がった、美しい顔に似合う、美しい笑みを浮かべ
「そうか」
短い言葉だが……満足だ。
人の心臓程度の小さな輝石が残っていた。
これが……世界樹の輝石、か?
そんなことは今、どうでもいい
「……疲れた〜……!」
もう、動けん




