八十層の守護者【リリー】
「……あなたはいつに顔を見せてくれるの?」
私たちサジェントスは、代々この花を咲かせるために生きてきた一族。
精霊魔法の中でも、植物、そしてさらに花に精通している一族。
そして、私は精霊と会話ができる稀有な存在。
お話して、絵を描いて、笑い合う、みんな私のいい友達だ。
そして私は精霊『魔術』を開発した。
今の世界には、私しか知りえない魔法の使い方。
これを精霊の皆に教えてあげた。
皆でこれを広めることにしてもらった。
今の世界には、精霊なんて、知らない人がほとんどだろう。
私が絵を描き広め、精霊を知ってもらう。
精霊のみんなには、私の知って欲しいことを語ってもらう。
私が語らないのは、その力があまりにも強大であるから、国によって差が生まれてしまう、そして!非才の者には悲惨な未来があるから。
皆が認めた人とだけ使ってもらうんだ。
今となってはこの程度だが……だいたい一万年も経てば色んな魔術も生まれるだろう。
しかし、私の人生ではあまりにも短いことを知ってしまった。
私はある時夢に見た。
それは誰かが見せたのか、それともただの夢か。
黒い髪の少年と戦い、そして花が光り輝き咲き誇……りそうなところで目が覚めた。
私は、その少年がこの世に居ないものだと悟った。
そして、それは恐らく一万年後にいるのだろうと思った。
それは、私の魔術が広まりきった後と、奇しくも重なっていた。
しかし、一万年後……いや、それに近しい時間を生きることは私にはできないことを知っている。
軽く絶望しながらも、私は本を漁り続けた。
山積みの課題と本の中に、時間旅行が可能なもの、己の時間を止めるもの、時間を超えて行くもの。
いくら探しても、そんなものはなかった。
そうして私は、今の代では諦めようかと考えた。
私は私、一人の女の子として、ホシノカケラをすっぱり忘れて、幸せに生きろうと。
しかしそれが無理なことも私は知っていた。
私の見える幸せな家庭を持った未来。
しかし、ご飯を作る時ふと、お風呂に入る時にふと、眠る前にふと、まるで初恋の人に何かの記念の日に愛を告白するも、フラレて、それをずっと、その記念日の時に思い出すかのような、ずっと私の後ろ髪を引き続けるような未来が見えたような気がした。
いや、それよりも、何よりも、その時ふと思わされた、私がホシノカケラを忘れたら、果たして誰がこの子を覚えていてあげられるのか?
そして、私が死んだら、誰が果たしてあの少年と踊って、ホシノカケラの気が引けるの?
私しかいないじゃないか、私以外に誰が!?
そんな時、私は彼に出会った、彼の目指す先は違えど、会えそうな気がした。
そうして、私は彼について行った、一万年先のその世界で、あの少年と出会うその日に向かって。
そんな戦いの中、私はふと、未来が見える時が昔からあったのだ。
この日のこの戦いを私が昔夢で見たように、私が思い描いた幸せな家庭を夢見た時のように。
そして、今回もそれを見た。
それは……彼と……カルカトスと会うさらに、しかし少し前。
彼の目は、酷く物悲しそうだった。
まるで、既に知っていて、しかも見たこともあるものを、さもサプライズかの如く、まるで新しく教えてあげて、見せてあげたかのようなおこがましい行為なように彼を楽しませようとしたものに、侮蔑の、そして、哀れみの目を向けるかのような顔で立っている君を見た。
「……私の目は、未来を見通す!」
ホシノカケラと同化してわかった。
私は未来が、今完璧に見えた。
だから、私と戦ったあとの、カルカトスの遥か未来を見てみた。
その先でカルカトスは、笑っていた。
その顔は……喜びだ、しかし……その顔は楽しいという顔よりも楽しみ、未だ来ない未来を、とても楽しそうに望んでいるかのような顔。
なぜそんなにも楽しそうなのかは私には分からない、分かれない。
ただ、それを知ろうとするのは、お門違いだ。
私は今とても幸せだから。
英雄だっただけ、今の私は普通の人のように、私だけを思って、今を戦うの。
この楽しすぎる戦いで、たとえ腹に血のトゲを張り巡らされても、空に打ち上げられて、剣を突き刺されても、楽しくて仕方ない。
ただ、一つだけ謝ることがあるとするならば、君の大怪我を見舞うための花。
楽園の花壇に咲いた、可愛い美しいその花……その花が咲いている間は私を覚えてて欲しいって言ったけどさ……
それ『造花』なんだ、ゴメンネ、テヘペロリン




