楽園の花壇【カルカトス】
「……っおぉあ!!」
未だ迫り来る斥力に、押し勝つ為に、身体の形状を大きく帰る。
《悪夢》の時間いっぱい身体を変えて戦う。
三角錐の黒い鉛のような物になって、高速回転しながら前へ突き進む。
推進力は、無属性の抽出、いつぞやの、絵本の中の災害だ。
「……〈爆進大災害〉!」
斥力を受け流すように、まっすぐ!突き、進む!
「っおぉ!来たね来たねぇ!
私が命じる!『速度の出しすぎ禁止!』」
ガクンと、速度が落ちた。
そして、こちらに走りよるリリーの足も遅い。
パッと元に戻り、振りかぶる剣を受けようと急いで動く。
「速度の出しすぎ禁止だよ?」
その、とても早いとは言えない剣速に、抗おうと、受けようとした瞬間、リリーの動かす剣と、同じ速度しか出せない俺は、ゆっくりと、身体を突き刺された。
「っぐ!?」
「……ま、こういうこと、最高速度は2人とも一緒〜!」
なるほど、後出しジャンケンは無しか、しかも、先手を取ったほうの勝ち……なら!ここで俺も攻撃したらどうだ!?
「残念ながら、そうはさせないよ『ルール撤廃』『空中禁止』」
「っはぁ!?」
剣は早く振ることが出来た。
そして、追いかけようと走り出す、リリーは舐めているのかテクテクと歩いている。
その瞬間、前後に足を開く形で地面に叩きつけられた。
「っわぁ、身体柔らかいねぇ」
「……っどういうことだ!?空中に行ってないぞ!?」
「走る時、両足はなれるでしょ?屁理屈みたいだけど、ラジアンの能力、便利だよね」
そう言って、手をかざす、どんな魔法だ!?
「魔法なら、君の固有スキルでかき消せるかもね」
「!?」
読み透かされた!?知っているのか!
もしくは、そうした未来をついさっきまで見ていたのだろう。
「ナルヴァーくん、目立たないけど、凄い子だねぇ」
音符が飛んでくる。
避けようとローリングするも、腹這いに叩きつけられ、音符に吹き飛ばされる。
「っマズ……っべ!?」
そしてまた、地面にたたきつけられた。
やばい!抜け出せない……いや!?
「〈悪の花道〉!」
血でスロープを作る、そこに吹き飛ばされたあと、転がりながら上に行く。
競歩で歩くのはなかなか見ている側からすればマヌケだろうが、これが最善だ。
そうして、音符をはらいながら、リリーの真上に行く。
「んん〜?魔法でも使う?」
「どーせなんかあるんだろ!?タネが!」
そう言って飛び降りる。
「タネはないよ!みんな花だよ!」
飛び降りた俺目掛けて、剣を突き刺し、串刺しにしようとする。
「いいさ!くれてやる!俺の腹!」
腹部にめり込む、突き刺さるその重なり合った花剣が突き刺さる。
そして、リリーの腕さえも突き刺さった。
しかし、俺の剣も、突き刺さり……はしなかった。
が、剣から伸ばした血のトゲが、確かに突き刺した。
「喰らっておいて良かった!クレイアの水晶!……っごふ……!」
「わぉ……枝分かれしてるのか……これは痛い」
顔を顰め、初めての有効打か?
しかし、ここまで体が貫通するなんておかしい……多分寸前で俺を吸い寄せたんだろう、加速したし。
「……けどね、まだ私が借りた固有スキルもあるし……私の固有スキル、忘れてない?」
そう言われて、ハッとした。
空から落ちてきていたように見えたあれ、なんだったんだ!?
そう思い、上を見上げた時、もう遅かった。
目の前に、本当に眼球の目の前に、鋭い岩が迫ってきていた。
頭の中に異物が入り込む感覚、そして、突き抜けた。
左目諸共、ごっそり取られた。
「……隕石?」
そう呟いた時、吐血して、リリーにかかった。
「違うね、星屑だよ、私の意思で動かせる!」
そう言いながら、俺の方にまだまだ飛んでくるその星屑?とやら。
普通なら引くところだが……まぁそもそも腹に腕貫通してるんだけどな、それでまあ逃げようとするだろう。
「俺は逃げないからな?」
「へぇ?面白い」
リリーの身体に触れる。
「「《限界突破》」」
2人して、声が重なった。
左側からリリーはボロボロと崩れていく。
そしてそのまま首も落ちくれると思っていたが、俺の腹は、先に分断されてごとりと地面に落ちた。
そして、リリーは、その部位をすぐに切り離して、膝を着く。
「……っふ……!!ふーっ……!」
その傷を抑えながら、血が止まらない事に驚いている。
「アデサヤは………俺の血だ………俺の血を浴びたら……それもアデサヤみたいなもの………アデサヤの傷は…………そう簡単には治らない」
俺の腕から浴びて、吐血した血を浴びた、既に回復はむずかしいだろう。
「……まだだ!まだだよ!もっと凄い能力を私は再構築したんだから!〈勇敢なる者〉!」
問答無用で傷を治す。
あれは確かサクラの能力か、相変わらずインチキだな
「……『悪夢魔術』」
なら俺も本気で……命を投げ捨てよう。
上半身と下半身、わかたれたそこから流れ続ける血は、収まるところを知らない。
「……どこからそんなに血が!?」
「……MP全部が俺の貯蔵だ!!」
上半身だけで叫ぶ。
それを止めようと斬りかかってきたリリーを、下半身が蹴り飛ばす。
「そっちも動くの!?怖っ!?」
内蔵出てるしな、確かに怖かろう。
その血溜まりは、大きく大きくなっていく。
これは、ラジアンの固有スキルから着想を得て、フブキの、自分の空間を造る所に答えを見いだした。
「この血溜まり、全部が俺の身体だ!
『人生を終え』『果てで笑え!』『血染めの俺達だけが』『美しく嬉々として笑う』〈最後の楽園〉!」
その瞬間、出血量が更に増した。
花畑が、血の池地獄に移り変わる。
「ここなら!負けない!」
俺は起き上がれないまま、下半身を使って戦い続ける。
最後の楽園、そういうからには……それ相応の場所だ。
少し戦えば、地面に足が吸い込まれていくリリー。
俺の下半身も、血の中に時折消えて現れる。
「こいっ!!モルバァ!」
右腕を突き上げて、呼びつける。
その時、頭の中にあの子を思い浮かべるのを忘れずに。
「このっ!?クジラはっ!!」
リリーを大きく突き上げたが、星屑が襲ってくる。
俺の方に飛んできた星屑は俺自身が血の中に沈み回避する。
しかし、モルバは空に浮かび上がった瞬間、蜂の巣にされた。
まるでボロ雑巾のようになって、血になって消えていく……しかし!モルバの働きは大きい!
「分かるよな!リリー!お前の負けだ!」
俺の手に、右手に剣は握られていない、さっき突き上げたから。
空っぽの左目と違って、右目でしっかりと見つけた、ほんの僅かな隙は、ミランのおかげかもしれない。
まっすぐ、圧縮された勢いから解き放たれたように、星屑に乗せられて、リリーに向かって飛んでいく。
地面に落ちた星屑は回収して、再利用だ。
折れず曲がらない、素晴らしい剣だ全く。
まっすぐ心臓を突き刺した。
そして、地面に落ちてきたリリーは、すぐに立ち上がり、俺の元に走ってくる。
「ぅ……っそだろ!?タフネス……!!?」
俺のあと一歩で地面に滑り込むように倒れた。
「……私の言う、英雄はね……『英雄とは、最後の最後まで花を咲かせる者』の事……この花が枯れるまで、私を忘れないでね」
そう言ってアイテムボックスから花を一輪取りだした。
光の粒子に包まれて、リリーが消えていく。
「……ホシノカケラの花が、咲いたよカルカトス……あなたと私の『最後の楽園』に」
楽園の花壇に一輪、随分と可愛らしい花が咲いたな




