悪夢【ラジアン】
イヤーなものを思い出した。
私を忘れた、あの日のカルと同じ見た目だ。
白い髪に、赤い縦長の瞳孔を持つ目。
そして、伸びる触手がカルを包み込んで……
「……っへ?」
「……ん?」
私もリリーも、疑問符を浮かべるばかり。
なぜなら、その触手が包み込んだ後、ドロンっと身体が溶けた?
「……ええっと……ラジアン、あれ何かな?」
「っいやぁ……わかんないなぁ、何あれ?」
お互い目を見合わせて、カル?を指さして相談する。
「……ダレダ?」
「!喋った?」
「みたいだね……ラジアンだよ〜!私ラジアンだよ!」
とりあえず、色々忘れてるみたいだから、私の名前から思い出してもらおう。
「……ラジアン……ラジアンだ……『俺はラジアンだ』」
「……ん!?」
「あれ?なんか違くない?ラジアン?」
「違わないよ」
その声は、私の声だった。
驚いた顔で私の方を見るリリーに、驚きのあまり口をパクパクさせるしかできない私を見つめる。
「……私はラジアン……ラジアン……あなたもラジアン?……一緒だね!」
黒いどろどろが形をとって、へたくそな輪郭から、私そのものに移変わろうとする。
「……わ、私?だ」
「……ラジアン、これやばくない?これは私も知らない……見えない、真っ暗だよ、この道の先は……まるで悪夢」
冷や汗をかいているから、本当なんだろうな。
「ごめんリリー、私が選択肢多分間違えた、あそこでカルを教えるべきだったよ」
「リリー、大丈夫、私は私のままだから、あなたをきっと、成仏させる」
「……そういえばリリー、見えないもの見えたのに、成仏しないね?」
「……真っ暗で、何も見えないの、困ったなぁー?!」
私を見失わないように、本物の方の私と目を合わせるリリー。
「私はあなたで……あなたは私?でも私は私で……あなたはあなた、なのにあなたは私で私はあなた……???」
「っぁあ!!なにそれ!頭おかしくなりそう!?」
私の声で、恐ろしいとも言える言葉をブツブツつぶやく。
「違うよ!カルカトス!君はカルカトスだ!ラジアンは君の彼女!」
「……カルカトス……?それは『誰』?」
「ええっとね!カルは、黒い髪に赤い瞳の男の人!」
「……?カル?カルカトスは?」
……?あ、別人だと思ってるのかな?
「違う違う、カルカトスのあだ名がカルなの」
「へー!二人は一緒なんだ」
「違う!1人よ!カルは!」
「……それで?その次はどんな人なの?そんな人たくさんいるよ……?」
「……リリー!絵!」
「置いてきた!」
「今書いて!」
その数分後に描かれたカルの絵を見つめる私ことカル。
「……こんな人か……な?」
またドロンと溶けたあと、絵の中のカルがそのまま生まれる。
「……これは違うな……やっぱりこの方が戦いやすい……分かるのは、君を倒すことだけ」
しかし、すぐに黒い不定形になって、言葉が溺れていく。
リリーは警戒して、剣を構える、ビクッと肩を跳ねさせているほどに怯えていた。
「……っくる!?」
ゼロからいきなり百にまで加速して、カルが爆発的に加速した、知らない動きだった。
リリーの目は異常に優れている。
その加速を見切り、カウンターで突きを繰り出す。
それを、ぐにゃりと身体を曲げて、そのまま、剣が飛び出した。
その中の何本かに、見覚えがあった。
記憶を失う前の、精霊に作ってもらった剣。
記憶を失っている時の、白い大剣。
ナイトラインに、輝石の剣、あれは……アズナス!?それに、アデサヤも!?
それが、まるでトゲの着いたボールのように飛んで行った。
それを弾かれた、受け流したりとかじゃなく、あの斥力が、吹き飛ばしたのだろう。
「『空に描く』『星を紡ぐ』『浮かび上がる美しい絵』『見えないなら、それでいい』『だってそれは』《高嶺之花世》!!」
距離を離し、詠唱をする、それを間髪入れずに襲いかかり止めようとしたカルを、更に押し飛ばして、使ったあれは確か……固有スキル。
ふと、上を見上げた。
体が動かなくなった、そういう魔法じゃない……いや、これはもはや魔法か?
空に描かれた数多を繋ぐ線が、絵を生み出した。
聖戦の絵だ、美しい絵だ、この、ここの戦いがまるで聖戦だ。
美しすぎて、見惚れてしまって、うごけなくなったが、その線が光だした。
「更に行くよ!『ラヴィ』ィ!」
名前を呼んだ、その精霊。
「「『星ノ理』」」
声が2つ、重なって聞こえた。
「「『宙はどこまでも遠く』『遥か彼方にて君を待つ』『何か一つを見つけたのなら』『前に進む勇気以外に』『果たして何が重要か!?』〈勇敢なる者〉!」」
「……っ!?また吹っ飛ばした!?」
カルを押し飛ばす力が強くなった。
「「『音は届くさ』『どこまでも遠くへ』『君に足りないものは』『少しの自信と』『少しの狂気』〈幻音操奏〉」」
その吹き飛ばす力に、更に音符が加わった音で突破が困難に……これはまさか!?
「「『横暴なるままに』『最果てを知れども知らない』『白は白』『黒も白』『ルールとは私が決めたものの名』〈自由で横暴な決闘〉命ずる『カルカトスと戦わせて』」」
悪夢が、抜けていく。
身体が元に戻っていく。
「……自我が戻ったの?」
カルは自分の手を見ながら、グーパーした後
「……リリー、感謝するよ……俺一人じゃ絶対ここまで辿り着けない境地だから」
「「『君は終末論を綴るなら』『私はその少し違う世界を見つける』『限界なんてない』『君がそう教えてくれた』〈限界突破〉」」
しかし、同時に訪れたコレを、悪夢と呼ばず、なんと言えばいい?
「「『あなた達を星は見ている』『遠くから見守っている』『私は見守っているから知っている』
『共鳴精霊魔術』〈世界最自由的再構築〉」」
そう言い終えた瞬間、空の絵も動きだした。
時間が来たのかな?そしてらあの魔術が再現したのか?
星が落ちてくる……いや……あれはなんだ?
「最後に見せて!私はもう未来なんて『見ない』私は!今の君を見る!私は決めたんだ!私の英雄を!」
そう言って、ここにいる4人の猛者の固有スキルを真似した力を振りかぶる。
「……負けたくないな……いや、負けるわけないか」
私の方を真っ直ぐ見つめてきた……ドクンと私の心音が鳴り響いた。
「約束したからな」
「……うん、約束したからね!」
「……いくよ……!」
最後の、衝突になるのかな?




