新しい世界へ
「……っと……」
意識がこっちに戻ってきた。
「おかえり、実に長い旅だったね……それじゃ、君が何を手に入れたのか、私にみせてくれ」
手に入れたのは、あの子の言葉。
「……『鯨が鳴いた』『嫌に悲しげな鳴き声だった』『今私が戦う理由は』『それだけで構わない』『彼が死を呼んでも』『私はあなたを愛してるから』『悪夢魔術』〈死鯨〉」
手をかざし、心にあの子を思い浮かべながら、思いを込めて、放つ。
「……っわぁ」
地面から、飛び出してきた真っ黒な鯨が、星空に真っ暗闇を生み出して、体をひねりながら空を舞い上がる。
「……なんだと!?」
これは……完全な自立!?
いつも身体から少しでも切り離しただけで、すぐに霧散したあの俺の悪夢魔術が、新しい世界へ飛び上がっている!?
「……な、なるほど……でも鯨が飛んだから、何?」
その言葉に、訂正させてやりたくて、何も分からないけど命じた。
「やれ!モルバ!」
モールバレーヌ、略してモルバだ。
そんな俺の無茶ぶりに、答えてくれた。
「……っわぁ、落ちてきたねッ!?」
真上からモルバが食らいつく。
すると、それを高速で避けるが……地面がまるで水面のように波打って、モルバは地中に消えた。
「……これは……どこに行ったのかな?」
俺にもそれはわからなかった。
ただ、今切り込めと言われた気がした。
アデサヤを抜いて、まっすぐ走り出した。
「「は?」」
リリーと俺の声が被った。
俺とリリーの距離はかなり開いていたはずなのに、もう目の前まで来ている……!?
「……っまてまて!!ちょっと待て!身体がおかしい!確認させてくれ!」
同じくその爆速で元の場所まで戻ってきて、自分のステータスを確認させてもらう。
それにコクリと頷いて答えて貰えた。
擬神の瞳が輝く。
カルカトス ナイトメア
年齢 18 性別 ???
種族 キメラ
職業 冒険者・魔王軍護衛兵
Lv 87
HP832
MP853
筋力 685
耐久 952
速さ 841
賢さ763
魔力 900
称号 『擬神』『神獣殺し』『古兵を綴る者』
スキル 我流剣術Lv15 ミラン流剣術Lv15 獣の五感Lv14 譲渡Lv15 悪夢魔術Lv21 呪術Lv20 精霊術Lv17 光魔法Lv25 擬神の瞳Lv2 斧術Lv4 弓術Lv6
装備品 アイテムボックス 剣聖剣 ラジアンの篭手 パックの篭手
固有スキル《限界突破》Lv14
状態 無関心 神憑き 限界突破
「……っやば……」
数値の上がり幅に驚きが隠せない。
「……もういーい?」
「っ!あぁ、悪い待たせたな……行こう!」
裸足のままで、走り出し、剣を振り上げる。
血の刃がリーチを伸ばしてくれる。
「リリー!」
「うんわかってるよラヴィ!〈星激百合〉!」
咄嗟に飛んできたその魔法を、余裕を持って、初見の魔法を篭手で弾く。
ラヴィの動きも見えてきた、この子、フィジカルはてんで化け物だが、武術とかを習っている訳じゃない、まるっきり、ズブの素人だ。
なら、やるのならこっちからか!?
「モルバァ!」
「っわ、忘れて……」
地面から大口を開けたモルバが現れて、リリーを口の中に含んで空に舞いあがる。
分断した!今!ラヴィを叩く!
「ラヴィ!!」
しかし、フィジカルは化け物なのは事実……同じく物理で戦わないと、多分剣を耐えてゴリ押しされる。
剣を収めて、飛んできた拳を弾く。
そしてストレートで殴り抜く!
カウンターを半ば本能的に狙ってきたが、頭をちゃんとガードしている……にしても痛いな……!?
蹴りを打ち込む、距離を取ったあと、また真っ直ぐ殴りかかってくる。
それをドンピシャのタイミングでカウンターを決めた……はずが、頭部をガードしている……さっきとは違うな!?
しかしまたさっきと同じように拳を飛ばしてきた……同じく弾き、その隙に……
「っ!?」
「……同じ手は、通用させない!」
その弾かれた拳に流されるように、身体の体制を崩した……かと思えば、今度はそのまま髪の毛が俺を切り裂いてきた。
「意外だな!髪か!?」
「女の子の……命だしね」
よく分からん答えだが……深いなっ!
そのまま身体を下に落として、蹴りが飛んでくる。
思い一撃だ……しかも、切られた傷に響く。
「……っ!やるな……!」
まずいな、近接戦なら圧倒できるはずが……圧倒されてきた。
魔法を使うタイミングもない……なにより
「……ごっめー!ん!!ラヴィ!大丈夫!?」
鯨の腹を割いて現れたリリー……あいつあんな上空まで運んでくれたのか……ナイス!モルバ!
「『私達はあなたを求めた』『私達はいることを知っていた』『なのにあなたはまるで幻』『今いるはずなのに手に触れられない』『……私以外はそう思えばいい』《高嶺之花世》」
……固有スキル……か!?
「カルカトス!君は私達に新しい世界を見せてくれた!
私達が見たかったもの!ラヴィと合わせてくれた!
それに!あの鯨の腹の中も、私は見た事なんてなかった、飲まれたことないからね!
そして!この満点の空の、更に上から下を見下ろすこの光景も!」
落下しながら、元気なやつだ、受身が取れるのか?
「……ねぇ!カルカトス!私『達』はもうやめた!私と!ラヴィだけで!今手に入れたこの固有スキルで!行かなきゃ!ラヴィ!!」
「今……!?今だって!?」
なんだと!?急成長……っどころじゃない!?
「見せてあげよ!新しい世界を!私とラヴィで……『精霊同化』!」
「こ、こん……?つぇ……」
知らない言葉の羅列に、特に反応してやれない。
しかしまぁ、ラヴィの方はわかったらしい。
「……うん!うんっ!わかった!しよ!リリー!」
うれっしそうな笑顔でそう言って飛び上がる。
落ちてくるリリーを受け止めるように、ジャンプした。
そして2人が空中でぶつかった。
その瞬間、虹の光が空をおおった。
光の輪が、まるで花びらのように、空を覆い尽くしていた。
それにただ、俺は笑うしか無かった。
「……なんだよ……まだ上があるのかよ……!?」




