初めましての再会
「……っおぉ、やーーーっと俺もサヨナラか」
いつかと同じように、ヘラヘラしていた。
この男はクロン ウェイパー、いつぞやの再会になる。
「あなたの力が借りたい」
そう単刀直入に言うと、彼は笑った。
「なーに言ってんだよ」
「……なんで笑うんですか?」
「……俺以上に頼りになるやつから、力を貸して貰えるからさ」
「……?誰です?それ」
「……さぁな、あってからのお楽しみだね」
そう言って、輝石を指さすと、それが光る。
「じゃ、俺の仕事はここまでだわ、頑張れよ『英雄様』」
馬鹿にされていない……半ば尊敬……いやあの目は、羨むような目。
「……サヨナラ、英雄サマ」
ニッと笑い、光と共に消えていった。
そして、代わりざまに現れた少女は、まるで俺のようだった。
俺と同じ背、同じ黒髪、同じ赤い目。
「……久しぶり?」
彼女は、半ば心配そうに、俺にそう聞いた。
俺が戸惑っていたからだろう。
「……あ、いや、初めましてだね……」
そう、誰だこの子は?知らない子が、クロンさんのいう、頼りになる人?
「……そう、はじめまして……かぁ。
うん、良かった、そうだね、初めましてだよ、カル」
俺の名前を何故か知っている少女は、嬉しそうな、安心した様な、そして、何よりも悲しそうで……俺の名を読んだ。
「……あぁ、ところで君は?」
「私の名前なんてどうでもいいでしょ?今一番大事なのは、戦う相手に勝つこと」
「……だね」
確かにそうだが、気になるものは仕方ないのだ。
なんだろう、この子と話していると、胸騒ぎが止まらない。
「……私が、あなたにあげられるものは、ほとんどないの。
だって私は、あなたにありとあらゆるものを貰ったから。
感情も、名前も、生きる意味も、愛もくれたし、何よりも、私を幸せにしてくれたあなたに送るものが何も無いだなんて少し心苦しいの」
そう言って、俺に一歩近づいてきた。
「ラジアンさんとはどう?もう付き合った?」
「っな!?なな、なんで……か、関係ないだろ!?」
そう言うと、凄く悲しそうな顔をしたあと、イジの悪い笑みを浮かべ……
「だね〜、でも気になるなぁ?どこまで行った?チューは?」
「っま、まだだよ!」
「へー!そうなんだぁ!」
すごく嬉しそうな顔をしている。
そんな彼女の顔が見れることに、何故か心落ち着いた。
「私がね、あなたにあげられるものは、悪夢魔術の、その先」
「『悪夢魔術』!?なんでそれ!?」
俺の、俺だけの、俺以外には与えられていいはずのない魔術。
「……いいから、次に、目を覚ました時、こういって?
今までで1番思いを込めて、大切で仕方ない人を守るために、自分の全存在を賭けてでも、今を勝つために、詠唱して」
「……な、なんて?」
「『鯨が鳴いた』『嫌に悲しげな鳴き声だった』『今私が戦う理由は』『それだけで構わない』『彼が死を呼んでも』『私はあなたを愛してるから』『悪夢魔術』《死鯨》」
六節詠唱、立派な大魔術。
「……なんで、悪夢魔術を」
「なんでなんていいの、私はもうすごく満足した、贅沢言えないよ。
ねぇカル、この魔術を使う度、私を少し思い出して。
私の、絶対に言っちゃいけないワガママだけど、どうか聞いて、うんって言って」
「……あぁ、わかったよ」
そう言いながら頭を撫でる。
無意識の事だった、ほんとうに体が勝手に動いた。
「……あなたはどこまで行っても、あなたなんですね……さぁ、戦いましょう、滅ぼしましょう。
あなたは終末論そのもの、命を摘み取るもの、花ぐらい、造作もないでしょ?」
「?何の話だ?」
「……あなたの名前の由来、ですよ。
命を摘み取るや、淘汰を意味する『カル』と終末論
命を選んで奪って殺して、他を全て淘汰する。
そんな世界の終わり際に、あなただけが生きていて、終末論を綴れる。
貴方はそんなふうに名ずけられたの」
「……なら君の名前にはどんな意味が?」
そう言うと、とても優しい笑顔で
「『永遠の愛』よ」
「……そうか」
「私は、名前の意味通り、今でも愛してるんです、その人を」
「幸せだな、そいつは」
「……ですね、そしてこれからもっと幸せになるんですよ」
「なんで分かるんだ?」
そう問返すと、悪戯っぽく笑い
「……ずっとその人を思ってたから?」
そう言った。
「バイバイ、カル、私の言葉忘れないでね、必ず使うんだよ?」
「……あぁ、次の段階を、見せてもらうよ」
悪夢魔術のその先を。
永遠の愛を意味する彼女の名は知らない、が、何故か胸がチクチク痛い。




