ホシノキセキ
「そうだ、ひとつ聞きたいことがあるんだった」
「?」
思い出したように口を開く。
「君の『英雄』とは、なんだろう?」
そうたった、そんな質問をされていた。
そしてこれもまた未練だった。
色々な英雄を見てきた、守護者も、今を生きる英雄も、そして、アルマティアも見てきた。
「『英雄とは、己の正義を信じて疑わない者』だ、破滅的に利己的な者も、盲信で、狂信者でも、何かを信じて、真っ直ぐなら、英雄だ」
だから、俺はまだ、英雄にはなれないんだ。
その言葉を受けて、目を瞑り、咀嚼して飲み込んでいる。
そして小さく一言、それだけで十分だ。
「……行こうか」
剣を抜いた2人が花の丘を走る、駆ける。
同時に振るわれた剣が、火花を散らした。
俺とリリーの2人は、笑いながら剣を振り続ける。
するりするりと避けながら、笑顔は絶えない。
「……行くぞ!リリー!」
右に左に体を振り、フェイントをかけながら剣を振ると、それを受け止められる。
剣をぶつけた時、それと同じ以上の数の花が咲く。
「火の花が!咲き誇ってるね!」
お互い弾かれあい、離れる。
少し距離が空いた……これは、ぐるっと回りながら、勢いをつけ……て!
視界の端のリリーも、同じようなことをしている。
その勢いそのままの剣が、激しい音を鳴らして花咲かせる。
我流剣術の構えを取って、下から上に切りあげる……!
「っあっはは!負けないよ!!」
それを正面から叩き潰す気か!?
上に振りかぶり、そのまま真下に振り下ろす。
剣と剣が何度もぶつかり、少し硬直状態になる。
その戦いに、皆目が奪われた。
観戦所から眺める3人と……少し蕾の開いたホシノカケラ
「「……はぁあ!!」」
剣をぶつけ合い、少し距離を取ったあと、真正面から、そして一瞬の速さでお互いが横を抜け二本の剣閃が走り、世界が割れたかのような美しい火花を咲かせた。
そして、お互い頭を下げる。
その時、リリーの方だけ、傷を負った、肩から下に斜めに切り傷が。
「……剣じゃ、やっぱり敵わないなぁ……」
その血を手に塗り、ぺろりと舐める
「不思議だ、治らないなぁ、この傷……カルカトス、君の掌の傷も治らなかったよね……まさかかな?」
そのまさかだ、血は、流れることを止められない、傷は決して塞がらない。
「……どうかな?ホシノカケラ……っ!!」
そう言いながら、目線を横に2人ともやると、目を見開く。
そう、それは……ホシノカケラだ、蕾じゃない、花だ、咲いた!
辺りの精霊たちが姿を現し、その開花を自分のこと以上に喜んでいる。
咲かせるまでに苦労を沢山した、だが、それらが余りあるほどに、労いと言うにはあまりに美しすぎる虹の花びら。
その真ん中から、小さな小さな小精霊……が大きくなって……大精霊ぐらいの大きさになった。
腰……いや、膝に届くほどの長い青白い髪、そしてあの絵で見た虹色の瞳。
ホシノカケラ?違うだろ、この世のどんな星よりもよっぽど美しすぎる。
「……あぁ……あっはは!あぁあ!咲いた!咲いたよ!ホシノカケラが!奇跡だ!これが、やっぱり起こった!起こせたんだ!!キセキを!!」
嬉しそうな顔をしている。
「……ありがとう……綺麗で、楽しい。
凄く、嬉しい、ありがとう」
ホシノキセキが、そう礼を言った。
それだけで、俺でさえも救われた気になった。
「……どういたしまして」
「こちらこそ、ありがとうって言いたいぐらいだ」
そしてリリーの身体が淡い光に消えていく。
この花を咲かせることが、彼女の未練、最大の未練だったんだから、当たり前か。
「……じゃあな、リリー……」
「……だよ!」
「……っえ?」
何か、声が聞こえた。
「まだだよ!私は!まだまだ!今!最大最高の未練が見えた!」
そう言って口を開く……まさか……!?
「ねぇ!ホシノカケラ!君の『名前は何!?』」
名前を聞く、名前は、とても大きな意味がある。
「名前?……は無いから『頂戴』」
お願い……オネダリ……いやアレだと、まるで一つの命令のような?
「へ!?私が名前付けるの!?」
そう言っているリリーの光は消えていく。
新しい未練を見つけたな……!?
「うん、頂戴」
「……名前はね……そうだ!『ラヴィ』!」
その瞬間、風が吹いた、とても熱くて、冷たくて、甘い香り。
「……うんっ、私は 『ラヴィ』!」
その声に、鳥肌が止まらない、やばいどころじゃない……そうか、あの子は守護者じゃない。
『全盛期そのままの力でここに来た』んだ。
嬉しそうに笑うその笑顔は……滅びを呼ぶ死兆星であり、天地開闢の朝日のようでもある。
「カルカトス!ごめんね!新しい未練が!でも、とびきり大きな未練ができたんだ!
あのね!私は!『ラヴィと一緒に君と戦いたい』!」
ふざけるなと言いたいのに、逆なら俺もきっと……必ず……絶対にしたことだから、口が開かない。
「いこっ!ラヴィ!私たちが起こそう!ホシノキセキを!ホシノカケラなんて所から抜け出して!新しい物語を!ね!『ラヴィ』!」
「うんっ、いこ……リリー!」
あぁ、なんて事だ……俺はなんて幸せなんだろう?
「……来い……俺の全てで相手する」
精霊同化も、輝石も使う。
かなぐり捨てて、勝利を掴み取る。
勝ったやつが正義、守れたやつが正義。
自分のしたいことで来たやつが、俺の正義……俺の英雄像。
「行くよ!」
丘の上で、リリー剣の形が変わる。
虹色の星屑が……カケラが重なり合って、剣になる。
勝負は……始まってすらいなかったんだな




