八十層の守護者
「……貴様の見せてくれるものには、期待しているぞ」
「僕も楽しみにしています、どんな戦いが見れるのか……!」
「カル、頑張ってね……!」
3人に、そう背中を押され、花畑に皆降り立った。
ここに来るまでの九階層の精霊は、皆、口裏を合わせたかのように道を開けてくれた。
「……おやおや、おやおやおや?これはこれは、とてもとても珍しいお客様だ」
椅子に座り、ニヤリと芝居口調で話しかけてくる。
「ここは私の、私だけの秘密の花園、八十層の名ずけて……『精霊花壇』そんな私は《八十層の守護者》っと、くれぐれも間違えないでくれよ?
私は『ガーデンのガーディアン』じゃない『迷宮の守護者』だ」
そう言いながら立ち上がり、パチンと指を鳴らすと、椅子が光に消えて、地面が盛り上がり、そこから花でできた観戦席ができ上がる。
「申し訳ないが、招待状をもちあわせていない人は、そこでゆっくりと見てください……今そう言う『ルール』をつけました」
その手際の良さは、七十層のアレを思い出す。
この、リリーは、馬鹿っぽいが、今までの誰よりも……下手をすればフレイ並に上手く扱えている。
「……時の刻も、よろしいでしょう……では、踊りましょうか」
またパチンと指を鳴らしそう言った。
夕焼けが、満天の星空に包まれて、消えた。
その幻想的な世界に声が漏れた。
「……さぁ、行きましょうか……『花剣』」
そう呟くと、花が武器の様に形をとる。
「私は、ここにいる精霊、全てが私の口であり……目であり、そして私の力よ」
本気の顔だ……けど、笑ってもいる。
掌が盛り上がり、そこを突き破ってアデサヤが顕現する。
「……ったいな……相変わらず」
ドバドバと血を流しながら、剣を握る。
リリーは、そんな俺を見て、剣を上に向け、軽く振るう、それはまるで、魔法使いのように。
「『炎天』『満天の星の元に』『夜さえも焼き蝕め』『あなたは新たな星よ』〈赤百合〉」
パッと、光が空を包んだ。
ただ、俺には、多分俺だけが理解した。
「……っはは、やべ」
精霊魔法……いやこれはどちらかと言えば
「『精霊魔術』かっ!?」
夜空の星が、あの満天の星が、例えるなら、夜に太陽が現れたかのような。
しかしその火は、花は焼かず、俺へ花の形をした炎を飛ばしてくる。
「よく避けるね」
こちとら全力ダッシュを強要させられる。
当たれば、不味い、そのくせ当てに来ている!
「っ!これは……本当に強いな!」
今まで弱い守護者なんて1人もいなかった!だが!やはり言わねばいけないと思った。
「『蒼天』『空の灯りを』『星の輝きを』『水に閉じ込めよう』『あなたも水に』〈青百合〉」
空に水の球が浮かび上がる。
それが……無数に!?
「っ!?どこからこんなに!?」
「そりゃ、青精霊ちゃんたちよ」
その瞬間、地面がグジョッと音を鳴らした瞬間、俺も水の中に閉じ込められた。
これは……いや、溺れることは無い、落ち着いて泳いでいけ。
しかしどれほど泳いでも、まるでダメだ……俺を中心に水球が動いている……!?
しかし、俺の掌から流れ続ける血が、煙幕のような……た、タコ墨みたいな?
「『翠天』『頬撫でる柔い風』『君はその風の匂いに』『英雄を垣間見る』『何よりも雄弁に風が語る』〈緑百合〉」
その水球の中で浮かされている俺目掛けて、明らかに当たってはダメな風が、無数に飛んでくる。
およそ地上にいたとしても回避困難なソレを、どう避けようか?
「……うん、やるね、流石だよ」
剣を地面に刺し、拍手を俺に送る。
「……いったいな……危うく死ぬところだった」
身体の形を変えて避ける。
身体を直ぐに切り離して、そして小さい核をベースにまた動く。
俺に核の概念はないから、あくまでイメージってところだ。
髪をかきあげる、笑って口を開く。
「まだまだ、いけるぜ」
「だよね、それじゃ、次は『何をしようか?』」
その言葉に、違和感……いや、鳥肌がたった。
「リリーも、使えたか……精霊言語……!」
しかし、恐れたのはその声、まるで慈しむか、愛おしいのか、庇護しているのか?守っているのかも……分からないが、最愛の人では済まない、ある主狂気的な問いかけの声。
「……美しい……舞が………みたい」
その空気の揺れに、言葉に、ほんの小さな囁き声なのに、世界中のどの音よりも、俺の耳が、本能が優先して聞き取るべきだとでも言ったかのように、耳に真っ直ぐ届いた。
「……ホシノカケラ……!?なのか?」
「誰の舞が見たいの?」
「……あなたと………もう1人」
2人指名された……多分俺とリリーだ。
「じゃ、あの人は?あの人と私は踊りたいな」
「……俺も、それならいいよ、リリーとなら、構わない」
そう言って、2人とも示し合わせたかのように剣を抜く。
美しい花々が織り成す美しい花剣と、禍々しく蠱惑的な赤い剣。
きっと、絵本にこんなのないだろうが……でも、それは昔の絵本の話だ。
色褪せて、形が変われば、こんなこともあるかもしれないじゃないか。
今より蕾に見せるのは花と血の舞い。




