ハングリ アルグロウド
アルグロウド様は、非常に強力なお方でした。
先に語るべきは彼の半生でしょうか?
彼は、世の中でもひと握りの者にのみ与えられた、固有スキルを持っていました。
我らの剣聖ですら、持っていなかったものです。
以前に、お茶会を飛び出して、どこかへ散歩へ行った時、私は共に彼と歩きました。
「……俺はよォ……昔に、とんでもないことをしでかしたんだ……2回」
指を立ててそういった、表情が笑っていたら、写真に切り取りたいような指でした。
「とんでもないこと?……お聞きしても?」
『なんですか?』と安直に問えないほどに、その顔に影がさしていた。
「……俺の固有スキルは、恐ろしい程に強いんだ………俺の身の丈に合わないほどに」
そのご説明されて、初めてその能力の凄さを知りました。
自分が今まで食らってきたものの治癒力をため込める。
そして、自分が今まで食らってきた種族からのあらゆる攻撃を無効化する。
その代償に、猛烈な空腹感と、それに操られるように辺りのものを喰らう。
「俺はそれで……俺に大切なものを与えてくれたものを壊してしまった……」
「……それは、なんでしょう?」
「……1つは家族、俺に名を与え、俺に愛をくれた。
もう1つは仲間、黒い竜の俺を迎えてくれた、あの里を……全部喰っちまった」
力なく笑い、石を蹴る。
その様子が、酷く悲しそうな顔に見えた。
「……私たちは、安心していいですよ」
「……っえ?」
「誰でも貴方を止められますから、そして、あなたもまた、あなたが止められます……『六罪』ですから」
「これから罪を犯す俺達の中で、俺だけが罪を背負ってるんだよな……」
「……へ?そんなことありませんよ?」
「え?」
「いや、私たちを慈善団体か何かと勘違いしてませんか?
あのですね……私たちを侮らないでくださいませ、私たちはみな、人を殺した数で話ができるほど生ぬるくないんですよ、だって今から国を壊すんですよ?」
私は、あえて半ば呆れたような顔をして、彼に話しかける。
「……っはは!確かに!言えてるな!
俺なんて、まだまだひよっこか……っはは、面白いこと言うな!メイド!」
「シャルロです」
「シャルロ!お前は人を乗せるのが上手いなぁ」
「……褒め言葉と、受け取ります」
そういうと、ニカッと笑い、
「あぁ!褒めてるよ!」
無邪気に笑う人でした。
我々が作戦会議をした時、彼は珍しく自分から手を挙げて発言した。
「サクラ グランドには、俺にやられさせさてくれ!」
おそらく私の人生で初めて聞いたおねがいの仕方だった。
「いいけど?アレかな?」
剣聖はそう言って目を向ける。
「あぁ!俺はあいつの家族を、仲間を、産まれ育ったあの里を食い滅ぼした。
そんな、悪役の俺を殺せるのは、英雄になる主人公だけだろ!?」
両手を広げ、軽快に笑いながら、そう問いかけてきた。
「……うん、君には色々してもらってるしね、お願いさせてもらうよ、君ももう立派な英雄だしね」
「……やめてくれよ、英雄なんて、そんなの喰っちまったしよぉ」
比喩じゃないのが、恐ろしいが、彼は確かに自分の命を投げ出してでも、昔の罪を精算しようとしていたし、トラウマに向き合ったし、何よりも……彼もまた、だからこそ英雄なのだ。
黒竜ハングリ アルグロウドここに眠る




