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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
慈善団体『六罪』
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歴史的な今日【カルカトス】

「……うん、分かった、ありがとう」


「いえいえ、お気になさらず」


 エンブラーさんは、死にかけていたが、ギリギリ生きていたらしい。

あの雷撃に打たれたあと、魔王様が引っ張ってきて助けた。

今は、死者の確認だ。


「……はい、分かりました、これで全員ですね」


 死人のリストが出来上がった頃、日はとっくに落ちていた。

そして、今か今かと、ずっとヘルヴェティアの皆は魔王様の言葉を待っていた。


「あまりみんなに待たせてしまっては身体に毒ですからね、行ってきます」


 そう言って、壇上に立つ。

ざわめきがいっそう強くなったあと、静かになった。


「……皆さん、戦争は、終わります……とても辛かったでしょう。

大切な人が帰ってこないかと怖くて夜も眠れなかったでしょう。

それが実際のものとなってしまった人もいたでしょう」


 そういう人も、確かにいるだろう。

この戦争は、国で決めたこと、みんなで決めたことだから、誰も文句は言わない、けど、悲しみはした。


「この戦争は、泥試合になっていた可能性も大いにありました。

そうなれば、死者は今よりもずっと多くなったことでしょう、しかし、我々のほとんどが生きて帰ってこれたのは、この戦争の影の英雄、そして、とんでもない大犯罪者達のおかげなのです……皮肉にも、それらは我々のヘルヴェティアを爆破した犯人でもあり、同時に、世界を救ってくれました。

明日からお互いを分かり合うことはできないかもしれません。

しかし、あの爆破犯達ですら、種族の壁を乗り越えて、一致団結し、平和のためにと、戦ってきました」


 確かに色々な種族が、色々な立場の人が、色々な人達があそこには集まっていた。


「我々の考えを少し改めるだけ、1歩近付くことが、その1歩こそがとても大きいことなんです

だって、向こうもきっと一歩寄ってきてくれるから……お互いを信じ合うところから、始めましょう。

そしたら、今度はみんなでインセントに課外学習に行きましょう。

そうして、一歩一歩お互いが歩み寄って行ければ、いずれは、世界が平和になるかもしれません」


 そう、可能性の話なのだ。

だが、元来平和を望んでなんぼだ、平和な方がいいに決まっている。


「ここに宣言します、我々は……命をかけたあの英雄達に誓い、人々と手を取り合い……世界平和を実現します……!」


 その言葉に、果たして誰が反対しようものか?

みな手を叩き、肩を組み合い、戦争の終わりを喜ぶ。


 今日はきっと、歴史に残る、そんな日だ。

この歴史的な日……4月12日を、みな忘れないだろう。


 そして、この日を境に……世界がほんの少し良くなれば、いいな。


 そして、この日を境に様々なことが変わった。

例えば……そう、例えば、ヘルヴェティアの復興に、人間が来たんだ。

ネルカートみたいな遠いところからも、何人か来てくれた。

魔族も何人か、空を飛んで向かっていったな。

後はラジアンがとんでもなく強くなったり……人間の方の話はまた今度だ。

四天王は何人も減ってしまったが……そもそも四天王は撤廃された。

今は王直属護衛兵と呼ばれ、今は俺とラジアンとナルヴァーがいる。

エンブラーさんは貴族としてまた元通り、人間と仲良くやっているらしい。


 他にも、技術の交換会なんかもやっていた。

鍛冶の技術の交換には、懐かしい顔が見えてもした。


 世界は確かに平和になっている。

とてもいい事だ、思い返してみれば、何を一体争っていたのかと、バカバカしくなるほどに。


 まるで、最初からそう言うことわりだったのかと思わされるほどに、酷くあっさりと俺たちは仲良くなれただろう。


「……ペルソナ、ルロック……2人とも、ありがとう」


 墓場で俺はそう呟いた。

次部下の墓参りと……後はネルカートに戻って、あの3人の墓参りかな。



 そうして一ヶ月ほどだった頃。

陽光が照り、春の日差しが暖かくなってきた。

そんなある日、俺たち護衛兵と魔王様の四人で、ネルカートに赴いた。


 ネルカートの王が、壇上にいて、そこに魔王様が歩いていく。

ネルカートに、たくさんの魔族の人たちもいて、目を輝かせている。


 二人が壇上で顔を合わせ、お互いが手を握りあった。

その瞬間、俺たちは拍手した、指笛が聞こえた、人と魔族が肩を組んだ、ブーケが投げられた、鳥が羽ばたいた、今目に映るその全てが、俺たちを祝福してくれているように感じた。


 俺はまた、迷宮探索を行うことになった。

魔王様から暇を頂き、そして、ネルカートから大迷宮(ダンジョン)攻略の願いが出された。



「ねぇ!!カル!」


「どーした?ラジアン」


 頬を膨らませ、俺をあだ名で呼ぶようになったラジアンに、酒を片手に問う。


「なんで!ナルヴァーもいるの!?私たち2人だけで飲むんじゃないの!?」


「す、すいません!?僕はそれじゃここで!」


「そう言うなよラジアン!なーナルヴァー、こいつも戦ってくれたんだ、頑張ったんだから労わせてくれよ」


「……ぼ、僕なんておふたりに比べたらそうそうに戦えなくなってしまいましたし、まだまだですよ……」


「……わかったわよ、ナルヴァー!強くなるとかはまた今度!今は飲みましょ!私たち護衛兵の未来に!」


「我らの未来に!」


 2人がそういった後、俺になにか言えと顔を向けてくる。


「………我ら人と魔族の未来に……」



「「「乾杯っ!」」」

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