虚無の魔女
「一騎打ち……!」
その言葉が私の中でさらに響く。
「行こうか……!」
そう言って、走り、詰めてくる。
両手を左右に向けて、黒い玉を放つ。
あれは確か師匠が教えてくれていた、特殊な回転のかけ方をしているから、一度跳ねて、相手の死角から飛んでくるのだ。
「っ、なら私だって!」
角度はいつも師匠しだいだ、だから私は、棒を使って2つ叩き落としながら、回って身体を沈める。
「っ!上手いな……」
上段の蹴りを、沈めることで上手く避けた。
そして、師匠の教えてくれた魔法の中には地面に触れるものが沢山あった。
「何を………つかう?」
その私の魔法を心待ちにしているようにも思えた。
「……『黒魔術』〈反発斥力〉」
距離を離す……なんて生易しいものじゃない、吹き飛ばす魔法。
「っっ!なるほど………?」
「今ですっ!!」
私が叫ぶと同時に、地面から水が染み出て、ジュクジュクと地面が泥のようになる。
「なに?………スパニー ジェル……か?」
蒼白の魔女、その魔法が、地面を深く沈没させる。
「驚いたが……それで?」
距離を離され、その沼のような地面を、足を上げてこちらに走りよる。
「お願いしますよ!」
そのその瞬間、紫の雷が、煌めく。
私の横をつきぬけて、私の足元だけは濡らさないでいてくれている。
「…………こ、これは………サンガド……バリッサ!?」
紫電の魔女、その雷撃に撃ち抜かれる。
「流石はお2人です、よく生きていましたね」
「……まずは先に………」
「……私はもうパス……動かない」
2人とも起き上がろうとしたが、難しいらしく、スパニーさんは片膝を着いて
「………すいません、私もです」
そう言って戦いに参加することを諦めさせられた。
「……少し………舐めていたな」
しかし、その隙さえあれば勝てる!
「『虚構魔法』!」
私の師匠の技を使う。
その魔法は、別段すごいわけじゃない、魔法名さえ言う必要は無い。
単純な魔法なのだ、それは、簡単な話し、レンズを作るようなもの。
いや、どちらかと言えば鏡?
本来なら陽動などに使うが、私はそれを沼にハマらぬように歩くための板とする。
「師匠!行きますよ!」
そして、杖を真っ直ぐ先端を向け、声を出す。
「『黒魔術』〈四重苦〉!」
その魔術は、相手を押し潰し、力がだせなくなる、だけでなく、魔法は使えなくなり、何よりも、甲高い音が耳を潰す。
「……『静まれ』」
そう呟くだけでそれも抜けられた。
だから、その沼の中の師匠を上から叩き潰す!
私ができる、その黒魔法の、最大限のデバフをバフに変えて!
「……上手くなっだじゃないか」
初めて褒めて貰えた気がした。
その攻撃を、体を逸らして避けられた。
その勢いに乗り、沼から飛び出した。
下半身は、どこも汚れていなかった。
「『黒魔術』〈黒城壁〉」
珍しい、デバフ系じゃない、呪いのような類でもない、ただの黒い壁。
しかしそれが越えられないのだ。
「さぁ、どう超える?」
いかなる魔法も無にし、打撃斬撃も通さない……触れる前に力が弱まる。
一見無敵の壁だが、上限もあるし、師匠曰く簡単に打ち壊される。
しかし今の私では破壊は困難だ。
「……『虚構魔法』『我が師は無にして優』『我が師は黒く無』『いかなる壁も』『無きものに』〈消失の四肢〉」
光がまとわりつく……最上位の魔法は、ほとんどが動物の形を象るのだ。
竜、鳥、猫、蛇。
そして、師匠はよく言っていた。
『あなたはあなたの道を行きなさい、道を切り開く……ただし、孤高ではいけません。人間らしく、おゆきなさい』
私が象るのは……人間だ。
私の腕に被さるように、その薄い何かが覆う。
その右手を、振りかぶり、壁を殴る。
全てが削り取られ、その壁越しに、師匠をきっと貫いた。
「……っ……よくやったな」
壁が霧散し、腹部が諸共消えた師匠に駆け寄る。
笑っていた……あの恐ろしい笑みじゃなく、とっても優しい顔をしていた。
「いい師を持ったな………そして僕もいる………誇りだ」
そう言って私を褒めてくれる。
私は師匠を腕に抱き、膝の上に乗せて話を聞く。
「僕にも昔………師匠が居た………師匠は今から百何年も前の魔女狩りの被害者だった………死ぬのは嫌だ………でも、師匠は、不思議なことを言っていた」
その言葉の続きには聞き覚えがあった。
私にも、その不思議な気持ちがわかったから。
五十層のあの守護者と戦っていたころ。
『師匠!!?』
『……グエル……怪我はない?』
私がキメラに不意をつかれたところを、押し飛ばし守ってくれた。
すぐに抱き上げるも、その傷は間違いなく治さなければ死に至る。
『師匠!傷が治らないのに!なんで無茶を!?』
『……弟子を見捨てて、死ねるかい?』
『……っだからって!?カルカトスさん達はどうするんですか!?』
『……心残りはあるさ………でも今はただ……そう、ただ』
「『ただ、君の胸の中で死ねるのなら、私が生きた気がするんだ』と言っていた」
その言葉は1語さえ違わなかった。
そして、ザントリル師匠は続けて言う。
「僕にも、今それがわかる……こんなにも優しい弟子に育ったんだ、僕みたいになるなよ」
「……あなたみたいになるのが目標ですよ」
そう言って、私は泣いてしまった。
そして、師匠は初めて、驚いた顔をした。
「!……面白いな……あの時の僕と同じことを言ってるね、ただ……1つ反省させるのなら……」
そう言いながら、震える手を持ち上げて、涙を人さし指ですくいながら、言った。
「敵が死にかけだからって………近寄りすぎだ」
ピンッと、私の額を指で弾き、そう言いながら死んで行った。
それがいいところだよ、と微笑みながら。
私の額を弾いた手には、ペンダントが握られていた。
きっとこのペンダントも、彼の師匠のものなのだろう。
私と一緒で、師匠と共に戦ってきたんだろう。
ふと思った。
「……なんだか似てますね、私たち」




