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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、戦いの中で生まれる者だ
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氷鬼【カルカトス】

「………ミラン……力を貸してくれ!」


 そう言って、愛剣を、ついに身体に取り込む。

これは、輝石じゃなくて剣だと思ってた。

知ったあとも、ずっと俺の剣だった。

俺と、ミランの、友情と、約束、お姫様がくれた、一振の剣。


「……お姫様か、やっぱりそう言われるとキュンと来ちゃうね」


「ミラン!久しぶりだな!」


「うん!久しぶり〜!頑張ってるね、それに相手はフブキさんかぁ」


「ん?知ってるのか!?」


「知ってるも何も、同じ時代を生きてたしね。

ま、私は生まれて直ぐに迷宮入りしたから、どんなに強くなったかは知らないけど……あれは、めちゃくちゃだと思う。

お父さんのネーヴェさんとは何度かあったことがあってね、圧巻だった、最強の一言に尽きる」


 あのミランが手放しにそう褒めたのだから、間違いなかったのだろう。


「弱点は!?その人の!」


「ないね、強いて言うなら、愛が強かった。

それが起因して、負けてなかったけどね、負けられないんだ、魔王だから」


 そ、そうか、確かにそうか。


「私がカルカトスに教えられるのは……やっぱり剣術。

私の剣は、私の求める、最高の剣術、無敵で、最強」


「……その剣術を、おしえてくれるのか」


「もう身体にはあるからね、あとはそれを更に深く染み込ませる。

その剣は、私の求めた剣『姫を守る王子の剣』誰かと共に戦うことで、より!一層!いや!四十層強くなるよ!」


「……っはは!ありがとう、久しぶりに話せて本当に良かった。

ありがとう……髪の毛の色も変わったのに、俺のことを覚えていてくれてありがとうな」


「いいよ、別に私も頼って貰えて嬉しいし、ささっ、頑張ってね、きっと君たちならやれるよ」


 視界が元に戻る。

待っていてくれたらしい、フブキは俺と目が合いなおしたのを確認したあと、今度はラジアンの方を見た。


「ねぇ師匠!私決まったよ!決心はついた!お願い!師匠!!

『何者をも支配できる力』を!精一杯の横暴を!頂戴!」


『それでいいんだね〜?解釈違いが起こっても、怒らないでね』


 そんな声が聞こえた……願った力、支配できる力……?


「っし!レッツ……ルーレット」


 瞳を閉じて、パッと開いた。


「今日の目玉は〜!『凝壊ぎょうかいがん』と〜『潜影眼せんえいがん』!」


 左目は、中心に赤い点、その他には砂嵐のように灰色が。

右目は白い光の点が、そのまわりは真っ暗闇。


「百の瞳ははったりではなかったか!」


「……2人とも!サポートする!だから!全力で!戦って!」


 《七十層の守護者(セブンスガーディアン)》直々のおねがいだ。


「行こう!カルカトス!!」


 パッと、目が合った、すごく楽しそうに、笑っていた。

その笑顔に、いつもつられて笑ってしまうんだ!


「あぁ!お前は、俺が守ってやる!」


 地面を強く蹴って飛び上がる!


「来るか!英雄!!」


 氷の刃が幾本も空を舞う。

手のひらをこちらに掲げる。


「っ喰らえ!」


 内蔵の辺りに、ヒヤリとした感覚。

咄嗟に胴体に穴を開けて回避する。


 そして、飛び上がった俺の身体は結晶の波が攫ってくれる!

体から置いていかれた氷塊とはおさらばだ!


「っわぁ!!すごい量の氷だ!人生でこんなに見ないよねー!」


 そう言ってそれを捌いて前へ進もうとするラジアンに叫ぶ。


「お前は!前に!俺が全部から守る!何に変えてもお前は前に行け!」


 そういうと、笑顔を崩さずに、大きく加速した。

俺ですら目で追えない、あの高速で走る。


 それについて行くように並走できない。

だから俺は、今だけ固有スキルを使う。


 人に付与する場合は自分が使えないという弱点がある。

そして、このレベルの相手と戦うには次の戦いに響くことも考えないといけない程に出力を出さざるを得ない。

しかし、出し惜しみして死ぬ訳にはいかない!!


「……おれはっ………《限界突破(リミットブレイク)》!」


 詠唱をしようと息を吸うと、肺が痛いし、置いていかれる。

詠唱なしで!いきなり走れ!


「カルカトス君!剣は!?」


「作る!」


 腕に切り傷を作り、そこから剣を引き抜く。

アデサヤ、ミランの剣技を、これで使える日が来るとは!


 完璧に守りぬける!俺の体を犠牲にしてでも!


「クレイア!結晶を!さらに前へ!」


 ラジアンがそう叫んだ、それに答えるように、コンマのズレもなくいきなり進む!


「『潜影眼』!」


 ドプンと結晶の中に沈んだ。

そのおかげで、体内に氷塊を出す魔法を対処出来ている!


 なら、その結晶にダメージが与えられないように、立ち回る!


「遂にここまで辿り着いたな!もう今の貴様らからすればあの程度の弾幕さえも生温いな!」


 そう言いながら、氷の篭手に覆われた怪腕と腕を振るい、結晶を破壊する。


 そこからラジアンが飛び出す。

その横に俺も寄り添う。


「こい!貴様らを本気で!潰す!」


 ラジアンに襲いかかる四本の腕、上手くここで受け流す!

折れず!曲がらないなら!証明してみろ!


「っグッ……ぐあぁ!!」


 気合いで攻撃を受け流した!いけた!

しかし、その氷の篭手に触れた部分から氷が擦り寄って、腕まで一気に凍らせた。


「っ!剣が!動かない!?」


「大丈夫!?カルカトス!」


 今なら、ラジアンの刃も十分に通る……その剣から出てくる黒いナニカは……闇魔法じゃないし、アズナスの魔力でもない……これは?


「この黒は!固有スキルの檻か!」


 そうか、あれか!?

さすがにフブキにはバレてるみたいだが、傷は入った。


「正解!凄いねやっぱり!」


 そう言って笑っている顔も、雪にあっという間に覆われて、真っ白になっていく。


 わずか数秒の間のことなのに、すぐにお互い体が軋む!


「〈熱血(ハイスヴァルム)〉!」


 血液を、剣から出して、高温に!常に熱し続ければただの雪よ!


「ラジアン!」


 ラジアンの顔と腕に俺の血を付ける。


「あっちゃ!?あちゃちゃ!?」


 そう言って焦りながら、目を相手と合わせる。


「『凝壊眼』!」


 ギュルッと回ったあと、篭手と腕がねじれた!?


「カルカトス!せーので突くよ!?せーの!」


 いきなりだが!合わせられる!


 突いた瞬間、剣がグニャッとねじれて……直ぐに戻る。

折れず、曲がらない剣にできない、捻りの力も加わった!?


「っぐ!?面白い魔眼の使い方だな!ラジアン!」


 終始握っていたペースを手放させられる。

背後の怪腕が同時にパンチを飛ばしてくる。


「ラジアン!攻めろ!」


 片方を剣で受け流し、回転し、そのまま俺の体を前に投げ出して受け止めろ!


「か、カルカトス!」


「大丈夫!」


 本当は全然無理だけど……弱音は後で吐け!


「クレイア!」


 紫の水晶、その弾力に、足を預け、吹き飛ばされた勢いを倍に!跳ねろ!!そしてその瞬間に、固有スキルを解除する!


「触れたら!勝ちだ!」


 ラジアンの方は……胸を叩いて……雪が解けていく?

この爆音は……ラジアンの心音?まるでサクラだ。


「っ!っはは!お前!腹に穴が空いてるのに!なぜ!?」


「大切な人を置いて!倒れるバカがいるかよ!?」


「えっ!?」


 ラジアンの心音がまたペースを上げた。

後ろに引こうとした途端に、壁が辺りをおおって逃げ場を無くす!


「タッチ!捕まえた!」


 氷鬼、溶けてくれよ!?


「《限界突破》!」


 触れたところは……怪腕!だが……切り離された!?


「まだまだや!!我は!……『私は』まだ負けへん!人生最大の!最後の本気や!」


 角が、ひとつに交わり、一本になる。

そして、身体から発される冷気が、更に強く!?


「っ!ラジアン!任せる!」


 アデサヤを投げ渡す。

『支配』できるよな!?


「っはは!わかった!やる!やるね!」


 十字に上半身を切り裂いた。

熱血と、夜の冷たい剣閃。


「っづ……グハッ……!」


 そして体制が揺らいだところに、また結晶が絡みつく。


「……っはは!我の……いや!私の負けか!っははは!なんで負けたのか私にもよく分からんが……強いて言うなら覚悟の差だな!」


 大笑いしながら、雪が……晴れた。


「カルカトス、昔やった『氷鬼』を思い出したよ……鬼をタッチするやつは、氷鬼よりも……熱くないと凍ってしまうからな!」


「……俺たちの……勝ちだよな?」


「あぁ!そやそや!あんたらの勝ちや!めっちゃ楽しかった!

ラジアン!こっちおいで!」


 そう言って、ラジアンを手招きする。


「私のツノ!あんたにあげるわ!」


 ボキンと、勢いよく折る。

その角は……折れてもなお、一本の恐ろしいツノだった。


「ありがと……帰ったら、煎じて飲むよ」


「おぉ、そうしそうし………クレイアは、もうボロボロやな……あんただけ力出しずらいのに、よォやったわ!」


「……あっはは、可愛い子にそう言われたら頑張ったかいも……あるね」


「あぁ、ツノおったらこんな感じか……父も母も、私にツノをくれて、その後すぐに……死んでしまった。

私も……私も、死ぬんだな………負けてよかった……戦えて……本当に良かったよ」


 辺りの雪が、一点に収縮し、その後空に弾けて消えた。

その情景に、今はただ、目を奪われた。

ラジアンは、強くツノを握りしめ、クレイアはサクラの方に、這いずりながら、向かった。


 黒竜は、まだ戦っている。

やつはまだ、死んでいなかった。

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