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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、戦いの中で生まれる者だ
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激突【アルグロウド】

「……っし、やるかァ!」


 この中で一番槍を務めるのはやはり俺だろう。

雲の上から、地面に向かって斜めに飛び込む。


 ネルカート近くの森の中に、飛び込む。

ルロックに既にタイミングは伝えており、ルロックを通じてマチアにも伝達済みだ。


 数日開けておいただけで両国共に随分と復旧が早いなぁ。


「行くぜぇ!!」


 森にダイブ完了。

辺りに地面が飛び散り、木くずのように樹木が空を舞う。

そして、その瞬間、横っ腹に、強い衝撃。


「っえ!?」


「アルグロウドォオァ!」


 竜の姿のサクラがあっという間に俺に突進をしてきやがった!?

いつの間に距離をここまで詰められた?


 そして、その目は、間違いなくブチギレてる。


「っはは!ついてこいよ!サクラ!」


「今日!私が貴様を殺す!そして!我が一族の恨みを晴らす!」


「あっははは!こいこい!俺の腹が減る前に!」


 海の上を全力で飛び、極力追いつかれないようにしていたのだが、こいつ突然加速を繰り返して俺に突進をしてくる。


 しかもその突進が目にも止まらない。

しかしまぁ、俺にはノーダメージ、安心出来る。


 そして、ソウルド近くにカルカトスがいることも聞いている。

本当に、ルロック様々だ……いたっ!あのとびきり強い恐ろしい気配……


「っは?」


 真っ直ぐソウルドに突っ込んでいたはずなのに、知らぬ間に俺の体は下を向いて真っ逆さま。

そして俺の頭の近くに、カルカトスが居た。


「お前、誰だ?……さてはお前が爆破の犯人かな?」


 酷く冷たい瞳をしていた。

こいつらの攻撃が俺に効くはずはないのに、それなのにどうしても心の底から恐ろしいと思わされた。


 地面に突っ込む羽目になったが、すぐに顔を引っ張り出す。


「っはははっ!三つ巴だな!お前ら!」


「アルグロウドォ!貴様を殺す!父にも誓う!今殺す!」


 沸点を飛び抜けた怒り様のサクラ。

あたりの空気が揺らいで見えるほどに怒っている。


「サクラ?……まぁ、戦わないといけない時はいつか来るしなぁ……2人まとめてここで倒すか」


 仕方がないと言った感じで……半ば諦めたように剣を抜いた。

体格は一番小さいのに、それはまるでザントリルの旦那のようだ。


「お前らまとめて殺らせてもらうぜ!」


 俺はぶつけるまででいいんだが……こいつらが俺を逃がしてくれるとは思わない。


「……っおぉ!〈火竜の吐息(ドラゴンブレス)〉!」


「っはは!効かねぇ効かねぇ!」


「っ!あっつ!……相変わらずの火力だな……っふんっ!」


 気合一閃、炎を割いて俺の方へ飛んでくる。

その攻撃より早く、尾を振り払い、サクラの方へ飛ばす。


「っぐ……早いなぁ」


「カルカトス!私はもう決めたんだ、お前だって倒すって!」


「奇遇だな、俺もだ」


 剣の矛先をそのままサクラに向け、サクラはそれに対応しながら、牙を剥く。


 鋭い斬撃がサクラを鱗ごと切り裂き、牙がカルカトスを抉りとる。


 その2人に向かって俺も突進をかます。

思いっきり拳を握り、殴り抜く。


 サクラのブレスとタイミングが噛み合ったが、俺には効かない。

サンドイッチになって火の燃え移ったカルカトスが吹き飛ばされる。


「サクラァ!行くぜぇ!」


 俺はブレスとかそういう便利なのは使えない。

苦手なんだ、だから、拳を握って、敵を捕まえて喰らう。


「アルグロウド!私をあの時の私と思うなよ!」


「それはどうだろうな!お前はあの時と変わらず!何も出来ずに俺にやられるのさ!」


 そう言い切り、肩を掴み、首に噛み付く。

熱い、それにすごく硬い。


 そしてこいつの攻撃は全て弾く。

俺の固有スキル《暴食の怪物ハングリークリーチャー》は、喰らった種族からのありとあらゆる攻撃を無効化する。


 竜も、人も、魔族も、エルフも獣人も、翼人も食ってきた。

どんな種族だろうと、俺に傷一つ付けられない。


「……おいお前ら……俺を忘れてんじゃねぇ!!」


 遠くから轟速で飛んでくる黒い飛翔物。

剣を突き刺し、その剣から光が伸びて俺たちの体に大きな穴を開ける。


「〈白激(ホワイトブラスト)〉!」


「貴様っ!その技はフレイのっ!!?」


「っ!?なんで俺にダメージが!?」


 俺の体に傷がつくはずか……キメラだからか!?


「っぐ!傷を負ったのはいつぶりだろうなぁ……あぁ、傷を治そうとしたら腹が減ってきた……!」


「っ!使うしかないか!『聖魔法』!」


「「はぁ!?」」


 その魔法名に俺もカルカトスも驚いて、目を見開くが、傷が立ち所に癒えていく。

見たことは無いが、白魔法とは明らかに別の存在、本物だろう。


「意味わかんねぇ!……あ、やべぇ……」


 グウゥッと大きく俺の腹の音がなった。

それは、俺が暴走を始める合図。


「……ダメージが効かないのは何故か知らんが……

『活路は前に!』『世界の夜明けを迎える者は!』『その資格に勇気を求めた!』《勇敢な者(ブレイバー)》!」


 なんだそれは、固有スキルか……!?

そして、カルカトスが地面に降りたって、顔を上げる。


 そしてやつは、右手の剣を、『自分の』左手の掌に突き刺した。

何をやっているんだ?


「なぁ、君ら」


 そう言ってニヤリと笑い、口を開く。


「君らの見る悪夢はどんなものだい?

君の思い描く恐ろしい怪物とはどんな姿だい?

目はいくつ?口は?牙はあるか?手足の本数は?

鋭い爪は?足は早い?それは君よりも?力は強い?それは君よりも?体色は?匂いは?」


 そう言って、その質問攻めに俺もサクラも口も挟めず動けないでいた。


 そして、剣を地面に刺し左手の傷穴に手を突っ込み、そして何かを握るようにした後、引きずり出す。


「今日、君らのそれは、俺に置きかわることだろう」


 赤い、紅い、朱い、あかいこの剣は、底知れなく恐ろしい。

見ているだけで心胆が冷えるような恐ろしさ。


「『鮮血剣 アデサヤ』その力の一端をお見せしようか」


 刃を握り、振り抜いた。

掌や指から血が滴り落ちる。


 それだけで、その瞬間に、俺の暴走は足を止めて、サクラの勇気は冷え固まった。


 次の瞬間、俺もサクラも逃げ出してしまった。

サクラが逃げているかどうかは憶測だ……それを確認する暇さえなく、恐ろしくて逃げだした。


 これが恥であるとか、そんなことを考える前に、今命があることに何よりも深い喜びを感じる他なかった。


「っんだよアレ!?ヤバい!」


 だめだ、あんなやつだけは相手にしちゃいけない、絶対にあんなのと戦っちゃいけない。

本能的にそう悟り、ルロックに大声でそう報告するしか無かった。

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