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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、戦いの中で生まれる者だ
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落し物

「……アイビーは!カルカトス!君の!……きみの……」


 私が必死になってそう言ったら、彼は不思議そうな顔で


「俺の?」


 その顔に、私は口の中で舌が引っ付いたような錯覚に襲われ、言葉が続かなかった。


「……いや、なんでもない……みんなを探そう、足は?肩貸そうか?」


「んや、お前はお前の部下を探せよ。

リッチロード、ちょっと肩を貸してくれ」


「……はっ、かしこまりました」


「アイビーの、呪い……もしかして……そういうことなのかな」


 なんて思いながらふとアイビーのいたところを見る。

影も形も残さずに、パッ……と灰になって消えていった。


 昔にカルカトスが着けていた仮面とローブ、ずっと肌身離さずつけていたなぁ。

この剣は……カルカトスが昔使っていたやつだっけ?


 そう思いながら、右手にローブと仮面を取って、左手で剣を拾いあげた時、ゴトンと綺麗な石が落ちた。

音符のマークの入った、綺麗な石だ。


「……輝石……」


 そう思いながら拾い上げると、声が聞こえてきた。


『……あーあー……っし、ええっと……あなたがこれを聞いているということは、私は既に死んだことでしょう。

そしてこれを聞いているのがカルカトス出ないことを祈ります。

私は死ぬその前に、1つ、大きな呪いをカルに施します。

名は〈永遠の愛(アフェクション)〉カルは私のことを忘れてくれていますか?だとしたら、私はとても………

ええっと、最後にしよう……大好き!』


 その言葉を聞き終えた時、私は知らない間に涙が溢れて止まらなかった。

ボトボトと大粒の涙が溢れて止まらなかった。


「………アイビー」


 もう彼女は返事をしてくれないだろう。

彼女の剣を、私が引き継ごう。

『赫黒剣 ナイトライン』


 握り、そして強くそれを決意した時、剣の声が聞こえてきた。

アズナスにもある、剣の声が。


『よろしく頼むよ』


 そう言われた気がした。

どろりと、アイビー特有の恐ろしい気配がありつつ、ラフそうな剣の声。

この剣は……アイビーの一部とでも言えるのかもしれない。


「……なるほど、立派な『魔剣』か」


『我と一緒にするな!!』


 相も変わらずうるさいアズナス。


「うるさいっ!」


 けど最近は、勝てるようにもなってきた。

私にかかった代償は一体いつになれば払いきれるのだろうか?

ユミルの代償は、聖魔法の封印は、思ったよりも長丁場になっている。


「……私も自分を見つけないと……カルカトスには……悪いけど」


 彼は一生、アイビーを見つけられないだろう。

それをアイビーが、何度も何度も悩んだ果てに、それを答えとして実行したんだ。


 その勇気を踏みにじるような真似はしたくない。

彼と彼女は、悲しい2人だった。

でも、あの2人がいるところはいつも暖かくて、優しい匂いがした。


 もしも2人ともただの人なら、彼らはきっと……幸せだっただろうに。


 もし願うのなら、今度はアイビーにも、カルカトスを一生愛する、その資格を持って生まれてきて欲しい。

私はそんな資格必要ないと思っているけど、彼女はそれが何よりも……命よりも、欲しかったんだろう。


 カルカトスは大きなものを落として行った。

落し物に気がつけないけども、彼はずっと先を、止まることなく歩き続けるんだろう。


 でも……やっぱりこんなの悲しいよ……カルカトスが覚えていないのなら、私がアイビーを覚えておこう。


「……皆死んじゃったんだね」


 ガレキの山に混ざる仲間たちを見つめてそう呟く。


「帰ろっか、みんなのヘルヴェティアに」


 私たちの帰る場所。

魔族も、獣人も、ダークエルフも、邪竜も、骨も、キメラも、魔剣も、みんなみんな、あそこに居場所を見出したんだ。


「……背負わせてね、アイビー」


 そんな私のわがままを言いながら、腰にナイトラインを挿した。


「……灰になってか……」


 仲間たちも、魔族の仲間たちはみな光の粒になって死んで行った。


 私も死ぬ時は、何も残らないのかと思うと、空虚さを感じた。


「ユミルのお守り……効くのかな」


 護符を握りながら呟いた。

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