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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、戦いの中で生まれる者だ
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限界

「……っ、うっ……うぅう……」


 ただただ、河川敷で蹲って涙を流す。

上流から未だに流れてくる瓦礫たち、水底に沈む残骸。

濁りに濁ったその水には、私の顔もしっかりと映る程だ。


 今は昼なのに、嫌に晴れているのに、太陽を見る気になんてなれない。


「……っくそ……っそ!」


 近くにあった石を握って川に投げつける。

そんなことをしたら、何か変わるのだろうか?


「……っ、あぁ……なんで……っ!」


 情けない、私が本当に情けない……仲間さえ守れなくて何が英雄だ……っ!

でも、それよりも、今の私は誰かのせいにしたかった。


「なんで私から……何もかもを奪うんだ……!やめてくれよ……やっとできた仲間だったのに……!友だったのに!……守れない……どんなに強くなっても……手が届かなきゃ守れないじゃないか……!」


 デクター、ラング、ライト、ナプラ、そのほかの冒険者他たちもきっと命を落としたのだろう。

今の私が知りえていないだけで、きっと顔見知りの冒険者の中に命を落とした人も沢山いただろう。


 カルカトスも、遂にできた友なのに、行方は未だに分からない。


「……竜だからなんだ……?私は弱いままじゃないか……!」


 あの時の、焼け野原の中で一歩たりとも動けなかったあの時と何ら変わらない……きっと私がその場にいたら……いたら……


「……何ができたって言うんだ……っあぁ……」


 足音が聞こえた……けどその音の主が誰かだなんて、頭を使う気もない。


「私言ったでしょ?泣きたい時は私を呼んでねって」


 その声は……クレイアか……


「……泣いてなんかない」


 声が震えた、嘘だ。


「……そうだね、でも、今は泣いてもいい時なんだよ」


 そう言って私の背から覆い被さるように抱き抱えてくる。


「私の父さんはね、ずごい人なんだ」


「……アルバナ ナルグだろ……仲間の盾として誰よりも前に立った」


「だね、英雄譚にはそう書かれてるみたいだけど、父さんはこうも言ってたんだ

『俺よりもさらに一歩前に出て戦う奴がいた。

それは父さんの一番の友達で、俺が唯一守られて、俺が唯一守れなかったヤツだ』って

父さんでも、誰かを守れないことがあるんだって思ったの。

大丈夫、誰かを守れなくても、英雄にはなれる。

大切なのは、誰かを守ろうとすること……死んでしまったのなら、その人の名誉を守るために、戦うのよ」


「……名誉……?」


「そう、その人たちはこんなところで蹲っているあなたを見たらどう思う?」


「……情けないと叱咤されるかもしれん……」


「かもね、だから立ち上がらないと。

……でもね?大きく飛び上がるためには、それと同じぐらい深く踏み込まないといけないの。

今気分が下がって、消えてしまいたいほどに苦しいのは、大きく飛び上がって大切な人のために戦う力を蓄えているの。

だから今は泣いて、少しでも空を飛ぶ時の蟠りが、残した涙一滴があなたの後ろ髪を引くかもしれないから、私の胸で、好きなだけ泣いて」


「……私はどうしたらいいんだ……」


「それを考えるよりも先に、涙を流しなさい……いつだって私はあなたの近くにいるから」



 何分……何十分……いや、何時間そうしていただろうか。

泣き疲れて、目を何度も擦り、知らない間に眠っていた。


 残ったのは痛みだけ、目の下が腫れていた。

時刻はもう夜、あたりは暗くなっていた。


 以前と同じ……前も全てを失って、何もかもを捨てて知らぬ間に意識を手放していて、残ったのは心の痛みと砕かれたプライド、誇り。


 今回も同じだった、心に残った、プライドの破片さえも失って、誇りさえも、泣きじゃくって失った。


「……すー……すー……」


 私を抱えるように、眠っていたクレイア。

クレイアの目にも少し泣いたあとがあった。


 この人は本当に優しい人なんだろう。

人のために涙を流して、人の為に助けてくれた

あの頃の私もまた、大きく飛び上がるために深い絶望の中で毎日を過ごした。


 ネルカートへ、大きく羽ばたくために


「…………ん……サクラ……起きましたか、気分は?」


「……最悪だ……だが……何故だか……身体が軽い」


「……そう、それは良かったのかな?

全然大丈夫じゃないよね、きっとまだまだ辛いし、仲間のことを思うともう倒れて、立ち上がる気力さえわかなくなるかもしれない」


「………あぁ」


「……でも、頑張ろ……戦争って、それだけ酷いものだから……苦しいものだから……辛いものだからさ」


 私の肩に手を回し、彼女の体の方に寄せられて、彼女の震える声と指先の後に言葉が


「……私達で戦争を終わらせようね……サクラ」


 涙がまた溢れてきてしまった。

本気で戦争に心を痛めて、どうしようもなく硬いあの水晶から想像できないほどに優しくて傷つきやすい繊細な彼女の震える声。


「……あぁ、きっと終わらせる……!」


 強い覚悟と決心の籠った声が……情けないことに震えていた。

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