更に深く清く
「……っん、ん〜〜……っはぁ」
背伸びをして、一息ついて、辺りが水晶で包まれていることに少し驚いたあと、ここは宿でないことを思い出した。
「……よし、今日も迷宮を探索だ」
昨日見つけておいた六十三層への会談を下る。
昨日と同じ要領で、かなり迷ったあと、また次の階層への階段を見つけて眠りにつく。
次の日は、水没しているその下の階層、六十四層へ潜り込む。
この中にいる魚たちは、やはりそこまで恐ろしい存在ではない……はずなのだが、なにか違和感がある。
この水は果たしてただの水か?
なんというか……気持ちの悪い……別の何かな気がする。
これはなんだ?フレイ
『この水、魔力を過度に含んでいるね〜、これなら確かに、一般人なら死ぬほどの濃度の水だね』
ただの魔力がそこまでの凶器になるか?
というか、知っていたらな早く言ってくれ
『純度が違うのかな?更に清い、そのあまりに毒になる。
六十一層からずっとそうだけど、体に害があるほどじゃなかった……君に害があるレベルになるとは思わなかっただけ。
ただ、あそこにいる魚たちみたいな魔法生物にとってはこれ以上の良い環境はない』
そう言われて、その魚の方を向くととんでもない速度でこちらに突進をしてくる。
突然の高速突進に驚きながらも反射的に避けようと身をそらすが、横っ腹を削られる。
「ッグ……!」
初めての被弾、初めての傷だ。
そして、私の体が……少し変だ……痛い
「っん!?コブ……ガべっ!?」
横腹を中心に痛みが走る。
出血が止まらない……だけじゃない。
体の外に血が出たぶん、この辺りの水が身体の中に入り込んでくる。
血が、どんどんと入れ替わっていく……不味い、これは逃げなくては!?
急いで、無様だが、ひとつ上の階層へトンボ返りする。
「オエッ……ゴホッゴホッ……ッブフッ……!?」
何故だ!?もう地上にいるというのに、息ができない……!?
それに血が止まらない……不味い不味い不味い、何が起きてる!?
「こ、こんな時の……聖魔……法っ!!」
手を横腹に翳して、傷を癒す。
それなのに、息が出来ないままだ……いや、それよりももっと酷い……!?
「ゴボッ……!?オエッェ……!!」
水が口の中から溢れ出る。
私は水竜じゃないし、水を飲んだ覚えも、そんな変な宴会芸も持ち合わせていない。
これが、溺れる、という事か!?
初めての経験、溺れるとはこういうものかっ!?
どんなに息を吸い込もうとも、水がただ肺の中に入り込んでくるばかり……違う……肺の中に水があるのか?
血管を通して、身体中のありとあらゆるところに水が私の中で暴れ狂う。
溺れる苦しみで忘れかけていた、走り回る激痛、これはまずい。
鼻の頭のツンとした水の痛み。
明らかに水のたまっていないであろう場所に確かにあるタプタプとした感触。
腹が膨れ上がる、そこに水が溜まっているとばかりに。
『不味いよ!?死んじゃうよ!?』
確かに、普通の竜なら死んでいたかもしれないが、私は不幸なことに特異体質!
「『火竜の吐息』っ!」
それを吐き散らしながら、気が狂ったように炎を吐き続ける。
傍から見れば哀れな最後のあがき。
しかしこれが私に出来る最高の一手。
体温がどんどんどんどん上がっていく。
次第に視界が揺らぎだし、ふざけた火力と、私の体温が並び始める。
蒸気が、私の体の水分が飛び始める。
そして、果てには赤い蒸気、血液さえも、どんどんと蒸気となって辺りに舞う。
吐ききった。
私の体力の許す限りを炎に費やして、私の体が萎びている。
しかしだ……私を舐めるなよ……!英雄と呼ばれた竜の娘だぞ……!
度重なる戦いの中で私の意識は保てるほどに耐性はもてた。
「……聖魔法……!」
死んでいなければ、どんなものでも助けられる、イカれた魔法。
それは、体の中の足りないものさえも補う。
それが内臓でも、それが血液でも。
しかし既に体の中にある、本来なら害の無い水を取っ払う手立てはなかった。
毒にもなれば、薬にもなるのだ、ああいうものはそういうものだ。
萎びた体はどんどんと膨らみ、血色が取り戻されていき、いつもの私に元通り。
「あぶなっ、危なかった……油断はもうしない……今度は全て対応してやる」
思っていたその何倍も、この迷宮というのは凶悪だった。
私の考えを改め直さなくては。
全ての階層が命懸け。
限界の集中力と、最高に尖った感覚で乗り切らなくては。
「……ふぅ」
しかしまぁ、今日はもう疲れた。
「寝るか」
ゴロンと、水晶の上に横たわった




