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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、戦いの中で生まれる者だ
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深く蒼く

「……っし、それじゃ、行ってくる。貴様ら地上は任せたぞ」


 そう言ってグータッチを求める。


「任せろ!」


「上手くやれよ……ちゃんと生きて帰ってこい」


「……あぁ!貴様らも、私が居なくては寂しいだろう、すぐに帰ってきてやるからなぁー!」


 何も返事が返ってこない……照れてるってことにして迷宮に潜り込む。


 六十層まで転移して戦いの跡を少し眺める。

この転移も、不思議な技術だ。

他に応用できないかと検討中らしいが、どうにもこの迷宮内でないと形を保てない……ならなんでそんなものを見つけられたんだ?


「……まぁいいか」


 迷宮内が不思議なのは今に始まったことではない。

ここでは生理現象が止まっているのかと思ったが腹は減る、それなのにいくら食っても尿意とかは全くないのだ。


 階段を下り、そして広がる世界に私は目を丸くした。


「……っおぉ……!!」


 感嘆の声が漏れた、なんと美しい光景だろうか?まるでフレイの近くの階層のように煌めいている。


 しかしここは淡いそのブルーが、それ自体が発行しているというと言うよりも、何かしらに照らされて輝いているようだ。


「……そして、これが噂の水没階層か」


 確かにこれなら私以外にクリアできるのは……カルカトスぐらいか。


「……あいつは確かに戦争のために作られたと言っても納得だな、姿かたちを変えて、地上、空中、果ては水中もスイスイフリーパス……」


 そう言いながら息を吸い込み、ザブンと沈む。

さーて、この階層の底に着いた。


 ここから……階段は……っと、その前に魚がいっぱいか?


 水中でも私の剛腕は衰えん。

ぐちゃぐちゃ似してやると、光の粒になったが……魔石が落ちないな?


 魔法でできているのかな?


『その可能性が高いねー』


 急に声をかけられるとびっくりするからやめて欲しい。

しかし、この未知の迷宮で、迷宮側のフレイから話が聞けるのは助かる、ここから下にはどう行けばいい?


『それは私も知らない、誰も知らないよ、これを作ったあの子以外は』


 その子がこの階層の守護者……英雄か。


 辺りからまとわりついてくる魚達は鬱陶しいが、それでも私の鱗は貫けない、無視してどんどんと下に向かう。


 階段を下ると……水から出た……?


「……え?」


 その意味のわからない現象に戸惑い、上を見上げる。

階段の上と下で世界が区切られたかのように、水はこちらに流れてこない。


 これは……私から見れば水が浮いているようにみえる。


「……まぁいい、どんどんと進もうか」


 ここは恐らく六十二層、辺りの壁から、地面から、果てには普通に奥の通路から、ありとあらゆる生き物が出てくる。


 カニだったり、鳥だったり、羊だったり、猫だったり。


 どれもこれも蒼く輝いて……こんな生物世界に存在しないはずだ、オリジナルの生き物か?


 大剣で叩き切り、どれもこれも簡単に殲滅できた。

私は思っていたよりも強くなったのかもしれない。


 恐らくかなり苦戦するであろうこの硬い水晶の装甲も、私の力の前では紙切れも同然だった。


 しかし……違和感がある。確かに切れるのだが


「っふん!」


 このように、私の拳を持ってしても『砕けない』柔らかいのだ、それは例えるなら……水を殴るような、不毛なことをしている気分になる。


 しかも何が恐ろしいって、殴ったあと、奴らの体にめり込んだ拳に、怯むことなく攻撃を仕掛けてくる。


 そして倒しても、何も残さず光の粒になるばかり……比喩ではない、魔石の1つもくれないのだ、なんだコイツら。


 しかしまぁ、こいつらを切れる剣がある私にとってはいささか簡単なもので、かなり簡単にこの階層も終われそうだ。


 そして、次の階層……水没はしておらず、そのまま階段を下るばかりなのだが……ここまで来るのにかなりの時間を費やした。


 この迷宮、本当に迷宮で、道幅の広い迷路なので簡単だろうと思っていたのだが、辺りから無数に出てくる水晶生物とまるで生き物のように形を変えるこの迷宮にどうにもこうにも時間を取られる。


「……幸い、この辺りの奴らはみな倒したみたいだな……」


 硬い干し肉を噛みちぎり、口の中の塩っけを水で飲み込む。


「……今日は怪我がなかったな、よし、この調子で明日も下へ行きたい」


 今日はここで休むとしよう。

眠れるうちに眠ろう、そう思いながら瞳を閉じた。

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