恐ろしい事
ラジアンと一緒に魔王様の元へ帰ってきた時、アイビーと魔王様は既に話を終えて、俺たちを待っていた。
「……魔王様？」
それは、ものすごく真剣そうで、深刻そうな表情でだ。
「私がついさっき調べて、ついに核心に足りうる証拠を見つけたから報告するよ……『ミリアは死んだ』」
「……へ？」
「えっ？ま、魔王ちゃん！？」
「落ち着いてください、あなた方の気持ちは分かります、私も、同じような反応をしたことでしょう。
しかし、同時にもう1つ判明したことが、それは『裏切り者』であったことです」
「……裏切り者？」
「魔王ちゃん？誰のこと？」
俺もラジアンもお互い顔を見合わせて……まさか……
「無論、ミリアです。
確かな証拠を手にし、間違いない確信を私は持って、います」
驚いた様子を見せないアイビーは既に聞いていたらしい。
「……裏切りって、何をしてたんですか？」
「情報の横流し、独自の魔法具を使ったものです」
「なんでそんな……」
「彼女も本意ではないでしょう。
私の知った範囲ではありますが、彼女の家族は現在人質に取られていますからね。
そして、定刻を一秒でも過ぎれば、処刑されると脅され、私たちを騙していたようです」
少し俺もラジアンも視線が下を向いたあと、ラジアンがハッとした顔で前を向き
「家族のため……っちょっと待って！？なら今、ミリアの家族は！？」
その言葉に俺もハッとさせられた。
「……恐らく処刑されていることでしょう。
用済みということでかもしれません
もしかすると元々生きてもいなかったのかもしれませんが」
たんたんとそう告げられて、俺もラジアンも言葉が出ない。
「……まぁ、代理四天王としてエンブラーには当分入っていただきます。
本人もあまり気は向かないようですが、仕方ないと重い腰を上げてくれましたし」
エンブラーさんなら安心だな。
ナルヴァーにはなんて言えば……あいつは結構前から知り合いだったしな。
「……ナルヴァーには私から説明します。
ですが私は許せないことが最近多くってですね……！」
ゴゴゴと地響きが、辺りの大気が揺らぎ始める。
「魔王ちゃん怒ってる！？」
「そりゃぁもちろんです。
ミリアへの聖魔法での奇襲。
家族を人質に裏切り者にさせられた彼女のこと。
私を不意打ちし、襲いかかってきた彼ら。
何よりも人間側の態度がどうにも気に食わないです」
「って言うと？」
よく口が開けたな！？ラジアン！
「謝罪の1つぐらいあってもいいんじゃないかな……ってね
どれもこれも明らかに向こうに非があるものばかり。
それに対して我々は終始友好的な態度を取り続けて、荒地の開拓、娯楽島の発展、魔族側の貴族殺害の件は我々が思い立ったことではないと重々念押ししながらも謝りました！
でも！結果がこれとはなんとも悲しいことですが……きっとこのまま行っても舐められていいようにあしらわれるのがオチです。
なら、私たちを舐め腐って、しかと我々の大切な仲間へのその仕打ちも含めて、丸ごとお返し致しましょう」
つまり？
「つまり！？」
「宣戦布告を行いましょう、カルカトス、それにはあなたが不可欠です」
「俺！？」
「魔王の名において命じます。
ネルカートの王を殺してきなさい」
それはまた難易度の高い……
しかし、魔王の名において命ぜられたのなら仕方ない。
「おまかせを、必ずや満足いく成果を上げてまいります」
俺がろくに情報収集できなかったのは、俺が内通者だって事前にバレていたからか……恐らく嘘もつけない場面だったのだろう。
俺の立場を使えば王への謁見が叶うかもしれん。
そこで全員斬り殺して……それから
「ナルヴァーをお借りしても？あいつの翼が必要です」
「なるほど確かに、逃走経路は無論いくつでも用意しますから、必ず生きて帰ってくること、それは私個人のあなた達へのお願いです」
俺もラジアンも、アイビーも深く頷いた
「またいつの日か、みなでこうして会いましょう、誰一人欠けることなく……ミリア一人だけで十分です、もう誰も失いません」
強い覚悟の籠った目でそう言った
「奴らの余裕顔は全て勇者や英雄のおかげなのです」
