2回戦
「いやー、シード権って取っておいて正解だな」
「全くだ、私たちは幸運にも程があるだろう」
なんて言ったって相手は超特例の人間。
しかもその人は1人だけで出場している。
名前?そんなもの誰だって知っている。
「ピュー フォルテ、土の勇者の肩書きが霞むほど『最強』の名を欲しいままにしている、最強だ」
「この人に勝てば俺たちは誰にも負けないわけだな」
「ははっ、2人ともよくあの二人に勝てたね、勇者3人揃って戦うことなんて珍しいだろうからちょっと楽しみにしてたけど、君たちと戦うのも同じぐらい楽しみだったさ」
そう前置いて、剣を抜く。
あぁ、これが最強か!
そう思わせるほどの立ち姿、本物の強さを持っている。
「試合開始!」
その合図とともに、俺とサクラは駆け出す。
大切なのはこの初め、最初のこの一手さえも無駄にできない。
固有スキルを使っていたらその間にきっとやられる。
「スキル『神速』っ!」
「『白魔法』〈軽量化〉!」
だからこそ始めから打ち合わせていた。
最高初速でサクラに渡した俺の直剣……ハウルを叩き込んでもらう。
直進してあっという間に消えたサクラ、俺はフォルテさんばかりを見ていた。
だからこそ、その動きの隙を突けると思っていたのに、あの人は動かなかった。
サクラが剣を突き刺したとき、あの人は少しも動かなかった。
しかし串刺しにされた訳でもない。
よくよく見返せばあの人は一歩前に歩いて、サクラの頭を掴んでいた。
そして押さえつけて動けない様子だった、あの力自慢のサクラがだ。
「すごく早いね、今まででいちばん早いかも」
そう言って力を込めようとした手をサクラが切り飛ばそうと下から振り上げる。
その剣は腕に当たり、切り飛ば……せない?
「っな!?」
ガキンと甲高い音がなってピタリと止まった。
ハウルに斬れないものがあるだなんて。
あのゴーレムも簡単に切り裂けたハウルですら歯が立たない。
しかしその間に俺も追いつけた、大剣を突き刺して、避けられてもいい、とりあえずサクラと2対1まで戻さなくては。
しかし突き刺してもまたもピタリと止まってしまった。
「っぐ!?っぐ!!」
どんなに力を込めても少しもめり込まない。
そして楽しもうとしているのか未だにサクラの頭は握りつぶされていない。
「さぁ、ここからどうする?」
「……なるほど、やはりあなたも防御が硬い!」
そう俺が叫びながら、身体に掌を当てる。
やはり勇者は守るのが上手い、それは最強の男も変わらず同じこと。
「ほう?魔法かな?」
「魔術ですよ《悪夢魔術》〈世界樹の種子〉」
シュプ フングが調べていた世界樹、その正体は害悪とも言える。
際限なく栄養をすいとり、世界樹に住まう生物にとって都合の良い自然環境を作り出したのち、大地を枯らしどこかへ去っていく。
その枯れた大地を復興するのが聖獣。
今この人の身体の中に埋め込んだのはその害悪の種子。
「っお!?こ、これは……不味いね!」
そう言って初めてフォルテさんから動いてくれた。
「《土魔法》【土石弾】」
俺に手を向けて、サクラの頭に着けていた手も開いてむけて、放った魔法の名前は簡単な初級魔法。
しかしサクラも俺もフレイの聖魔法を覚えている。
突き詰めればただの初級魔法も簡単に英雄を殺せる。
同時に後ろにバックステップをした所で気がつく。
そう、それは俺たちが会場の外へ追いやられている。
つまりただの初級魔法で死んだことに気が付かないほどの速さで殺された。
もしも本番ならば、あれで俺は終わっていたわけだ。
しかしその事実を受け入れるのに長い時間を要した。
「……は?……ここは」
「……会場の……外だと?」
俺もサクラも目を見合わせて疑問符を浮かべることしか出来ない。
「ははっ、2人ともびっくりしてるね」
「……こ、これは……試合終了?」
司会でさえも何が起こったか分からず戸惑う。
「あぁ、あの二人は死んでしまったさ」
訳が分からなかった。
ただ一つ最後に感じた違和感を俺とサクラは飲み込むしか無かった。
「「最強……」」
越えられない壁を見つけて俺もサクラも笑みが止まらなかった。




