昔昔【サクラ】
「話をする前に、これを見てくれ」
そう言って、私は写真を見せた。
「この写真の1番でかいドラゴンが父、その次に大きいのが母で父に乗っているのが私、そして、母にくっついているのが妹だ」
「へぇ、文化は違えど家族写真ドラゴンもとるんだな……」
珍しいものを見た、と言った顔つきで見つめる。
「私の父はな、誰よりも強かった。私の里の、英雄だったんだ」
目を瞑れば今でも思い出せるあの日々。
今から何年か前、私はあのころ15歳だったか。
「とーちゃーん!」
そう言って私は自分の父親、コブクに飛びつく。
「おぉおぉ、サクラ、おはよう」
毎日、朝を迎える時、私は父に飛びついていた。
我々ドラゴンは五千年ぐらい前から、人化の魔法を使い、人の姿で日々を過ごすようになっていた。
食料問題も、人と同じぐらいの量食べるだけでよくなったので、おかげで解決に向かっている……らしい。
妹のカスミはそんな私の後をテトテトと着いてくる。
私の2つ下で、とても可愛らしい容姿の子だ。
私と違っていかにも女の子といったおしとやかさがある、きっと母譲りだったのだろう。
父は炎のように赤い鱗を持っていた。
そして誰もよりも大きな翼を持っていた。
勇ましく、頼りになる父だが、それは戦いの時だけ、ほとんどは家庭菜園と読書の好きな優しい父だ。
母のアンズは赤と言うよりも少し白っぽい、綺麗な鱗。
彼女も父に負けず劣らず優しい母だ。
朝になり、私たちが目を覚ました頃には、鼻腔をくすぐるいい香りがしていた。
カスミの鱗は青色だった。
我が家で唯一青い鱗を持つカスミだが、母の母……おばあちゃんが青い鱗の蒼龍であった事が理由だろう。
優しいと言うよりも静かなこの子、微笑んだ顔が可愛い。
私の生まれたこの『グランド家』は竜の里一の名家でもある。
なんでも英雄の末裔らしい。
どんな英雄のことなのかは知らないし、今でも知っているのはごく一部の者のみの英雄の話は、当主にのみ、語り継がれるらしく、父も私が当主となれば話すと約束してくれていた。
狩りの練習や農作業、料理に洗濯、あとは勉強。
母や父が教えてくれる他に、お天道様の下で里一番の物知りが教えてくれたりもした。
「サクラおねーちゃん、遊ぼ」
カスミが私の裾を引いて、遊びに誘ってくる。
「いいよ、何して遊ぼっか?
父ちゃん、母ちゃん、カスミと遊びに行ってくるね」
「はーい、行ってらっしゃい」
「父ちゃんも今からお仕事だ、一緒に途中まで行こうか」
「ほんと!?じゃ一緒に行こ!」
そう言って父と共に外へ出た。
「今日はね……えっと……鬼ごっこしよ」
「いいよ、他のみんなも誘おっか」
「鬼ごっこかぁ、懐かしいなぁ、父ちゃんもやりたいよ」
「とーちゃんはお仕事でしょ!?ほら!早く行って!」
「厳しいな……アンズに似てきた……行ってくるよ」
「うん!頑張ってね!」
「がんばれー」
こうやってして、父を送るのは、何度も何度もしてきたが、今日この日が最後となった。
そして、それを知る由はない私。
友達たちと遊んで、勉強だってした。
何年も前から父との鍛錬も絶やさず、自分で言うのもなんだが、弛まぬ努力が産んだ私は英雄への道を歩いていた。
そして、英雄への道は晴れた明るい道だけだと思い込んでいた。
あの日の夜、父は帰ってきて、開口一番こう言った。
「サクラ、今日から新しい子がうちの里に来る。
人化は使えるし安心なんだが……黒竜でな、少し様子見って言ったところなんだ」
「へぇ!?どこにいるの!?」
そう言うと、少し父は悩んだ後
「東の端っこの空き地近くの家、あそこは誰も住んでなかったからね、そこに今はいるよ」
「行ってきます!!」
「あ、こら!夜道には気をつけろよ!?」
草むらの中に身を潜め、狩りの時のように息も潜める。
奥の方で見えたのは、やせ細った青年。
同い年……いや、カスミと私の間ぐらい?
真っ黒の髪や鱗は黒竜であることを再確認させる。
炎のような赤い瞳は、血族に火竜がいたのかもしれない。
月明かりに照らされて、その青年は美しく、輝いて見えた。
もしも世界で初めて宝石を見つけた人がいたのなら、今なら私はその人の気持ちが少しわかる。
心音が早くなり、息が荒れ、顔が熱くなってくる。
直視することはできないはずなのに、目が釘付けになって離れない。
そんな時、彼は私の視線に気づいたらしく、こちらの方に目線を向けた。
その瞬間、私は大急ぎで飛び出してしまった。
逃げ出した、後にも先にも多分、これが最初で最後の逃走だと思った。
家に帰り開口一番こう言った。
「父ちゃん、あの子なんて名前?」
そう言うと、父は目を丸くした後、ニコリと笑い
「『ハングリ アルグロウド』さ」
私は生涯その名を忘れない。




