宿題
「……こ、ここはっ!?ゴグっ!?あぁ?痛えぇ!?」
寝転がる体制から飛び起きる。
その瞬間全身が『ビキッ』と音を立てて痛みを知らせてくれる。
「起きたか……カルカトス」
ベットの上から天井を眺めて、こちらを見る余裕もなさそうなサクラが苦笑いで呼びかけてくる。
それを見て初めて俺がベットの上にいることを理解した。
「……こっぴどくやられたな」
「ふんっ、お互い様だろう、それは」
それもそうか
「……明日の宿題、覚えてるよな?」
「無論だ、私はこの鱗のおかげで傷は貴様よりも抑えられている……っとは言っても身体中の骨はボロボロ、芯まで来てる」
俺も肋骨折れてるし、ヒビがいっぱい入っている。
「……直して来いって、多分俺の回復魔法とかの話だよな?」
「ってことになるだろうな……がしかし、私は自然回復を待つぞ」
「……奇遇だな、俺もそうする気だ」
ふっ、と鼻で笑う声が聞こえてくる。
「なんだよサクラ」
「いや何……なんでもない。
作戦会議でもしよう、これじゃ勝ち目がない」
「なんだよ……作戦会議ねぇ、でも剣聖手加減してくれてるし、俺の剣じゃ太刀打ちできない」
「貴様、その剣以外にももうひとつ、貴様に似合わず丁寧な剣があっただろ?あれは?」
そう言われて、忘れていた……そっか、あの剣も俺の記憶の中に眠っている剣技、ミランがくれたあの剣術、言わばミラン流剣術があった。
「……あぁ、たしかにな。
明日はそれを使って戦ってみよう……しかしそこまで劇的に変わるとは思えんがなぁ」
そう言ったら、今度はサクラが驚いた顔で
「そうか?
私の目には今の貴様は、生誕祭の頃と比べてまるで『別人』だぞ?
なんて言おうか……こう、サッパリとしてる?か?
いや違うな……なんせ、なにか気が楽そうに見える」
「ははっ、かもな……でもそれがどうしたよ?」
「……人間……いや、生き物は心の持ちようでどこまでも変わるんだぞ?
それに加えてカルカトス、貴様はあの頃よりも格段にレベルアップしている、違うか?
単に数値が大きくなったとかじゃない、お前がお前としてひとつ上に『成った』」
「……まるで体験談だな、サクラ」
気合いというか、気持ちの入りようがただ事ではない、それだけなにか、心の持ちように重きを置いているのか?
「あぁ、体験談だとも。
私はあの………そう言えばだが、話が急に変わるがいいか?」
言葉の続きが聞きたかったが、話したくない内容なのかもしないと思い、その提案に乗る。
「いいよ、どうした?」
「……私たちは、相棒になったよな?」
なんの確認だろうか?
「そーだな」
「そんな私たち、冒険者なる少し前から知り合い、付き合いが随分と長い。
そんな私たち、お互いを何も知らないではないか?
おっとまて『他の同期のことも知らないじゃないか』というのはナシだ、ラングの話は聞いてある、お互いのことはまぁまぁ知っていると自負している。
それ以外のものに、同期といえど、過去というのはそうおいそれと語れるものでは無いだろ?」
「つまりお前は……あれか?『傷が治るまで暇だからお互いのことをより深く知り合わないか?』って言った提案か?」
「まぁそんなところだ……口下手で悪かったな」
要約したことを『分かりずらかったから』と思われたらしい。
「なに、俺の理解力の問題だ。で、どっちから話そうか?」
「その事だが……今日の訓練で活躍がなかった方が先に話そうか」
ニヤリと笑いながら言う。
「……その提案と笑み、まさかお前の方が俺よりも活躍したとでも言いたいのか?」
俺も笑って返す。
バチバチと火花のちる音がする。
そして、口を俺が先に開く。
「俺が!ほとんどの作戦を立案し、その案の元戦った!」
「しかし剣聖にただのひとつも傷を与えられなかったでは無いか!
私は、炎での煙幕や牽制、その他にも攻撃を受け止めてお前を動かしやすくした!どうだ!?」
そう言ってこちらに目を向ける。
「はっ、その割には俺もボロボロ!お前はタンクとしてダメ!
それに対して俺の攻撃は結構惜しいのが多かった、死角を狙うのが苦手なお前の代わりに俺が活躍した!違うか!?」
俺も目を向けて応戦する。
「違うさ!だって私の受ける猛撃は一切弱くならない!お前の攻撃はたいしたプレッシャーになっていない!
それに対して私が攻撃して、そのタイミングでお前が攻撃したから惜しかった!だから!私の方が活躍した!」
「いいや!お前が攻撃を受ける時はお前が攻撃した時!
したがってお前が攻撃したせいで防御がダメになってお互いボロボロ!
それに対して俺は……もうねぇよ!」
「いや!まだあるだろ!例えば臨機応変!
お前は緊急事態の時に私の前に割り込んできて陣形を大きく変えたがその後でも戦いやすかった、違うか!?」
「それを言うならお前は相手の武器破壊や武器取りを活発に狙っていた!
そう言ったアグレッシブな行動力のおかげで俺は攻撃しやすかった!そうだろ!?」
知らぬ間に、腕で体を支えてベットの上に座り、今にもお互いの胸ぐらを掴もうとしようとするような勢い……
「……あれ?おい、俺ら傷治ってない?」
そういうと、ハッとした顔で手をグーパーさせるサクラ。
「……本当だ……っていうか、私たちの反省点は結構見つけられたな……明日はそこを治していくぞ」
「おう!そうと決まったら英気を養うために今日は寝ようか!」
「だな!おやすみカルカトス!」
「あぁ!おやすみサクラ!」
次の日の朝、体はバッチリ痛みも感じないベストコンディション。
そして、朝ごはんを食べている頃に昔話をするのを忘れていたことを思い出した。




