英雄竜グランド【サクラ】
「私は父が大好きだったんだ」
カルカトスの目を見ながら、語り始める。
「私の父は優しくてな、自分で言うのもなんだが、どうして私のように意地っ張りなものが産まれたのか不思議でならん。
母もおしとやかな女性だったしな……」
そういうと、カルカトスがウンウンと頷く……失礼だ。
「そんな私の父は……我が竜の里で『英雄』と呼ばれていた。
そう……英雄だ……!」
目が少し大きく開かれた……やはりこいつも私と『同じ』か。
「お前……英雄の子供だったのか……!?」
「あぁ、私が英雄にこだわり、強さを求めるのは、その肩書きに恥じない立派な竜になりたいからだ」
「それが俺と一緒にトーナメントに出る動機か?」
「だとすれば、さすがの私でも簡単に説明できる……問題はこの後なんだ」
「……この……『後』?」
「私は後にも先にも、本気の父を見たのはあの日が初めてだった。
竜の里は、既に『壊滅』している」
「……えっ……?」
「私はあの日の冒険者の試験の時、帰らなかったのではなく帰れなかった、帰る先がなかった。
もう竜の里にただの一体の竜もいない。
……私が、竜の里、最後の生き残りだ」
「……いや、まてまて……ちょっと待て。
壊滅……?最強の種である、ドラゴンが?竜族が?
それに……お前の父さんは?英雄……英雄竜なんだろ!?」
少し前のめりになって、私に言う。
私も、こいつも、2人揃って英雄に憧れているのだ。
その憧れがいて、なぜ壊滅したのか……?
「……それは、とある1匹の竜のせいで、終わりを迎えたんだ」
「1匹……?竜とはいえ……そんな……?何故だ?」
「……そのとある竜は、食欲の赴くままに竜を喰らい続けた、言わば『竜喰らいの竜』そいつが全員を食い尽くした。
無論……父も……母もだ……!!
父に生かしてもらった……あの日の、初めて見た父の本気が私を守ってくれた……明日また助けに来てくれると思ったが……その後……父は姿を現さなくなった。
後に里を訪れた時、父の亡骸が……骨が残っていた。
人化は私の体を最大限小さくし、最低限の運動能力を残した最適の形態だった……皮肉にもお腹が減って泣いたよ、私は、父の亡骸を目にして……泣いたよ」
「……そうか」
「……そして、私は……つい最近、その竜に出会った。
竜喰らいの竜『ハングリ アルグロウド』奴は生きていた。
そして、強かった……!!
今の私では、まだ足りない……もっと強く……!
そのためなら、私はどんなに小さな出来事でも、強者と戦えるのなら、それを逃すことは出来ないんだ……!
父と母の仇を……そして……私の……妹の……仇を取りたいんだ……でも……今の私では出来ないんだ……!!」
顔だけでなく、体を向けて、両手を着いて頭を下げる。
「頼むっ!……私を……私と共に相棒としてトーナメントに出てくれぇ……!!」
我ながら絞り出したような声。
カルカトスは、顔を上げた私の目を見つめたまま、口を開いた。
「……相棒っていうのはさ……お互い対等じゃないと行けない、言葉の意味は、確かにそうだよな?共に行動するもの……仲間の事じゃねぇか」
「……つ、つまりどういうことだ?」
「立てよ、対等なんだぜ?『相棒』ってやつはさ」
手を差し伸べる。その手を掴む。
握り返され、引き上げられ立ち上がる。
「チケットに、参加者の名前を書くとしようか……サクラ グランド」
「……感謝する……本当に感謝する、カルカトス アクナイト……!」
「……だから……対等だって言っただろ?」
「……はっ、そうだったな……だが、礼は言う」
「……どーも、明日またお前のところの宿に向かう、本番の時と同じ武器や防具で、待っていろ」
「……あぁ、わかった、また明日な」
「あぁ、今日から五日後、それが宿泊船の出航日だ」
「あぁ、わかった」
ぬるくなった茶を飲み、カルカトスの家を去った。




