迷宮よ【カルカトス】
「……よし、ついたな」
61層目、ここは、非常に美しいところだった。
そして、酷い既視感がある。
四方を美しい水晶に包まれて、この洞窟を歩いて進む。
そう、これはまるで41層ら辺……フレイの階層に似ている。
「綺麗ですね……!」
「そうだね、綺麗だ」
嬉しそうに辺りを見回すアイビー。
その目の輝きは、水晶の輝きに勝るとも劣らない。
俺の黒ローブと仮面は今でも愛用してくれている。
なびかせながら、辺りを動き回るその様子は本当に楽しそうだ。
この水晶が輝くための光源がどこから来てるのかなんて今更考えたりしない。
そして、数メートル歩んだ後、とあるポイントに着く。
迷路のようなその道を適当にマッピングしながら曲がると、水溜まりがあった。
覗き込むアイビー、今は目に映るものが楽しくて仕方ないのかもしれない……その……先日付き合ったところだし。
しかし、その瞬間、大きく首を逸らして、尻もちをついて、後ろに飛んだ。
「いたっ」
「ど、どうしっ」
安否を気にする言葉よりも先に、何かが天井に突き刺さった。
「……は?」
何かが、飛んできた……?
その水から、何かが飛んできて、天井に深く黒い穴を開けた。
穴が深すぎて何が飛んできたかは分からない。
「アイビー、よく避けたな……何があった?」
「魚ですかね?水晶の綺麗なお魚が迫ってきて、それを避けました」
魚……か、この水溜まりは、かなり深いらしい。
「よし、アイビー、ちょっとまっててね」
「はーい」
剣を握って、水溜まりに飛び込む。
魚が出てくることを踏まえると釣り堀にも見えてきた。
北の果てでは、そんな感じで釣りをする民族がいると聞いたことがある。
ブクブクと泡が上がり、視界が開いた所で、辺りを見回す。
少し前の移動の際に、このフロアでは使用するMPの量が倍増どころではすまなくなっているため『悪夢魔術』は、控えたい。
辺りを見回して、ふと、本当にふと気になった。
この迷宮に、ただのひとつも『本物』は存在していないのだ。
水も、モンスターも、そして守護者……守護者でさえもだ。
なら、この水を飲み込むと、一体どうなるのか?
ポーションの要領でMPが回復するのかな?
だから消費を激しくして、釣り合いを取ろうとしているのか?
いや違うな、そんなに優しいわけないか。
多分飲んだら拒絶反応とかでて死にそう。
そんな考察をしながら、見回しても、何も見当たらない。
海を彷彿とさせるスカイブルー……オーシャンブルーが青い水晶に反射して、本当に綺麗だ。
そんなことを考える。
その瞬間、視界の端に、危険を捉えた。
『大物がいる』獣の感がそう俺に囁いた。
感に任せ、その方を見ると、そこに居たのは……巨大な魚。
青白い水晶に身を包み、攻撃的な先端をこちらに向ける。
「ベバイバ!(デカイな!)」
水中に声が響く。
だが、俺の肺活量を舐めないでいただきたい、並のイルカといい勝負をする自信がある。
魔法は使えない……それが俺なんだ。
剣を抜き、腕をまっすぐ構える。
名前も知らないその大きな魚が突進をしてくる。
そして、それを受け流した時、違和感。
「ばっ!?」
血が俺の視界をくらませる。
俺の血だ……どうしてか、そう思い再度見直す。
その魚を見ていると、わすがな動きの違和感にやっと気づいた。
1匹の魚じゃなくて、小さな魚の集合体、それはまるで1匹のように襲いかかる。
剣を、水の中でも鋭く振るう。
魚が死に絶え、血すら残さず粒になって消えていく。
そして、魔石を落とさない……こいつ、さては中ボス?
それとも、この魚を作り出している本体がいるのか?
そんなことを考えながらこの魔法を真似しようと、じっと見て学ぶ。
魔法が使えない俺は、才能が無いわけじゃない、新しく学び直せばもう一度手にできる。
水魔法は、精霊同化の影響か、得意な気がする。
巨大な魚、受け流さず、感に従い突き刺し、中に侵入する。
赤い、魚が視界の端に。
咄嗟に手を伸ばし、手で捕まえることに成功した。
そのままにぎりつぶすと、魚がゆっくりと霧散していく。
代わりに手の中には魔石が、上等な魔石が握られていた。
水面まで泳いで、アイビーの元に顔を出す。
「大きい魚がいた、アイビーは水の中大丈夫?」
「さすがカル、倒したんですね。
水中は私も特に大したことはありません。
クジラ並の私の肺活量に任せてください!」
「よし、それなら手分けして水の中を探そう、多分なにか……おそらく下に繋がる何かがある」
「了解です」
息を吸い、飛び込む。
さて、久しぶりに本格的な散策を始めよう。




