魔王討伐へいざ【ラヴハート】
「……ここへ集う我々で魔王を襲撃するというわけか……?」
そう言ってペルソナ様が辺りへ目をやる。
私、ザン様、アルグロウド様、ペルソナ様の4人が今ここにいる。
他の皆様は……まぁ、皆さん、色々ある人たちです。
完全にフリーなのは基本的に私たち4人。
ペルソナ様も、忙しい身ではありますが、仮面をつけた傀儡を通じれば、何ら簡単に時間を工面できる。
ラグラン様は、自分が戦いにおいてあまり戦力にならないことを理解しているのか、後方支援に徹するらしい。
今、現在進行形で、魔王の動きを生中継してくれている。
現在、聖魔法といえば『聖国 ハリス』へ足を運ぶ。
その道中、足を運ぶとは言っても空を飛ぶ訳ですけどね。
「……とは言ってもだ、我とラグランは今回の奇襲では手を出せない。
ある程度、貴様らにも妨害せねば、疑いの目がこちらに向いて困ることになる」
「魔王がいなくなれば、そんなことかんけえねぇんじゃねぇ?パワープレイで全部行けるだろ、それぐらい」
「……いや、わからんのだ、以前の魔王ならともかく、我ですら『ディブロ クエイサー』の全貌を測りかねている。
何よりも、魔剣に認められずして魔王となった、歴史上唯一の血筋の者だ、どんな手段でこちらの奇襲をはねのけてくるかは想像もつかない」
いつになく真剣で慎重だ。
「………なら、魔王は………僕がやる」
ザン様がそう言ってフードを深く被り直す。
「では、ラグラン様を私が足止めします『私の固有スキルのせいで、魔界に情報を伝えることが出来なかった』そういうことにしましょう」
「ペルソナ、あんたは俺とちょっと撃ち合ってくれ!」
「任せろ、立ち回りとしては我の背後にいつもディブロがいるようにしよう、全力で我にかかってこい、紙一重で避けて手傷を与える手助けとしよう」
「…………僕も……魔王と殺り合える……楽しみだ」
深く被っているフードのせいで表情は分からないが、表情筋が動いた余波?だけで、ここにいる彼以外の3人は鳥肌が立った。
「……ははっ、やっぱあんたバケモノだわ」
「……年上に………随分な言いざまだな」
そう言っていつも通りの無表情で立ち上がりコツコツと歩き出す。
「聖国ハリスだな?……早く向かおう」
先回りする考えらしい。
「うむ、そうしてくれ、ではまた後に、本体と落ち合おうぞ」
そういうと糸の切れた人形のように……いや、比喩ではない、正しくその通りなのだ、糸が切れた。
アルグロウド様の背に乗り、高速でハリスへ向かう。
直ぐにわかる、私もザン様の元で少しは魔法についての理解を深めたつもりだ。
私は魔法をあまり使えない、才能がないが故に必要ないとばかり思っていたが、教えるものの違いでこうも世界が変わるものか。
「ザン様、あの方角……」
そういうと、ザン様よりも先に
「だよな!美味そうな匂いだ……それにやばさが刺さってくる」
感覚で話すアルグロウド様が答えた。
「間違いない………あっちだ……アルグロウド、行け」
「あいあいさー」
ふざけた返事だが、速度が一気に跳ね上がる。
そして、その魔力の塊に突撃する。
向こうはこちらに気づいていない……ザン様が何かしていますねこれは。
地響き、風圧、それらがハリス一辺の森を破壊する。
そして、巻き上がる木くずの隙間から、一人の女性が魔法を使う。
「『闇魔法』【侵害】」
そう言って、黒い飛沫を巻き散らかすのは魔王。
奇襲をしかけたこちらよりも、更に早く魔法を使う。
それはきっと慣れ親しんだものなのだろう。
体に染み付き、歩く時に足とは違う方の手を振るように、魔法を放つ。
しかし、恐らくまともに喰らえば、命取りの魔法が、木くずと同じかそれ以上に辺りに広がる。
これが魔王の固有スキル……?
「『状態異常系』か………」
そういうと、腕を振るザン様。
その飛沫があっという間に蒸発した。
「魔王……その程度では…………あるまいな?」
そう言って、ザン様かアルグロウド様の背からおり、魔王を直視する。視線が交差する。
「あなた達は何者でしょうか?
私が魔王と知って襲ってきた……ラグラン!」
「申し訳ありませんが……そちらの女性は私の術中です」
地面に倒れ込むラグラン様……少々手荒ではありますがご容赦を。
「先にあなたを倒さなくちゃね」
そう言って私の目の前まで一気に詰めてくる!?
獲物は……徒手空拳!?
ならば刃で迎え撃つ……間に合うか……!?
「……どこ向いてる」
刃を抜く寸分の時に、ザン様がディブロの目の前に迫り、蹴り込む。
「っグッ!?魔法使いのくせに……肉弾戦もですか……重い」
地面を引きずるように足の後が残り、がら空きの顔を狙った蹴りは腕がガードしている。
「あの一瞬でガードを……!?」
「一体一でやる…………あの仮面も厄介………任せた」
アルグロウド様の手伝いを……ということですか
「御意に」
ならば私は仕事をするまで。




