ソウルドのメイド【ラヴハート】
「……と、言うわけで、私はこの職場を退職させていただきます………今まで、本当にありがとうございました……!」
頭を下げて、雇用主であり、ここら一体を収める貴族『ヘルマイニ アグマー』様に辞表を渡し申し出る。
この人は……元々奴隷……それにすらなりえず死ぬはずだった私に……奴隷という身分を与え、そして私に『人間』という肩書きをくれた人だ。
いくら感謝してもしきれないが……しかし、我々『六罪』の計画の都合上、元を離れさせてもらいたい。
「わかったよ、僕が認めよう……と言いたいところなんだが……私情が混じると行かせたく無くなるよ……」
アルマイニ………アル様の年齢は26、現在この地を収めることとなったのは、彼の父の死が起因するものだ。
そして私の歳は……24、兄のように慕っているこのアル様の元を離れるのは私としても心苦しいのだが……仕方ないのだ。
「申し訳ありませんが……どうか……週に一度は手紙をあなたに当てて送ります、近況報告と、おすすめの茶葉、後は私の秘蔵のお菓子のレシピも、それでいかがですか?」
くだらない交渉、もはや成り立ってはいないほどのものだ。
私が逆の立場なら『いやだ』だが
「……わかったよ、仕方がないな……それじゃ、行くといい」
そう言って私のキャリーケースを渡す。
私の私物はこの中に入れている。全てだ。
そして……私はこの場を去ることとする。
「アル様……アルマイニ様、今まで本当にお世話になりました」
「ラヴハート、次に会う時は、2人とも同じ人間だ」
貴族でも、メイドでもなく……か。
「行ってまいります」
少し歩き……国を離れ、そして私は馬車を捕まえて、地図に丸を書いたところまで行ってもらう。
予め会計はすんでいるらしい……アル様
「……つきましたよ」
そう言って、こくりと頷き、草を踏む。
『パリン』と音を立てて草が割れる。
「ありがとうございます、ここで、大丈夫です」
そう言ったとき、私の口から白い吐息が漏れる。
今は10月にすらなっていないのにも関わらず、この地はいつでも凍てついている。
「本当にここでいいのか?『サーラー跡地』って言えば……壮観以外に何も無いはずだが……」
怪訝そうな顔と、寒くて仕方の無い顔をしてそういう馬車のおじさん。
「……この先に本当に……?」
私自身、この紙に書かれた座標を信じきれないでいる。
そこはとある大きな湖のど真ん中を指していて……そこに『彼』は居るというのだ。
「不思議なお人です『アングラ ザントリル リーパー』様」
しかし……歩き続けて、そして湖に到達した時、私は一瞬意味がわからなかった。
「湖の上に……都市が……水上都市……!?」
不干渉の条約を結んだ他の離れた国の分化にある水上都市。
知識としてしか理解していないが……目の前にしてみると、なぜ浮いているのかさえ理解が及ばない。
そして、その水上都市こそが、彼の指した座標その位置だった。
開きっぱなしのもんをくぐり、崩壊した街並みを眺めながら、ただ歩く。
ふと、カツンと足音が聞こえた。
振り向くと、不健康そうな顔の男がローブに身を包み……こんなにも寒いのに、シャツと長いズボンだけ……何の防寒具もないままにそこにいた。
「アングラ ザントリル リーパー様、ラヴハート、只今参上致しました」
そういうと、私の目を射すくめる。
ビクッと肩が反射的に跳ねる。
「……そうか……会議……本当にしに来たのか………キャリーケースを見るに………一度あった僕が不健康に見えて………世話でもしに来たつもりか……?」
見透かされている……これが、『六罪』一の恐ろしい男。
「いかにも……その方が何かと都合がいいかと思いまして」
「……かもしれん…………僕の名を………いちいちフルネームで呼ぶと長い………何が好きに呼べ……ラヴハート」
私に名を選べと……なんて呼びましょうか?
「……かしこまりました『ザン様』」
「……ザントリルの………ザン……か。
安直だが………故に可も不可もないな………寒かっただろう……家へ案内しよう」
そのようにして人を思いやる気持ちはあるのですね……
「お気遣いは無用です、私はメイド、あなたに仕えさせて頂いている身にあります……私のことはどうぞ気にせず」
そういうと、無表情のままにこちらを振り向き直し
「……気に入った………家に案内し、少しの間『僕が寒いから休ませてもらう』………異論は?」
「あろうはずがございません……」
白い吐息も、寒そうに手を擦るわけでも、防寒具も着込んでいない彼はきっと……
「……ならば………行こうか」
「はっ」
拝啓アル様へ
この人の元であれば……私は上手くやっていけそうです。
最近のオススメの茶葉は『カタバミ』です。
私はいつも雑草と思い捨ててしまっていましたが、新しい職場の雇い主はカタバミを好むようです。
頂きましたが……この茶に関しては雇い主の方が何枚も上手、いつかご馳走してみせます。
お菓子のレシピはまず初めに……クッキーから
そう書き綴り、彼が手紙を出してくれた。
彼の魔法は……本当の『魔法』だ。




