魔女の茶会【グエル】
「……カルカトスさん、本当にありがとうございます」
「いいって、あなたが持ってる方がきっとあいつも喜ぶよ」
師匠の遺品を預かり……帽子と杖を持つ。
杖が……こんなに重く感じるのは気のせいか、意志の重さか、本当に重いのかは今の私では判断しかねる。
でもいつか、重さを感じなくなったら、力が強くなったか、心が成長した証……この重みは私に成長を与えてくれる。
「今日魔女の茶会があるんですね」
「……えぇ、そういうことですね」
行ってきますって言って、この街を離れる。
とある印がついたタイルを踏んで、魔力を込める。
魔女の持つ杖……それは特別製。
コンッと地面をつくと、淡く光り、私は消える。
「……あ!キタキタ!!久しぶり!グエルちゃん!ディンの事は残念だったね……」
そう言って声をかけるのは水の……『蒼白の魔女』『スパニー ジェル』青い髪とおっとりした性格。
「ジェルさん……久しぶりですね、今日は私もこっちの席に失礼しますね」
「グエル!!!元気だったか!?」
この明るく元気な女性は火の……『爆炎の魔女』『エングリュー フレイローズ』赤い髪のハイテンション。
「ローズさん!お久しぶりですね!」
「虚無の魔女にしては随分とお元気ですね」
落ち着いている静かなこの人は光の……『極光の魔女』『クレセント メラキ』金髪で、冷静沈着。
「やっ、元気そうでなにより〜」
おおらかな女性は風の……『疾風の魔女』『ウィンドフォール シュッペル』深緑の髪で、自由人。
「……お久しぶりね」
ニコリと笑うこの人は雷の……『紫電の魔女』『サンガド バリッサ』濃い紫の髪で、大人な人だ。
「はい!皆さんどうもお久しぶりですね!お茶会……楽しみましょうね」
そんなことを言いながら椅子に座る。
円形のテーブルに沿っておかれた椅子に座る。
私の目の前に……対角線側はいつも居ない、黒の魔女。
「黒の魔女は今日も来てないんですね」
そうつぶやくと
「だね〜、もういっその事君になって欲しいぐらいさ……3代ぐらい前から来てないから存在自体知らない説も、途絶えた説もあるよ〜」
3代ぐらい前から……そんなに来てなかったんですか。
「正確には……193年と4ヶ月ね」
メラキさん細すぎて怖い……
そんな話をしたり、お互いの近況報告をしたり、色々してると、ふと、おかしな気配がして振り向いた。
他の人たちも、本能的に……恐怖心が、好奇心を塗りつぶして振り替えさせた。
そこには黒いボロボロのローブ、美しく細く長く伸びた手足が、黒のズボンとシャツにあっていて、どうにも美しく、手持ちのリンゴを1口齧った姿は……不思議と死を彷彿とさせた。
そんな美しい……男が、突如現れた……杖も持たずに、だ。
「あ、あなたは……誰?」
ここにいる魔女がみな、これ以上動けないのだ。
この突然の人物の襲来に体が萎縮しきっている。
口を開き、声を発する。
「……僕は…………魔女………『黒の魔女』………『アングラ ザントリル リーパー』」
声がどうにも耳に、恐ろしい程に抵抗を許さないほどに、聞き惚れてしまいそうな綺麗な声。
「お、男の人だよね?」
「………そうだけど……魔女…………だ」
明らかに私よりも若く見えるその男は、その目が異常に冷たくて、恐ろしかった。
「……茶会に来たのは久方ぶりだ………実に193年と4ヶ月、1週間と3日、1時間15分、6秒ぶり……だ」
淡々と、正確に男が……リーパーが言葉を続ける。
メラキさんの正確な時間表記よりも恐ろしい、絶対的な時間感覚。
「……君は………黒魔法使いかい?………珍しい」
そう言って、あっという間にこちらへ詰め寄ってきていた。
気がついた時には目の前に、驚く暇さえなかった。
その瞬間、私が距離を詰められたと同時に、多方向から魔法が飛んでくる。
「…………流石に……代が変われど…………流石だな」
そう言って両手を広げると、魔法が全て霧散した。
「は?」
誰の言葉か分からないが、圧倒的にレベルが違う……だって『何をしたのかさえ分からない』のだから。
「……君、名前………名前は?」
「わ、私ですか?」
「………そう……名前」
「グエル……です」
「………グエル………まずは……魔法を……咄嗟に使え」
「あっ」
あのタイミングで、私だけが反応できていなかった。
「……食器を……落としたら…………間に合わないってわかってても………手は出る……それぐらい……反射的に………間に合うかどうかは……別だ………」
こ、この人は……何者なんだろう?
「君達も………いい魔法……だけど、焦りすぎ…………綻びだらけだ………お茶会……結界があるから……敵が……来ないのは分かる………警戒は、それでも怠るな………全員……殺せたぞ?」
その言葉に……ゾクッときた。
背筋を冷たい氷が這ったようなありえない感覚。
そうとしか形容できないほどの恐ろしさ。
「……久しぶりの茶会………僕も……1杯頂きたいね」
そう言って、私の正面に座る。
そのまま茶会は続いた。
「……あの、アングラさん」
「……リーパーで……構わない…………どうしたんだい……グエル」
まるで眠たいのかと思う程の言葉と言葉の間、何故だろう。
「私に、黒魔法を……教えてください」
「……君に……?………いいよ、おいで………今すぐ……教えよう」
この男から学べるものは……きっと私を急成長させるだろう。




