聖の極地【サクラ】
9月10日、少しばかり寒くなってきた……虫の音は変わり、長い袖の服を着る機会が多くなった。
『いいですか?サクラ、聖魔法に必要なのは才能、努力じゃありません』
そう言って説明を始める。
「なに?努力が要らない?」
即戦力ってこと……?まぁ、才ある者にとってだがな。
『いえ、要らないぬ訳ではありません、ただ比重が全くの別物なのです』
「……比重?努力と才能のか?」
『えぇ、その通りです、そしてあなたにはその才能があります……これぐらい人気がなければ人目を気にせず練習できますね。
では、手をかざし、そこの木目掛けて魔法をどうぞ』
何の魔法を使えばいいのか本能的にわかった気がした。
「『聖魔法』〈聖光弾〉」
光の玉が、木に大きな傷跡をつけた。
『流石に天才……では次はこの木を癒しましょうか』
「……『聖魔法』〈聖治癒〉……おぉ……」
回復……いや違う、再生?
木が長い年月をかけて癒す傷を、その必要な時間を一気に凝縮したような。
『再生ではありません、回復でもありません、もはやそれは創造、新たな身体を生み出したも同然です』
「……はぁ?つ、つまりどういうことだ?」
よくわからんが凄いことはわかる。
『あぁ……ええっと、例えば内蔵とかを人間が失っても、それを1発で治せます、欠損した手足、瞳、なんだって……ね』
「じゃあ、聖女がいたら人は死なないで済むのか!?」
『もちろんそうです!と言いたいところですが死人は無理です、生きてる者のみです』
まぁ、流石にそうか……
『しかしそう落ち込まないでください、あなたがひとりいるだけで、何万人という人間の命は救えること間違いありません』
「ま、万だと!?それは流石に嘘だろう?」
『いいえ?魔法に必要なのは心、それが何万人と救いたいという決意さえあれば、不可能を可能にする圧倒的な才能があれば……可能ですよ』
「……私にはそれができると?」
『あなたは人間を、かなり好んでいますからね、きっと出来るでしょう、才能に関しては……心配することはありません、私の目は差し上げられない才能ですが、別ベクトルであなたは別格……そう、それはカルカトスにさえも手の届かない雲の上でしょう』
「んなっ!?あの人間にもか!?」
『えぇ、もちろん、私が、五十層の守護者が保証致しましょう
この世にあなたと同等の才能の持ち主は聖女と、エルフのとある一族……そしてあなただけだと』
「……もっと」
『……へ?』
「もっと教えてくれ、私に、聖魔法を、誰でも助けられる……例え、戦争が起こっても、仲間を助けられるだけの力を、私にくれ……!」
『!いいでしょう……私も誰かに何かを教えるのは得意とは言えません、一緒に頑張っていきましょう』
「あぁ!頑張るさ!このサクラ グランドに不可能はない!」
『……ほんと、そうなのが恐ろしいですよ……』
何かボソッと言ったか?
「何か言ったか?」
『いいえ?ではその戦争が、起こりえないように、少しだけ抑止力をかけさせて頂きましょう……ちょっとした、先手の撃ち方を、あなたもいつか使えるように……人類の平和のための一手を』
「な、なんだそれ、まるで戦争を抑え込むような物言いだな」
『そのとおり、戦争は少し遅れますよ……手を出して、そして、本能のままに言葉と魔法を』
こいつを信じ切るのが正しいとは思えないが……今のこいつは本当に人間のためにしようとしている。
「わ、わかった……」
目を瞑り、魔法を使うために本能に任せる。
言葉が溢れて出てくる。それを魔法として紡ぐ。
「『季節外れの秋の蝶』『花にとまり』『目にとまり』『目を奪う』〈一羽の蝶〉」
手のひらから小さい蝶が東の方へ飛んでいく。
その蝶からは自分が生み出したとは思えない……いや、本当に自分だけの力で作ったわけじゃないだろう。
おぞましいまでの魔力と、渦巻く聖魔法の塊。
見てるだけで鳥肌が立って、吐き気がするほどだ。
「あ、あんなのが……戦争を遅れさせる?……というか、やっぱり戦争は起こるのか」
『まぁ魔族が人間の貴族の人殺したらしいからね、フツフツと募ると思うよ
それに、あの蝶のことは信用してもいいよ、きっと世界を狂わせる』
「……狂わせる?」
『うん、本来私は歴史にしか存在できないからね』
ま、死人に口なし……って言うからな。
『あの魔法こそ、まさしく正魔法の極地、自力であれを出せるようにね』




