真の努力家【ラング】
「……あぁ?なんだよ?」
俺は昔、地元でかなり荒れてた……
今となっちゃ笑い話だったが、全然犯罪なんて犯しまくってた。
それが面白くってかっこいいことだって思ってた。
いつだったか、覚えているのは、戦っている男を見た。
テレビの向こうで歓声を浴びて戦っている男が、とんでもなく強くてかっこよかった。
それを知った俺は、憧れない訳には行かなかった。
その日からの俺は人が変わったように、自分を磨き続けた。
1日何百回の筋トレ、それですら足りないと思い、何千回、どんどん増やしていった。
俺は、自分の成長具合を、紙に書く。
階段のように小さな凸がいくつも段々と右肩上がりに上がっていく。
なら、天才を例える時の成長曲線は、きっと崖のように、縦の線が拙くて、それでいて次の段までの隙間に足を置いている暇すらない。
一段飛ばしなんて生易しいものじゃなくって、何段も何段も俺をとびこえて雲の上にいく。
それがわかった時、俺は怖くなった。
「俺はどんなに努力しても、追いつけねぇんじゃねぇか?」
たった努力するだけで天才を上回るのなら、それは大天才のみ許された所業だ。
俺が冒険者になったその日に、とある大天才に仲間にならないかと誘われた。
この大天才は、ただでさえ優遇された種の、さらにひと握りの才能、そして、高みへ行くことへの貪欲な、勝利への執念があった。
「……なぁ、サクラ」
「なんだ?ラング」
俺とライト、あのころはナプラもいた。
でも、あの日は確か俺とサクラの2人だけだった。
「……俺さ、天才に勝てるようになりたいんだ、俺はただひたすらに、ゆっくりと静かに登り続けるしかないんだ……俺の事なんて、気にせずに、お前のペースで登り続けてくれよな」
最悪俺は置いていけという、覚悟を決めた言葉だった。
しかし、俺のその言葉を、いとも容易く返して見せた。
「……はぁ、ラング、貴様はやはりどこか馬鹿だな」
こいつにそんなことを言われるとは思わなくて、少しフリーズ。
「……仲間と共に強くなるのも、また悪いものじゃないだろ?
それに、お前がずっと努力をしているのを私は知っているさ、努力家に必要なのは転機たった一つのきっかけで、努力は開花する」
そう、こいつが説明を初める。
「私は勝ちたい、負けたくない、絶対に相手を叩きのめして、完膚なきまでに圧勝したいんだ……だが、私よりも勝利に貪欲なものが……お前だ」
負けず嫌いな自覚はあるが、そんなに酷くは無いはずだ?
「なんだその顔は……気づいてないのか?
……はぁ、なら教えてやろう」
仕方がないなぁ、といった調子で俺に教える。
「いいか?世界で1番勝ちたがっているやつは、勝ち続けてるやつじゃない。
『一度も勝ったことがないやつ』だ、それはお前だ
大きな勝利を、その転機があればお前は、天才よりも強いその勝利欲が……一気に!爆発する!!」
「……いや、俺だって勝ったこと何回かあるからな?」
グエルや、その他もろもろ、勝ったことがないわけじゃない。
「……はぁ、勝利とは、戦いに勝つことが全てか?
勝負に勝って試合に負けた、などと言ったことがあるように、勝利は黒星白星などで語れるほど浅いものか?」
おぉ、凄く……なんだろう、そんなことをこいつに言われるとは。
「……どの口が言ってんだか」
「この口だ」
そう言ってその口を笑いの形に変えて指さす。
「……まぁなんて、私はお前を仲間に引き入れたことをほんの少しも後悔していない。
お前がいつかその力を開花させるときを、楽しみに待っているぞ」
「……おう、任せろ」
そう返事をするので精一杯……ちょっとだけ嬉しかった。




