覚悟の風呂上がり【カルカトス】
「……俺は一体さっきの言葉のどこに疑問を持っていたんだろうか……?」
あの、よく分からない疑問点、しかし今の俺は疑問を持っていることに疑問を持ち始めている。
「……まっ、覚悟を決めなきゃなのは俺もだな」
そんなことを言いながらバスタオルに顔を突っ込む。
歯を磨く。最近まで鉄の匂いがしていたが今日はしないな……排水口のせいかと思ってたが、まぁ直ったならなんでもいい。
アイビーの事を気遣って、あえて、あの六十層のことを無視していた。
しかし、自分の方から言い出そうと、そういうのなら受けよう。
「……上がったぞ、アイビー」
声をかける。
椅子に座り、両手を組みあわせて、膝の上に置いていた。
俺も考え事や覚悟を決めとき、同じような体制をとった記憶がある。
「あ、はい……あ、座ってください」
言われた通り、椅子に座る。
正面を向いて話し合おうか。
「……カルさん、まず私は……その、普通の子じゃありません」
「まぁ、ゴールドランクの冒険者が普通なわけないよね」
「えぇ、そして私は……人造兵器と言いましょうか、なんて言うのかなぁ……」
いきなり言葉に詰まってる……あれだな、考えることが多すぎてどこから手をつけようかっていうのに悩んでたんだな。
「……うぅ、カルさん……なんていいましょうか」
おぉ、俺に助けを求めてきたか……なら聞きたいことを。
「アイビー、俺とお前は、本物の家族か?」
「!はい、それは家族ですね、血も繋がってますよ」
「それは俺の体じゃなくて前の方……精算前のほうだな?」
「あ、はい、そうですね、内臓頂いてました……どういう訳か体に合わなかったんですけどね」
俺の元々の体ボロボロじゃん……何も残ってないなぁ。
「生まれつきそんな見た目だったか?黒髪赤目、そうだったか?」
「あ、はい、それもそうです」
「……なるほど、じゃあなんであいつの元を離れた?」
そう、これが一番謎なんだ、キメラなら、普通は作ってくれた人に尽くすものだ……コリ、クリンゲ、アルマトゥーラの3人がそうだったように。
「うぅん……ただ、あなたに憧れて後を追った感じですかね?ただ、外が見て見たくて」
そんな適当な理由で……あ、でもそういえば内蔵か……
臓器移植の話で聞いたことがある、なんでも、その臓器の持ち主と同じように、まるであったことも無いその人が憑依したように、言葉が、思考が似るという話を……それでか?
「あ、あの〜?」
深く考え込んでいる俺に声をかける。
「おっとすまん、つい考え込んで……まだ質問がいるかな?」
「……いえ、大丈夫です。
今の私に必要なのは、きっとあなたなんです」
ん?どういう意味だ?
そんな風に硬直していると、俺を見る余裕が無いのか、言葉を続ける。
「私は、アイビー、あなたがくれた私という存在、私にとってあなたは神様も同然だったんです……そんなあなたが私に存在する意味をくれた……そんなあなたの元を離れたくありません……迷宮探索だって手伝いますし、料理も掃除も頑張りますから……私を置いてください」
意外な頼み……そして、この『存在意義』どうこうの話は以前ラジアンにしたことがある。
『存在証明書を神さまがくれる訳がない』なんて説明したが、あくまで比喩ではあるが、実現してしまった。
それよりも答えは決まっている。
「いいよ、別にアルマトゥーラ達も、できるなら、普通に家族として暮らしたかった。
俺たちだってただの人間だったんだから、な?普通に人並みの幸せを手にして悪いことなんてない。
それを否定するやつなんていない、いるわけが無い」
柄にもなく熱く語った。
それが響いてくれてのか、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます……!」
まぁ、腹の中を全て明かしてくれたって訳じゃなさそうだが……ゆっくり教えてもらえればいい、1年でも、10年でも、そういうある種の余裕があるのもまた幸せだ。
「……っさて、それじゃ俺も秘密をひとつ……耳貸してみ」
そういうと「?」と言った顔のまま、こちらに顔を寄せ、耳を傾ける。
「俺実は魔王軍の四天王なんだ」
そういうと、驚いたように目を見開く。
「え?そうなんですか!?」
「あぁ、前に謝りに行ってたのは上司相手……そして、もしもでも戦争にならないように不穏な動きを逐一報告……って言うのが俺の仕事なんだけど、迷宮探索をし続ければいつか実績が認められてかなり上の方に正攻法で正面から行けるはずなんだ、だから影から見張るのはまた別の人に頼んでるんだけどね」
そういうと……あれ?目がキラキラしてる
「わ、私も、私もそんな風になりたいです!」
「おぉ……え?いいの?」
今のアイビーはとんでもなく強い。
何故かって?それは今の俺がしたくてしたくてたまらないとある事を、なんでもないようにしていたから。
俺の『悪夢魔術』の主な内容は、体の形質変化。
主に腕を増やしたりして、他の生物の形に変える。
俺の体の中にはドラゴンを喰っていないせいでドラゴンにはなれないが、歪な形で再現出来る。
時にカルラド・ボルテみたいに状況が良ければ例外もある。
ただ、そんな俺ができないこと、それは身体から切り離すこと。
あの鯨はアイビーの気絶とともに消えていった。
凄い……俺にはあんなにもくっきりと存在させる所か、そもそも身体から離した時点で消えていってしまう。
つまり、練度、才能、もしくはその両方が俺を遥かに上回る。
そんなアイビーが魔王軍入りなんて拒むやつがいるわけが無い。
「あ、明日ステータス見に行こうか」
「分かりました!」
これも魔王軍入りの試験と見ているらしいが……個人的な興味である。




