おかえりなさい
「それじゃ、家まで送るね」
教会から徒歩10分程度の我が家、カルさんが行ってから3日、今日、帰ってくる日だ。
「そういえば結局どこに行くのか聞いてませんでしたね」
「ん?あ、確かに、どこに行ったんだろうね?」
ま、それは後で聞こうか。
「家に着いたらどうするの?」
シアさんの質問。
私は以前から決めていることがある。
「ご飯作って待っています……!」
自炊。
カルさんがいつも作ってくれている。
この3日間もシアさんが作ってくれていた。
「へぇー?私も食べたいなぁ」
「!任せてください!」
材料はカルさんが残してくれていたものを使う。
「なーに作るのー?」
私が包丁を握ると、こちらへふらっと何気ない質問をしながらやってきた。
怪我をしないか見守ってくれているのだろう。
「ワショクってやつ作ってみます!」
東の方の大陸や、あとは鬼の住む国のところで一般的な食事。
ハシを使うらしいが難しそうなのでフォークとスプーンで食べるわけだ。
「へぇ、和食か、私も何回か作ったことあるよ」
それはありがたい、本を読んで手にした程度の知識、間違っていたら教えてもらおう。
ダシをとっている間にコメを洗う。
鍋でご飯は炊くつもりだ。
味噌を溶かしたり、魚を焼いたり、そんな感じで順調に進んでいる。
「出来ました……!」
立派な3品、うん、美味しそうにできた
「おぉ、流石カルさんが言ってた通り記憶力凄くいいのかな?よく分量覚えてたね」
「えへへ……」
「ふふっ……おっ?」
扉が開く音が聞こえた。
「ただいまー……お、いい匂い?」
カルさんだ!カルさんが帰ってきた!
キッチンからリビング、玄関に飛び出し、飛びつく。
「おかえりなさい!」
「うおっ!?っごはっ!?」
みぞおちに結果的には頭突きをしているが……今の私はそんなことに気づかない。
「ははっ、愛されてますね、カルくん」
シアさんが後ろの方から声をかける。
「はっ!?ご、ごめんなさい……」
すっと離れ恥ずかしさからか、反射的に謝る。
「何がだよ……ほら、ただいま」
両手を広げる。
飛び込む私は自分の思う以上に寂しかったし、カルさんのことが想像以上に好きだったみたい。
「ところでなんかいい匂いがするな」
「わ、私、ご飯作ってみたんです」
「へぇ?食べてみたいなぁ……」
「ご飯にしましょ!作ってあります」
「そうしよっか」
荷物を置き、リビングへ。
「頑張ってたんですよ、アイビーちゃん」
そんなことを言うシアさんの言葉が耳に入り、気恥しい。
「おぉ、和食作ったんだな」
「はい!ワショク作りました」
「うん、いい匂いするし美味しそうだ」
手を洗ったあと、冷蔵庫から水を持ってカルさんが席に着く。
「それじゃ……いただきます」
「「いただきます」」
そう言ったあと、ご飯を掬い、味噌汁を口に含む。
カルさんのと違って変な味がする……うぅん、失敗しちゃったかな……?
「お、おぉ………美味いな、美味いぞアイビー」
「!そ、そうですか!?ありがとうございます!」
私はこの時ばかりは人を疑わなかった。
「わ、私も美味しいと思うよ、ウン……」
よかった、上手く作れてたんだ。
変な味がしてあんまり美味しくない気がするけど……ま、こういうものなんだなぁ。
魚からも異次元の風味と未知の味がしたが、美味しいと2人言ってくれているからこういうものなのだろう。
「そういえば、カルさん3日間どこに行っていたんですか?」
そういうと食事の手を止め、正面にいる私の方を向いて答える。
「ま……向こうの大陸だな、友人がいてさ、記憶ない頃の俺が相当酷いことして、謝りに行ってたんだ」
「 へぇ……」
あの『ま』は……魔界?そんなわけないか、言葉の語頭に『ま、○○○だな』なんて話し方をするのは決して珍しいことではない。
2人とも完食してくれた。
洗い物はカルさんがしてくれるらしく、シアさんと私でお風呂に入る。
「こうやって一緒に入るのも慣れたよね」
お風呂で私の頭をわしゃわしゃしてくれるシアさん、目を開いてから
「ですね……シアさん……ホントおっきいですよね」
「ん?……あ、あぁ、まぁたしかにそうかもね」
かもじゃなくて絶対に一般よりもでかい……うぅ
「私も小さい頃から沢山食べてたら大きくなってたのかな……」
胸に手を当て、少し下を向く。
「ま、まぁ!?大きいことがいい事じゃないからね!?
太ってるって思われがちだし、肩もこるしで、大変だよ」
「贅沢な悩みです……」
「うぐっ……頭洗ってあげるよ……こ、こっちおいで」
うぅ、その優しさが胸にきます……
「シアさんお母さんみたいですね」
「お母さんのこと覚えてるの?」
そう言われて、少し考え込む。
私の母はどんな人なのだろう?
確かに覚えていないが……母性本能?
「覚えてないど、わかるんです」
「そっか、なら、お父さんはカルくんかな?」
そう言われると、少し違和感。
「お兄さんの方が距離感的に近いかもです」
「あぁ、確かにそんな気もするなぁ」
ワシワシと頭の泡が目の辺りに降りてきて目を閉じた。




