勝利を求めて【カルカトス】
「……よし、私は剣を抜かないよー」
ハンデとしてか、魔族の女がそう言う。
「ありがとう!」
距離を詰め、切りかかる。
「かすり傷ひとつも与えさせないよ!」
俺の剣を『篭手で』弾く……どうやっているんだよ……それ。
幸い何本かの木も範囲内……最後の勝負をかける時に使うとしよう。
「ささっ!もっとたのしませてよ!」
遊ぶつもり満々らしい……なら、こちらも考えがあるものだ。
「……?遅い……疲れた?」
さっきまでとは違いスローに動く。
初速も遅く、剣をゆっくりと振り上げ……万力のような力を込めてゆっっくりと振り下ろす。
「?……まぁ、これも何かの手かな?……んぐっ!?」
前と同じ様に手に着けている篭手をぶつけ、受けようとしたその瞬間に急加速をする。
「……引っかかったね」
「むー!やったなぁー!」
頬を膨らませ、プンプンと怒っている……ただ、それだけだ。
その体には傷1つ着いていない。
「……こんのバケモンが!」
「レディーに向かって言うことじゃないね!?」
「……だぁ!本当にどうしたらいいんだよ!?」
「……そう言いながら君はもう次の手を考えついている……そういう人間なんだね?君は」
「……なんの事だか」
やばい、バレてる……
ひゅーひゅーと無様な口笛でも鳴らして誤魔化そう。
「もう俺は感に頼るね!」
「へぇー?自暴自棄?」
「まさか!勝利を求めての行動さ!」
バッと距離を詰める。
ここが使い時、木を蹴り、縦横無尽に暴れながら切りかかる。
「早いねぇ!そのLvの人間の動きじゃないよ!うんうん!やはり面白い!」
「何の話だよ!」
「いーや?なんでも」
連撃……今の俺の最高速度、最高威力の剣劇を繰り広げ……それを簡単に手で弾く。
「うーん……中々に強いね、君は」
「あんたは強すぎだろ!?」
「これでもまぁまぁ頑張ってるんだよ?」
汗1つかかずに涼しい顔でそう言った。
「……もう俺は汚い手も使うからな!」
「へぇ?」
剣をまた、左に切り上げ、空中で捨てる……そして、掌を広げ、篭手の外の右の指を狙う。
ローブの中の弓に触れ、魔力を流す。
「ん!?矢!?」
掌から矢を生成し、切り裂く為に伸ばす。
その俺の不意打ちも避けてくる……が、それは読んでいる!
突然の不意打ちに左に避ける、そして、そこには俺がさっき投げた剣がある!
「っ!?剣!まさかこれもっ!?」
それを避けるために『一手遅れて』後ろに飛ぶ。
その一手の間に俺も前に詰める!
「もちろん読んでるさ!……これでっ!終わりだっ!」
「キャーー」
肩を掴み、後ろへ運ぶ足を引っ掛けて地面に押し倒す。
「キャー、カルカトス君のえっちー」
「……やった……これでっ!」
「私も負けたくないから剣抜くね!」
「まずいっ!?」
すぐに矢で、二の腕の辺りを切る……
「あー、残念……私の負けー」
鞘から少し出かけている真っ黒の剣……そこから発せられるオーラが……全細胞が『ヤバイ』と言っている……危なかった。
「うーん……負けちゃったや」
「俺の……勝ちです」
試合に勝って勝負には……ならなかった。




