真の悪夢【カルカトス】
「……本当に……ありがとうございました」
日が昇り、仕事へ向かうシアさんに礼を言う。
「いえ、全然……あのまま元気だといいんですけど……」
激しく同感だ。
「……ほんと、その通りです」
そう返すと、少しシアさんが考えるように顎に手をやり、口を開く。
「ちゃんと、見てあげてください、それだけで喜ぶと思いますよ」
「?……はい、ちゃんとめんどうは見ます
あと……多分またそう遠くないうちに、また頼んでもいいですか?」
「?いいですけど……どうしたんですか?」
「いやぁ……ちょっと謝らないと行けない相手がいるものでして……」
ラジアン……ほんと、すぐ謝りに行きますから襲いに来ないでください……頭の片隅に常にあったとんでもない恐怖。
「……か、顔青いよ?」
「……へ?いやぁ!?そうかな!?」
声が少し上ずったぁ!?
「……そんなに怖い人なの?」
「いや!?めっちゃ優しいよ!ただ!怒らせたらその分……な!!?」
「な、なるほど……優しい人ほど怒らせると怖いって聞くもんね」
あぁ、まさにその言葉の通りだな……じゃねぇ!?
その理論で行くと怒らせたら俺死ぬ!?
「……ちなみに何日ぐらい開けるの?」
「……3日……いや、7日、1週間かなぁ」
「……もしかして1人じゃない?」
「……はい」
四天王全員、あと……あったことの無い参謀と、優しい魔王さま。
あー……腹くくらねぇとな。
本当の悪夢ってもしかして今か……?
「出来るだけ早く帰ってくるつもりではいます……ボロボロでも何も聞かないでください……」
「……『家空けるなんてアイビーちゃんが可哀想』って言おうとしたけど……なかなか壮絶なんだね」
「えぇ……俺にかなりいい地位をくださったあの方たちに……あぁこっわ」
「カルくんもビビるんだね……」
「……あぁ、確かに……最近は強くなったからそう言うのはなかったけど……まぁ、俺が悪いし仕方ない……!」
「お、潔いい……大物になれるよ」
ポンと肩に手をやられる。
大物になる前に死なないことを祈る……
「アイビー」
「……はい」
今だにソファーの上で寝転がっているアイビーを呼ぶとちゃんと声が返ってくる。
「調子は?」
「……まぁまぁです……ちょっとキツイぐらいです」
「どうきつい?」
「頭が痛いです」
頭痛か……まぁ、中身がボロボロだから当たり前か。
「他には?」
「……カルさん」
「?どうした?」
「私の事はいいですから、その……謝罪に行ってください」
「……聞こえてたのか……いや、その人たちも大切だけど、お前の世話の方が大事だ」
「カルさんの代わりに私のことを検診的に見てくれる人がいるとしてもですか?」
「……シアさんのことか?それは流石に申し訳ないし、彼女にだって仕事がある……」
「きっとあの人は、それを捨ててまで、私の世話をしてくれる……それを踏まえた上で、彼女の生活を危惧したその発言なんですよね」
「!」
計算高い……のか?人を分析するのが得意なのかもしれない。
「違いますか?」
「そ、その通りだ……」
まるで作り物のような完璧な回答に内心驚嘆している。
「確かにそれは申し訳ないです、でも、あの話を聞いていると、おそらく謝りに行く時は私をシアさんに任せる、そして、あなたは今すぐにでも謝罪に行きたい」
こくりと頷く。
「私と一緒に行くのは体調的にも無理だと私は思います、けどあなたは私を1人にしたくない……私も1人は悲しいです。
シアさんは私を1人にしない。
となれば、私がシアさんのところにお邪魔するのが1番じゃありませんか?」
「シアさんは仕事を、お前はシアさんの近くに、俺は目的を果たせる……と?」
「えぇ、もう一度血を吐いても、シアさんならおそらく大丈夫かと」
「でもだな……」
なんて話をしているとインターホンがなる
「誰だ……はーい?」
「私だ!」
馬鹿みたいに明るいその声で分かる。
「お前かよ!」
「私で不満か!?人間よ!」
サクラ グランド、この馬鹿だ。
「なんの用だよ?」
「……いや……そのな……」
モジモジしながら後ろに組んだ手を前にする……似合わねぇなぁ、おい。
「服……『ありがとう』……洗濯はこっちの方で学んで、済ませた」
「……おう『どういたしまして』」
紙袋に入った服を受け取る。
こいつがこうも下手に出るとは……明日は雪だろうな。
秋にもなっていないのに、そんなふざけたことを考えていると。
「誰かいるのか?」「どなたでした?」
2人の声が重なる。
「アイビー!?歩けるのか?」
タオルケット片手にやってきた。
「はい、普通に歩けます……そちらは……竜人?」
あ、その間違いは不味い
「ほほぅ!?貴様この人間の血縁者かなにかかぁ!?」
「……まぁ、はい……」
「……き、今日のところは不問としてやる……次はない、私は純血の竜だ」
「悪いなアイビー、こういうやつなんだ」
「こういうやつとはどういう意味ァ!?人間ンンン!?」
「なんかお前やかましくなったか?」
こう、元気……じゃねぇな、うるさくなった。
「なーんのことだ!?」
「うるせえってんだよ!?なんかお前うぜぇぞ!?今日!」
「うぜ……そ、そんな言い方はないだろう!?」
「……もうお前帰れよ……服は預かったからよ」
「……ちぇっ、つれねぇやつぅー」
なんだなんだ!?なんなんだぁ……!?ラングみたいになってきたぞこいつ
「……明日、結局行くんですか?」
「……本当に、アイビーはそれでいいの?」
「……はい、構いませんけど……」
タオルケットを口元によせ、表情を隠すようにした後、言葉を紡ぐ。
「……早めで……お願いします」
「……1週間以内には帰ってくるよ」
「……はい、お願いします……」
 




