その願いはどこに?
「……それ、なんですか……?」
「!起きたの!?アイビーちゃん!?」
「はい、迷惑かけてすいません」
平気では無さそうだが……顔色も良くなっているし、何よりも危険信号は収まった。
「い、いや、迷惑だなんて……」
「……それより、さっきのってなんですか?」
「あれは……ただのお祈りだよ」
「誰に祈ってるんですか?」
「シーアス様って言ってね、運命の神様だよ」
「聞いたことあります……その祈った願いって、どこに行くんですか?」
「へ?えぇ……神様、この場合シーアス様かな?」
「それで、シーアス様が私を治してくれたのなら、私に願いは到着したんでしょうか?」
「ん?……あぁ、私→シーアス様→アイビーちゃんってこと?」
「そんな感じです……違いますか?」
「うぅん……どうなんだろうか?
本当にシーアス様が治してくれたって訳でもないかもしれないしなぁ」
「……お二人の献身的な治療のおかげ、神様に願いは届かなかった……?」
「……わからないなぁ……」
「……でも、私はきっと神様に救われませんよ」
「っえ?」
その発言に驚いて、思案するために宙へ向けていた視線をアイビーちゃんに戻す。
その顔は、落ち着いて……大人びて見えた。
「私たちは、救われないんです、救えないから」
よく、わからない。
それが本音だが、私なりに頭を回し解釈をする。
「確かに神様が救ってくれないかもしれないね、そういう子も、沢山いるよ……でも、それは神様だって忙しいから
真に助けてあげるべきなのは、助けを求めている子の近くにいる人が救うことじゃないのかな?」
そう言って『私が救ってあげる』の意味を込めて頭を撫でる。
「『救われた』と言うのはどういう状態のことを言うのでしょうか?」
「難しいこと言うね……」
何か、答えを探しているように感じるなぁ。
「『人生はプラスマイナスゼロだ』っていう言葉を聞いたことがあります。
山あり谷あり、それら全てを合算すれば、平行線になる
でも、そんなことを言える人は、きっとみんなプラスです」
確かに、不幸のままに命を落とした人達を私は知っている。
「本当の意味で一人孤独に、神様に見向きもされなかった人はどうなるんでしょう?
誰にだって父と母がいて、家族がいて、それでも孤独な人がいる。
その人たちは集まって、また1つ家族を作る。
カルさんと、私の様に、集まる。
きっと不思議な縁があって、糸が繋がっていたのかもしれません
でも、きっとそれでもなお孤独な人はいます」
「………」
黙って言葉を聞く。
「その孤独は人を強くする。
その言葉が正しいとは言いませんが、間違いだと一蹴も出来ない
例としてあげるなら、今代の剣聖」
あぁ、アイビーちゃんは、あの人を孤独とみたんだ。
「カルくんは孤独?」
「……私にはそう見えます。
私がいても、私以外を見ている気がして」
あぁ、だからそんなにも難しい話を始めたのか。
「大丈夫だよ、今カルくんかいないのは、アイビーちゃんが良くなるために、頑張ってくれてるんだよ」
「……なら、私は……ずっと血を吐きたいです」
その言葉は、私の胸に深深と刺さった。
なぜ、そうまでするのか、それが私には分からない。
カルくんに魅力がないと言っている訳では無い
でも、カルくんに固執するのは見た目が似ているからだけなのだろうか?
「……でも、カルくんが悲しんじゃうよ?」
「……それでも、私を見て欲しいんです……あの人が名付けてくれた『アイビー アクナイト』じゃなくて『私』を」
「……アイビーちゃんはカルくんが好きなの?」
恐らくその感情は愛だろう。
だから聞いて確認し、自覚させる。
「『分かりません』ただ『怖い』です」
「嫌われるのが?」
「それもあります……でも、いなくなることが怖くて……いつまでも一緒にいたいけど、私の願いは叶わないんです」
「……なんでそう言い切っちゃうのよ?神様嫌いなの?」
「私はいちゃいけないから」
問いに、言葉が帰ってくる。
……それは答えと呼べるかは怪しいが、帰ってきた。
「そんなこと、ないと思うけどなぁ」
「……」
少しの沈黙、そして扉の開く音と、閉まるよりも先にリビングの扉が開く音。
「アイビーは!?」
必死な顔をしてカルくんがやってくる。
買ったものはアイテムボックスに入れているようだ。
「さっき起きたよ、もう大丈夫っぽい、安定してる」
その言葉を聞いて、安心し、力が抜けたようでその場にへたり込む。
そしてそのまま、赤子のように進み、アイビーちゃんの目を見る。
「元気か?」
「はい、ごめんなさい」
「謝らなくていい、今日はゆっくり休め」
「……はい」
その顔から、さっきまでの深刻そうな表情は伺えなかった。
その日の夜は、少し寝苦しかった




