血
「……でねー、初めて来た時錠がついてたんだよ」
お風呂で、アイビーちゃんの頭をワシワシしながら、初めて会った時ののことを話している。
「へぇ、凄く強いのに、昔はおっちょこちょいなんですね」
「ははは、まぁ、流石にまだ駆け出しだったからね」
カルくんの話が聞きたいしく、ゆっくりと話している。
かなり好評なようで何よりだ。
髪を洗い、ケアもして、持ってきたヘアオイルを使う。
「いい香りでしょ?」
そういった私の言葉に反応し、髪を顔によせ、匂いを嗅ぐ。
「ほんとだ……いい香り」
髪をといてあげて、よし、これでよし!
「明日からはこんな感じの事を自分で出来そう?」
「……はい、頑張って覚えます!」
一応メモ書きも置いてあるから、まぁ安心かな?
記憶力もさっき聞いた話だとカルくん並らしいし……血は争えないなぁ。
「上がったよー」
「お、こっちも色々終わったところだからよかった」
洗い物を終え、拭き終わったようで、棚にも入れ終えたのだろう。
「髪の毛、サラサラになったな」
「!はい!シアさんのおかげで!」
「そっか、ありがとうございます、ほんと、こういうのは女性に任せて正解だった」
「私の髪もサラサラですからね、もしかしてそれで?」
「えぇ、知り合いの女性は色々いますが、忙しかったり、ガサツだったりで、ちょうどいいのがシアさんだったから」
「それは嬉しいですね……あ、お風呂はいってきてください」
「あぁ、冷蔵庫にアイス作ってあるから、良かったら食べてください」
「色々ってそういう?」
「えぇ、果汁100%ですよ」
へぇー、それは嬉しい。
「なら、いただきます」
そういうと、アイスを取り出してくれた。
私とアイビーちゃんの2人に手渡し、食べるのを待っているみたいだ。
「カルくんって親バカ……あいや、兄バカだね」
「っえ?なんでですか?」
「お風呂にも入らずに……ちょっとでも一緒にいたいんでしょ?」
「……あぁ、たしかに」
シャクッと音が鳴る。
「冷たっ……おいひぃ……」
幸せそうな顔で、食べているのを見て、ニコッと笑う。
やはり2人の顔は似ていて、血の繋がった兄妹らしい。
私も1口いただく。
「ん、美味しいね……アイビーちゃん、よかったねぇ」
「はい!」
相変わらず食べるのが早い……
なんて思いながら、お腹の当たりを見ていると、血がぽたりと落ちた。
「っえ?」
顔を上げると鼻血をアイビーちゃんが出していた。
「あはは、お風呂長くいすぎたね、カルくん、悪いけどティッシュお願い」
「あぁ、わかったよ」
キッチンの方にあるんだ……リビングにもある方がいいと思うけどなぁ。
なんてことを考えていると、横で『ビチャ』と音が響く。
「ん?……ひっ!?」
机の上に血溜まりが出来上がっている。
コップの水をひっくりかえしたかのような量で、机からポタポタとアイビーちゃんの膝に流れ落ちる。
何よりも、口の端から血は今も流れている。
「カルくん!鼻血じゃない!吐血!」
「っな!?」
ブンっと、首が飛びそうな勢いでこちらをむく。
私はその間に、アイビーちゃんの体を調べる。
「『光魔法』〈サーチライト〉」
体の異状点を調べる魔法。
「っえ?……えっ!?」
体の中を見て驚く。
身体の表面は問題ないが、体内、内蔵のほとんどがボロボロで、1番損傷が激しいのは『脳』
そして、かなり重い呪いもあった。
「内臓損傷!脳も酷い!重度の呪術障害 多!」
「どうすれば治る!?」
「……っ!私じゃ力不足!もう少し位が上の人じゃないと!!」
仕事の都合上、血を見ることは少なくない。
だが、一大事であることに変わりなく、私だって焦る。
「っくそ!どうしたら……!」
「とりあえず私が命を繋ぐ!ただ、この損傷具合は聖女様とかでもない限りムリ!」
私のその言葉でハッとした様な顔をしたが、すぐに首を振った。
「お願いします!俺に出来ることは!?」
「今の時間ほとんどの教会は閉まってる!でもまだ冒険者組合なら空いてるからありったけポーションを!!」
「ポーションならっ!」
そう言って、アイテムボックスからポーションをいくつか取り出す。
かなりの高位のものと見受ける……
「よくこんなの持ってましたね!」
「少し前に準備してましたから」
しかしどこからどうしようか……!
口は閉じてるし、無理に飲ませて気管に入るとまずい……!
だからと言って傷はひとつもない
「どうやって飲ませる!?カルくん!」
「……俺に手があります!」
嫌々と言った感じだが、アイビーちゃんにはかえられないと、意を決して魔法を使い始める。
「管は俺が作ったんで、これを口に……!」
生誕祭で見た体の構造を変えるあの魔法か。
そんな細かいことも出来るんだ!?
口の中に入れると勝手に入っていき、ポーションを注ぎつづける。
少しお腹が膨れたような気がして、しっかりと入っていることはゆっくりと収まる危険信号が確認できた。
「うん!いい感じ!いい感じだよ!カルくん!」
私も回復魔法を繰り返し、持続的に使い続ける
ようやく、呼吸も安定してきた。
持続的に飲ませたポーションはやはり効果的だった。
呪いのせいで身体の中ボロボロになっていたけど、それはあくまで代償的な意味のものらしく、治せたようで何よりだ。
私が手を握っている間に、カルくんは予備のポーションを買いに出かけている。
今の彼女には血が沢山いるはずだから、明日は鉄分豊富なものを用意してもらおう。
だから、今はただ、目覚めるのを祈る。
「シーアスさま、どうかこの子に慈悲を……癒しの奇跡を……希望溢れる未来を……!!」
1人そう言葉を呟く。
呪術障害
呪術の影響で体に起こる様々な変化の総称。
基本的に代償系や、対象に対して害のある状態によく使われる言葉。




