その女 アイビー【アイビー】
今日もまた……日が昇る。
もう、生まれて14年……ぐらいだ。
名前はアイビー、そう名付けられた。
世界の中心と言っていいこの国『ネルカート』に居る孤児だ。
理由は私の意思と、この赤い目と黒い髪だ。
およそ教育と呼べるものの全てを享受した私には、彼ら彼女から不気味に、酷く恐れられていることを理解出来る。
『黒髪赤目』それは原初の魔族が、あまりにも強く、人々の歴史に恐怖として強く刻まれているから。
ただ、生まれてきただけなのにな。
髪が黒い、ただそれだけで忌み嫌われ、捨てられる……しょっちゅうある事だ。
無論私は違う……そんなこと私にしか分からないか。
だが、私は私なりに生き抜くさ。
しかしそれはあまりにも難しい事だった。
ただ、明日の日の食事でさえも、満足に手にできない。
時に酷く苦い虫を、鼻が痛くなる激臭のする物も、なんだって食って生きた。
時に盗みも頭に思い浮かべたが、それはあまりにもリスキーだ。
「……私って、なんて弱いんだろ……」
そうか、孤独とは、1人とは、こんなにも苦しく大変なのか。
そんなことさえ知らなかった私はあまりにも幼くて愚かだった。
もし、この世界に神様がいるのなら、私を助けて欲しい。
一体私はどんな悪いことをしてしまったのだろうか、こんなにも私だけが不幸だなんて。
この路地にも光は届く。
暖かい暖色の光だ。
食器の音、笑い声、そして、当たり前の言葉たち。
不思議だ。捨てたものが今更欲しくなって、失くしたものを思い出すように涙が溢れ出た。
私は生まれながらに『色』を知らなかった。
私以外の色は知らない。
この光が暖かいと思えるのは、家族団欒の『音』のおかげ。
あとは、白と黒の濃淡だ。
そんなある日、緊迫した表情で、早歩き、大股で……その表情は穏やかそうな普通の表情だが……激情に駆られ、怒りのままに歩いている男を見つけた。
私は心から驚いた。
彼は『色』を持っていた。
あの瞳の色は同じ、赤だ。
私が黒と白以外に知っている色……そして、その男を見た途端に、私の世界に色がついた。
脳内で激しく鳴り響く警戒音。
瞳を閉じろと、意識のシャットダウンを要求するが、反抗し、目を見開く。
頭が割れそうな中、知識として知っていた世界の色がわかる。
『アルマトゥーラ』『コリ』『クリンゲ』今ならあの3人に、笑顔で色が何色か答えられる。
3人が小さい頃に何度も何度も私のためにしてくれた色遊び。
今度の私はきっと一緒に楽しめるだろう。
男の歩く方向を見ながら、懐かしい彼らの顔を思い出した。
次の日、私はとある雨の強い日に、一人の男性と出会ってしまった。
「毒じゃないよ」
そう言いながら渡された肉……久しぶりのまともな食事に反射的に手が伸びた。
「家に来るか?」
私の欲しい言葉を、そのままにくれたその男性がどうにも恐ろしくて逃げてしまった。
その先で助けてもらい、そして、後に気づいた、この男性は、間違いなくあの時の、昨日の男だ。
昨日の彼は……『カルさん』は近寄りがたくてとても恐ろしかったけど、今のカルさんはとても接しやすい。
何にも囚われていない、身体がとても軽そうだ。
助けられ、手を引かれ、家へ帰り『ただいま』を言う。
そうして、『アクナイト家』での生活が始まった。
これは誰かのオマージュ、それともリプレイか。




