挑戦者その2
「か、カルさん!」
そう言って俺の方へよってくるアイビー
「ははっ、どうだ?凄いだろ?」
「すごいです!私もやってみたいです!」
ピョコピョコ跳ねる彼女を見て、皆微笑ましい顔で騎士は木剣を渡した。
「相手をしてあげてみては?」
そうハルさんが提案をする……まぁ、いいか。
「だな、っし、かかっておいで、アイビー」
軽く受け流して頭をぽんと叩いておしまいだ。
剣の持ち方に、少し手間取っている。
そこも初々しくて、みんな笑っている。
しかし、その笑い声は嘲るものではなく、小さい子を見守るような笑い声。
彼女の構えは俺と同じもの、剣先は地面に向け、柄は顔元に……真似してくれるのか、かわいいなぁ。
なら俺も同じ構えで、止まる。
「それでは……初めっ!!」
「アイビーの方からかかっておいで」
先手は譲ろうか。
「は、はいっ」
その瞬間、俺の顔から笑みは消えた。
実力者の顔からも笑みは消え失せた。
忘れていた。
俺を上回るあの加速は、まるでライと共に戦ったあの日の俺のようだ。
下からの切り上げ、ギリギリでそれを避ける。
「速っ、次は横っ!?」
そこから高速の横凪、右手で剣を逆手に持ち、剣の腹を左の拳で押すことによって受ける。
そんな呑気な事をしている間に、彼女は宙に浮き、もう背中しか見えない。
剣は手から離れている。
「っ!ヤバっ」
すぐに、左手で彼女が手放した剣を持ち、地面につき刺し、蹴りを止める。
ボキンと激しい破壊音の後に、彼女の踵がスレスレの所を通り過ぎて行った。
「っ何っ!?」
その後の動きも凄い。
左の踵の蹴りが外れたことを瞬時に理解し、次に宙に浮いた右の踵を軸に折れて地面に刺さっている木剣を蹴り、もう一度空へ舞い上がる。
俺の背後に回るような形で飛び上がり、上下反対になった彼女は、そこからとんでもない体制のまま、重い蹴りを浴びせてくる。
無論腕では止められそうにないので、剣を構える。
「あっ!?」
やはり木剣は砕かれる。
これは止めないと負けそうだ。
その蹴りから、足をつかみ、こちらに引き寄せ、着地させる。
「アイビー……凄いな」
そういうと戦いが終わったことを察したのか「えへへ」と嬉しそうにはにかむ。
「……これは俺の負けかな」
周りの皆も、驚いて言葉が出ないと言った様子だ。
それもそうだろう、完全に俺と同じ流れだ……一度見て、覚えたのだろうか?
いや、動きを覚えたからと言って、できるというわけでは無い。
「か、勝ったんですか!?……やったぁ……へへっ」
うずうずと、喜びを表している。
「強かったよアイビー、また今度はリベンジさせてくれ」
「はい!いつでも!」
「今日はありがとうございました、それじゃ、行こうかアイビー」
「は、はい!ありがとうございましたっ」
ペコッと全力で頭を下げる彼女から、俺を圧倒したという事実が結びつかず、変な感じだ。
「どこに行くんですか?」
家とは違う方向に行こうとしているのに気付き質問をしてくる。
「とある教会さ、頼み事があってね、俺の大事な友達」
シアさんの教会に行く。
「どーも」
相変わらずガラガラだ。
「……っあ、いらっしゃ……カル君ですか……あれ?横には前のカルくんがいる」
「あ、そういうふうに見えますもんね、この子は『アイビー』俺の……兄妹みたいなものです」
「あぁ、兄妹ぐらいカルくんにもいますよね」
「そういうこと、で、お願いがあるんですけど、空いている日があったら俺の家に来て、アイビーに髪について教えてあげてください」
「……あぁ、髪は女の命なんて言い方しますからね、いいですよ、なかなか気が利きますね。
私の実家にもお風呂ありましたし、いい手当の仕方教えましょう……今日の夜行きますね」
「おぉ、ありがとうございます
それじゃ、晩ご飯は俺が作って待ってますよ」
「!では、是非お願いします!」
「お、お願いします」
そうアイビーが言うと、ニコッと笑い「はい、お願いしますね〜」と、頭を撫でながら話す。
こういう子供っぽい子の扱いに手馴れているところは流石シスターというか、神官というか。
俺は長い髪の人が結構好きなのだ。
風に吹かれてなびく髪を抑えながら、はにかむように笑う誰かの顔を思い出しながら、やはり好きだと思う。
「んじゃ、帰ろっか」
「はい!」
もう、元気いっぱいだ
 




