かっこいいところ
「……いい匂い……?」
そんな声を出しながら、アイビーは目を覚ます。
「お、起きたか、おはようアイビー」
時刻は12時18分。
およそ8時間の睡眠を取ったアイビーの目は、眠たそうであるが、睡眠不足という訳では無い。
「顔洗っておいで、その間にお昼ご飯を作っておくからさ」
「は、はい!」
お、少し目が覚めたかな……?
バシャバシャと顔を洗い、顔を拭う。
迷宮の地下をさまよっていなければ基本的に毎日見る俺の顔。
作られただけあって非常に美形であるが……カノジョはまるで俺の女性バージョン……髪の伸びた俺のようだ。
「……まさか……な」
きっと俺と同じ子を見つけて俺も舞い上がってしまっているのだろうな。
「ご飯食べたら、騎士団に行こうな」
「……はい」
「……騎士って怖いよな、ご飯盗もうと思っても、見つかったら逃げ切れそうになくてさ」
そういうと、虚をつかれた様な……的を得たと見た。
「私の心が分かるんですか!?」
食事の手を止め、食い入るようにこちらを見つめる。
「いいや?ただ、俺の体験談さ」
「……!ってことはカルさんも……」
「さ、洗い物するとするか」
はぐらかし、食器を洗う。
「安心して、今の俺達には騎士は無害だ」
「……はい」
「何かあっても俺がどうにかしてやる」
「はい!」
よし、乗り気になってくれたか。
「……そうだな、向こうに行くまでは、俺のローブと仮面つけていったらいいよ」
「い、いいんですか?」
「あぁ、俺はもうみんなにバレてるからな」
それでも隠し続けるのは何故かと聞かれたら答えに困るが。
「ふふっ……やったぁ……」
可愛いなぁ、聞こえているところも含めて。
頬が緩むのを自覚する。
「それじゃ、行こうか」
手をパッパッとし、タオルで拭く。
洗濯したローブと皿と同じノリで拭いた仮面を渡し、付け方を教えて内側のポーションを取り外す。
「うん、俺そっくりだ」
そういうと、背伸びを繰り返し喜びを表現する。
昨日はオフの日だから、フロウと一緒に買った服を着て、髪型は……このままでいっか。
ハウルを片手に持ちながら、騎士団へ向かう。
「……あ、カルカトスだ」
そんな声が聞こえる。
素顔はあまり晒していないはずなのに知られているのは……なんだろう、複雑な気持ちだ。
苦笑いで手を振り返すと、振り返してくれた。
辺りの人たちから『隣にいるのは誰だ?』という声が聞こえてくる。
アイビーはその声に知ってか知らずか、こちらへ寄ってきて、離すまいと服をつまむ。
背中に手を軽くあて、人混みを避け、騎士団の元へ到着。
話はトントン拍子で進み、すぐに牢屋送り。
その牢屋の名前はあの3人がいたところと奇しくも同じだった。
「少し見ていきますか?」
副騎士団長、ハルさんがそう進めてくれる。
「どうする?アイビー」
「……ちょっとだけ、見てみたい」
俺の剣を見ながら、そう言った。
「そっか、ならお願いします」
「はい、良ければ相手もしてやってくださいね」
アイビーの視線に気づいたのだろう、違和感のないように誘導された。
「えぇ、俺に挑戦してくる人がいるか、訓練所の真ん中にいますね」
「ははっ、そんな軟弱者ばかりではありませんよ」
そう笑うハルさんを少し驚かせてやりたいと思った。
現在ここは訓練所の真ん中。
闘気というか、殺気というか、ありとあらゆる圧をここら一体に振りまく。
誰でも俺に気づき、一同手が止まる。
そして、俺の持つ看板に目が止まる。
『冒険者カルカトス 実戦訓練の相手します』
そう、木剣を地面に刺し、こちらを見る人たちを好戦的に睨みつける。
その圧に動じないものはいない……アイビーはこちらをじっとみたままだ……まぁ、そこら辺は分からないのだろうかな?
好戦的なその圧に寄せられてか、1人、2人と寄ってくる。
「……我が名はジュラ クラウス、立ち会いのほどお願い致します」
看板を地面に置き、木剣をかまえる。
「俺はカルカトス、喜んでお受けする」
剣先を地面に、柄を顔の元へ寄せ、独特の構えをとる。
「怪我をしても、自己責任で頼む」
「優秀な神官がおります、お気になさらず」
「まぁ、鎧もあるしいいか……じゃ、行こうか」
手を振り下ろしたのと同時に、距離を詰め、剣を切りあげる。
それを避けるが、横凪を剣で止める。
「っぐ!」
なんて呑気な反応をしているクラウスさん。
もう俺は足が浮いている。
『ローリングソバット』だったか?
それを逆側の胴体へ叩き込む。
軽く血を吐き、8mは飛んだ……
『手加減しないといけないかもしれない』
ギリギリのところでそれに気が付き、膝を曲げ、鎧に当たる程度にしようと思った……まさか鎧を抉りとり、衝撃で吹き飛ぶのは予想外。
あまりにもこの体の成長に追いつけていない。
「……し、神官さーーーん!!!???」
俺の大声で、辺りがまた動きだした。
急いでやってきた神官はその鎧の破片に大いに驚いていた。
俺もみんなもびっくりだ。
 




