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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
アレとコレの間
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溺れる

「それでは、私は教会へまた行ってきます」


 お昼休憩を割いて、ここに来てくれていたらしいシアさんには本当に頭が上がらない。


「……ありがとうございます、本当に助かりました」


 そう頭を下げると、むず痒そうに顔を逸らして


「水臭いですよ『友達』なんですから」


 もう遠い昔の事のようにさえ思えるその言葉。


「シアさん」


 教会へ行くシアさんを呼び止める。


「?はい?」


「また2人で花見に行きませんか?」


「!いいですね……ではまた、サンドイッチを作って行きましょう、カルカトスさんも、何か持ってきてくださいよ!」


「……カル……カルでいいですよ、シアさん」


「……なるほど、なら私のこともシアでいいですよ、カル」


 友として距離を大きく縮めた気がする。


「それでは、また」


「はい、また」


 彼女の嬉しそうな横顔が、扉を閉めてもまぶたの裏に確かにあった。


「……忘れられない……」


 シアさんのこともだが……あの悪夢を忘れることがどう頑張ってもできない。


 頭でも強く殴れば治るのだろうか……いや、生半可な自傷行為はイカれた再生能力の前ではなんの意味も無いか。


「……酒……飲むか」


 記憶の中にある、最高の友人であり、仲間であり、お互いが明言したことがないが、最高の相棒だった『らしい』ジャンパーが、酒を浴びるように飲んでいる理由を聞いたことがある。


『お前、そんなに飲むと体に悪いし明日に響くぞ?』


『なんだよリーダー、酒ってのはな!めでたい時と忘れたい時に飲むものさ!』


『めでたいことがなにか忘れてしまいそうだがな』


 皮肉混じりにそう言うと


『わかってねぇなぁリーダーは……嫌なことを忘れて、めでたい気持ちになるものなんだよ酒は!』


 そう言ってまたジョッキを上に向ける。



「……近場の酒場……ギルド……はいいか……そこから近い酒場は……『スピールト』最近できた酒場だったか……」



 薄暗くて細い路地を通りながら、酒場へ着く。


 カランカランと音を鳴らしながら、開く酒場。


 黒い髪に黒い目をした男の人と、白い髪に紫色の目の女の人の2人が、酒場をやっている。


 男の方は無精髭を生やし、どこかだらしない印象を受けるが、目は本物だ。30代だろうか?


 女の子の方は年齢は……10代半ば?俺と同じぐらいだろうか?お手伝いをしているのだろうか?

綺麗だし、看板娘的な役割をしているのだろう。


「うぉっ!?シュプライ!客が来た!?」


「本当だ……というか、私を今その名で呼ぶな、私は『シュライ キリシマ』お前は『リュウガ キリシマ』の名でやっているのだろうが!」


 名前からして親子説は辺りのようだ、耳が良すぎて、ひそひそ話が丸聞こえなのは申し訳ない。


「……っと、営業しなきゃ、らっしゃいお兄さん……お兄……さん出会ってるかな?」


「あぁ、仮面をつけていたからか、すみません」


「「あ、いえいえ」」


 仮面を外し、横に置き、お酒を頼む。


「お兄ちゃん若いな……の割にはなかなか度数の高い酒を飲むとは……酒豪か?」


「有り得るね、こういう展開では、酒に弱いのが相場だが、はべらせる女がいないこの少年はきっと酒に強いだろう」


「……なかなか失礼な……」



「悪い、俺の娘口が悪くってよ、ほら、謝れシュライ」


「はーい……ごめんなさい」


「ははっ、いいよ……このお酒美味しいね」


「んぉ、なかなか癖のないフラットなやつ選んだな、お兄ちゃん俺と酒の好み合うかもな」


 フレンドリーに接してきて、1つボトルを開ける。


「これは俺からの奢りってことで、ほれ、俺と同じならこの酒は相当美味いぞー!」


 とくとくと注がれたそれを嗅ぐ……懐かしい匂い……これは


「『清流』?」


「おおっ!?お兄ちゃんすげえな!この酒すげえ高いけど、そこまで有名じゃね……どうした?兄ちゃん」


「泣き上戸なのだろう……泣かしてやれ」


「ち……違います……このお酒……俺の大切な人が好きなお酒で……懐かしくて」


「……地元に置いてきちまったか」


「……いや、死にました」


 酒の勢いでどうでもいいことも吐いてしまう。


「……そうか、悪いことを聞いたな」


「いいんです……殺したのは俺なんですから」


「!?……ど、どうしようか……!?」


 テーブルの向こうで、2人またひそひそ話を再開する。


「……まぁ『異世界』なんだから、色々あるだろう」


 危うく吹き出しそうになる程の爆弾発言。

この人たちは異世界人なのか!?

それなのにくじけずに親子二人で頑張っているのか……


「……ねぇ、主人」


「ん!?な、何かな!?」


「……主人は何か話とかありませんか?」


 なら、きっとこの2人は、こっちの世界のことをあまり知らないはずだ……親子二人で来たばかりで、客が来ることを驚くほどの不景気っぶり。


 この2人の助けになってやりたい。


「じ、じゃあ……お兄さん仕事は!?」


「冒険者です、迷宮探索を専門にやってて、カルカトスって調べれば見つかるぐらいには有名ですよ」


「……あぁ!生誕祭に出てた人か!」


「!知ってるんですか!?」


「あぁ、うちの娘がキメラに興味津々でな、それで覚えてる!はぁー、偶然だな!シュライ」


「……確かに、気になってはいたな」


「はは、ありがとうございます」


 そんなことで、最近の時事ネタや、ニュースの話なんかをして、話している。


「あ、もうこんな時間か……お兄ちゃん、色々話ありがとうな、助かったぜ」


「いえいえ、美味しいお酒ありがとうございました」


 勘定を済ませ、店を出る。


「また来てくれよ!」


「来てくださいね〜」


「はい、また」

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