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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
アレとコレの間
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さよならナイトメア

「……さて、帰るか」


 てっきりこの男を殺せばあっという間に俺は消えて元のカルカトスに移り変わると思って、なかなか覚悟して一刺しした訳だが……いつになれば俺は治るのだろうか?


 そんなことはどうでもいいか……走って帰る。

大雨の降る街の中、かなぐり捨てて走り抜ける。

時間的におよそ夕立ちか。


 家の前に着く。

そして、本能的にわかる最後の一日をすごし始める。


 あの3人がいてくれたら、きっとこの最後の日を、楽しめたはずなのに……その3人は居ない。


「……カル兄」


 俺を呼ぶ声が聞こえた。

そのあまりにも懐かしい呼び方に、一瞬誰のことかわからずにいて……すぐに思い出して立ち上がる。


「グリム……!?」


「……やったんだね、何となくわかったよ」


 家の中にいつの間にかいたグリム デイドリーム。


「……な、なんで!?」


「いやぁ……お兄ちゃんが帰ってきたわけじゃん?」


 今やたった1人の妹が、俺にそう言った。


「……ご飯食べる?」


「……うん、久しぶりに食べたいな」


 そう言って一緒にキッチンに立つ。


「こうしている間に……俺がいなくなるかもしれないな」


「その時はその時よ」


 割り切った様子で、着々と進める。


「スープの具を切っていてくれ、こっちで肉の方の準備はする」


 鶏肉に下味をつけて、2人分焼き始める。

切ってくれた具材を受け取って、鍋の中に入れて煮込む。


 具はベーコン、玉ねぎ、人参、じゃがいも、ブロッコリー、塩で味を調整して、野菜の甘みがにじみ出る。


 鶏肉はシンプルな塩胡椒で下味、ソースは、トマトを使ったもので煮詰める。


「……出来たね」


「うん、そのままでよかったよ」


 ゆで卵を半分に切り、サラダに盛り付け、ドレッシングをかける。


 そのサラダの入った大きなお皿は机の真ん中に、2人が向き合うように、パンや肉を置いていく。


「「いただきます」」


 パンをちぎり、スープに軽くつけて、口に含む。

程よく柔らかく、スープの味が上手く染み付いている。


 肉も美味しい……サラダのドレッシングの作り方はジャンパーに教えてもらったもので、酸味があって美味しい。


「美味しかったです……ご馳走様」


「はいよ、洗い物は俺がするよ」


 そう言っても、無言で手伝ってくれるグリム。


 他愛のない会話、明日も続くような世間話。


「グリムはこの後どうするんだ?」


「アンを探そうかな……って言う建前で世界を見てみたい」


「そっか、頑張って」


「お兄ちゃんは?」


「……さぁな、明日の俺が考えてくれるよ、けどいつか英雄に……それはきっと変わらない」


「ふふっ、新聞で名前を見る日を楽しみにしてるね」


「……あぁ、待っていてくれ……!」


 日がだいぶ落ちてきた。

グリムはパーティーメンバーの元へ帰る。


 紙に、文字を刻み、手紙を書く。


『今日という日を、最後の一日を過ごせそうなことを嬉しく思う。

君には苦しいことが待っているだろう、後悔して、俺を恨むかもしれない。

それでも、君を愛してくれる人は沢山いるから』


 それだけ書いて、風呂に入り、上がり、仲間の墓へ、真夜中にいく。


「デクター、ディン、ジャンパー……迷惑かけた……今までありがとうな」


 家に帰り、布団の中で目を瞑る。

次に目を覚ますことはきっとないのだろうな。


 怖くて心臓がうるさい。

目を瞑っても、開いても変わらない暗闇に、どうしようもない不安と恐怖が包み込む。


 でも、今日の戦いはあまりにも疲れるものだった。

その恐怖に反して、瞼は緩やかに閉じていくのだった。


 死にゆくもの達のように、緩かに長い眠りへ。

カルカトス ナイトメア ~完~

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