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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
アレとコレの間
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最強の合成生物

「……さぁ!いくぞっ!」


 《限界の先の未知(アンノウン)》が数多のスキルを喰らい、全てを身体能力に合算させる。


 右に、左に、前に後ろに!


 高速でその全てを確認、どこの場所に繋がるかの理解、そして、あの3人のいる場所への高速移動。


 足は治った、体力は戻った、鼓動は早まり、溢れる高揚感。


「いくぞ……『神速』!」


 制御不能の高速移動スキル、神速。

今なら使える、この世界を1人だけ違う時間の中を走る。


 まずはあまりにも厄介なコリ!

剣を振るう……その瞬間まで俺に気づくことすら出来なかった。


 首を跳ねるはずのその軌道は、部屋の端の天井に傷をつけただけ。

それを直ぐに確認、その部屋の端に行くための最短ルートは……この空間の左に、右、真っ直ぐ、そして、左だ!


 地面にヒビを走らせながら、部屋の端へ、そしてそこにはそれを読んでいたアルマトゥーラがコリのスキルを使い現れる。


「それは読んでるっ!」


 あぁ、君は俺の最高の理解者だ。だが


「だろうなぁ!!」


 俺もまた君の理解者だ。

身体を中でねじ曲げ、空中で回転蹴りをアルマトゥーラを倒しに行く。


 同じ技をアルマトゥーラも使い、止めようとしてくる。


 踵と踵がぶつかり、音を吹き飛ばし、少し世界が静寂に包まれる。


 その少しは普通の時間を生きるものにとってはほんの一瞬、瞬きをする時間にも満たない無音の世界でお互いが悟った。


 アルマトゥーラだけが吹き飛ばされ、勢いが落ちることなく、コリの目の前の空間へ繋がる天井に突入する。


 その先にいたのはクリンゲとコリの2人。


「はあぁっ!!」


 現れた瞬間に俺の目の前にはもう剣が迫っていた、何も間に合わない、回避も防御も、何をすることも出来ない程に完璧なタイミング。

もはや俺に許されるのはこの剣に切り裂かれることだけだ。


 だが、間に合わないのはあくまでも『俺だけ』だ。


「ウンディーネ」


 またも水を斬る音が響く。

俺は間に合わないが、俺とは違う視点を持つウンディーネはこの世界に着いてきて、俺を助けてくれるはずだ。


 そして、コリはそれを見越して、水を全て焼き尽くす程の火炎。


「〈大龍炎(ドラゴンズフレイム)〉ゥ!」


 コリはクリンゲがミスをするなんて考えていない、クリンゲを信用していたはずだ。


 だが、皮肉にもその魔法攻撃は今、この場において最高の1発。


 だが、クリンゲの方なんて俺は見ていない。

剣が迫る瞬間からじっと、コリを見ていた。

放たれる炎で、お互いの視線が交差しなくなる。


「『ミラン流剣術』」


 今、食い荒らされないように守ったスキルの中でこの場を切り抜けるスキルの名を、本能的に囁いた。


 誰の目にも、振るった俺にさえも上手く見えないほどの高速で正確な一太刀は、炎の龍を消し、その死角から近距離に肉薄する。


 背後から、剣を捨て、俺を捕まえようとするクリンゲ。


 そして、他の2人のために今まで使わなかった、アルマトゥーラのブレスは、逆噴射の推進力として、俺の真上から現れる。


 圧縮されたその時間で考え、その一瞬で答えを導き出す。

これだけは使いたくなかった。

これは『キメラ』の俺を呼び起こすから。

人として勝ちたかった。


「《悪夢魔術(ナイトメアマジック)》〈最強の合成生物(カル カタストロフィ)〉」


 花を摘むように命を摘み取る。

その先に待つのは間違いない破滅。


 剣を地面に刺す。

『カツン』……静かで優しく、確かな音が4体の耳に届く。


「『サヨナラだ』」


 3体のキメラは悔しそうな、嬉しそうな、悲しそうな、泣きそうな、そんな顔をしたあと。


「「「うん」」」


 短く言葉を残した。

剣を中心に起きた黒い風。

花のように広がる……美しいが不安になるおぞましさ。


 その風は触手の様に絡みつき、喰らう。

何1つとして残らず、静寂が完全に訪れる。


「シュプ フング……!」


「……驚いたな」


 そういうと、あいつは俺じゃなく、上を見た。

それにつられ、上をむくと、ヒビが入り、何かが突入する。


「カルー!助けに来たぜ!」


 1、2……5人の大精霊が降りてくる。


「それが大精霊か……初めて生で見たよ」


「あれ!?終わってる!?」


「たった今終わったところさ……あの時はすまなかったね」


「おおっ!?カル……だけカルじゃない!?」


 赤い髪の精霊がそういう。

青い髪の精霊はじっと見つめてきて、緑の髪の精霊は、銀髪の精霊を前に押している。


「……カル……じゃないのよね」


「あぁ、そうだな」


「……でもこれだけは言わせて……あの時はごめん……置いていくべきじゃなかった」


「……あの時のことを……三十層の事を言っているのか?」


 こくりと頷く。


「……その時の事は俺もよく覚えていない……何よりもそれは元に戻った時のカルカトスに言ってやってくれ」


「そういう訳にも行かないんだよな」


 緑色の髪の精霊がそう言った。


「どういうことだ?」


「カルが殺したアルトリート様は、ネルカート全土を収めていた偉大な精霊だった。

その人を失った今、ネルカートで精霊たちが生きていくのは非常に難しい。

だから僕達は引越しのようなものをしようとしていてな

それで、別の大陸に行くんだ……新しくここを収めるものを探すために」


「……そんなことがあったとは……謝って済む話では無さそうだが、すまなかった」


「……いいんだ、カルが帰ってきた時に、この事をどうにか伝えてやってくれ……僕達は最後に君を助けたかっただけだ……もう思い残すことも無く、ネルカートを出れる。

植物たちのことは大丈夫だ……アルトリートさんのおかげであの何年かは持つから」


「そうか……それじゃあサヨナラだ」


 そう言って、彼女たちに背を向ける……それはシュプ フングの方を向くという意味でもある。


「覚悟はできているな!?」


「ははっ、もちろんさ」


 肉薄、《限界の先の未知》が切れる前に、刺す。


「……ゴホッ……精霊たちはもういないかな?」


 振り返ると皆いなくなっている……


「いないな」


「少し話をしよう……僕がどうしてキメラを作ったか」

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