死ね【カルカトス】
「シュプ フング」
「カルカトス!ナイトメア!」
「久しぶりだなぁ!」
「そうだねぇ!確かにそうだ!」
ボサボサの黒い髪、だらしない無精髭、くすんだ緑の瞳、ボロボロの色あせた白衣、そしてその嫌な笑顔と癪に障る声。
「死ね」
「やってみるといい!」
彼の隣には2人の人型キメラ。
1人は女性、目を瞑っている……開けられないだけか?
もう1人は男性、こちらは大剣を持っている。
「さぁ!始めよう!最終実験だ!」
「何度でも言う!死ね!シュプ フング!」
向かってくる男、大剣を構え、凄まじい威力と速度で振り下ろす。
いつの日かのサクラよりも素晴らしい一撃を、道行く人を避けるように体を逸らし、回避する。
それぐらい、なんでもない一撃。
次に横なぎ払い、それもまた凶悪な一撃。
靴紐を結ぶかのようにしゃがみ、髪1本さえも切られない。
反撃のため、ナイトラインを滑り込ませる。
脇腹から、逆の方にかけて斜めに切りあげる。
ガキンと音がひびき、剣が止まる。
「硬っ!」
その瞬間に距離を詰め、剣を手放し、拳を振るう。
いきなり剣を捨てられる気持ちはこんな感じなのだろうか?
確かに虚をつかれたが……俺の方が幾万も上手だ。
そしてその動きを見て思い出した。
「……生誕祭の時の俺みたいだな」
「!よくわかったね、流石だ!インプットさせてあるのさ!」
ナイトラインの一太刀で切れなかったあの体、そういう生物ベースのキメラなのだろうか?
「……無言なんだな……」
ずーっと黙って攻撃してくる……避けて、切って……切れなくて。
「でもまぁいいか、削れてるから」
突きを試しにやってみよう。
まだ見せていないし、貫通ならできるかも。
そう思い、構えを変えて、猛突進をする。
その瞬間、視界の端にいた少女が目を開く。
「……っな!!?ぐわっ!?」
前へ進んだつもりが、元いた場所に、踏み込みが足りず、届かない突き、距離を詰め、横もちし、大剣を振るう男。
既で身体をひねり、その斬撃を避けたはずなのに、何故か剣に殴られる。
面積が増えたから……だけとはとても思えない。
そして、左から右に殴り飛ばされ『上の天井に落下する』
天井から落ちると『部屋のやや左側』に落ちた。
「……空間が……入れ替わっている……のか?」
「ご明察!この子はレアな固有スキルの発現者でね!このように君さえも拘束できる……素晴らしい成功作なのさ!」
「そこの男は?」
「その子もまたレアな固有スキルの発現者さ、薄々感ずいているだろうが、身体の硬化……それだけじゃないのはもうわかり始めたんじゃないのか?」
「……対象物の硬化……やたらと壁や天井が硬い理由はそれか?」
痛む腰から後頭部、足が少しふらつくほどのその攻撃。
「さぁ!?どうする!?そして……『三位一体の猛攻』を、どう防いでくれるかな!?」
「三位一体?……っ!?」
前方から来る男がぐちゃぐちゃの空間を渡り右側から至近距離に現れ、剣を振るう。
足はその場から動かさないように飛んで避ける。
そこまでは良かった。
飛び上がった俺に、1本の足が迫り来る。
黒い甲殻に覆われた、トゲのある足。
「君は……!」
ついさっきであった最終回層最後の一人。
あの女性が、今ここに立ち、蹴りを放つ……だが、身体はボロボロのままだ。
「あの空間転移で避けてきたな……!」
道理で、消えたわけだ、消し飛んだんじゃなくて、転移したんだ。
「はああっ!!」
仕方がない、この一蹴りは受けてやるか。
そう余裕ぶった口ぶりで両腕を重ね、蹴りを受ける。
地面に落下するわけが無い、受身を3分の1……左側にとる。
「っがっ!違ったか……!」
真逆方向から右耳を痛めた。
キーンと音が響く……耳鳴りか。
「この3人には名前がある、剣士の男は『クリンゲ』サポートを続けるこの子は『コリ』そして、君と1度戦った黒の女は『アルマトゥーラ』私の自慢の成功作たちだ」
もはや奴程試行回数を重ねていると、固有スキル持ちというのは大した評価点に入らないらしい。
重要なのはその能力の有用性、そして、意のままになるか。
「……その3人は俺の何だ?」
「君の素体の、クリンゲは両腕、コリは頭、アルマトゥーラは胴から足だ」
「……俺って訳か?」
「ま、性格には違うけど……『君が知る限りでは』そうだと思うよ」
嫌な言い方だ。
「君たち3人は俺の事をどう思う?」
ずっと寡黙だったクリンゲが口を開く。
「圧倒的強者、故に倒すのみ」
遠くから、コリの綺麗な声が響く。
「興味深く思います」
2度目のアルマトゥーラが最後に。
「私の完成系、羨ましく……妬ましい」
「よし!かかってこい!」
 




