決意決戦 三番 無敵
「……次は君か……1人?」
「1人じゃダメだったかい?兄ちゃん」
「……どっちの意味だ?」
「兄弟って意味さ」
鬼の角と魔族の角を足したような1本の角。
立派な剛翼は翼人の白い羽……ただ、片翼。
尖った耳はエルフのようで、髪はカルカトスと同じ黒、目の色は黄色。
「そうか、なら、尚更俺が倒さなくては」
そういった瞬間彼は自己紹介も無しに、距離を詰め、顔を殴ってくる。
ガコンと殴ったにしてはおかしな音が響く。
「……当たった……?」
「当たったよ、確かにね」
でも手応えは無いだろう。
「っ!」
剣を抜き、振る。
一般的な鉄の剣。
小太刀で受け流し、蹴りは当たらない。
「……なんで……!?」
「なぜ?それは簡単だよ、実力差があるからだ」
どの攻撃も、どんな技も、どんな魔法も、軽く避けて、篭手で弾く。
「お前の負けだよ、間違いなく」
「っ!タダでは負けられないんだ!」
剣を真っ直ぐ構えている俺に、向かってくる。
振るう拳に合わせて、リーチの長さで刺し、カウンター。
「がはっ……なんで」
「勝てないとは思ってたけど、ここまで差があるとは思わなかった……そう言いたげだな」
実戦経験はかなり豊富だろう、実力も申し分ない。
でも今の俺はきっと負けない。
世界で1番落ち着いて、世界で1番怒っているから。
「……クソっ……『あいつ』がいれば……」
「いないやつの話か?それじゃあな弟」
ザクっと刺し、吸収し、次の階へ降りる。
人の姿をしていないもの、獣人らしいナニカ。
その他様々なキメラを一つ一つ倒して回る。
分かるのは、全てから俺を感じる。
「……私が最後よ」
1番下はこの下らしい、やっと着いた最深部1歩手前。
「そうか、それじゃあ行くよ」
「こいっ!」
竜族ベース……色は黒、目は赤。
虫の魔物のような黒光りする甲殻に身を包む。
武器はふたつの拳。
甲殻が尖り、武器になっている。
「〈限界〉!」
聞き覚え、見覚えのある……固有スキル。
「それは……」
でも俺とは決定的に違う。
身体がもう崩壊し始めている。
「はあぁぁ!」
距離を詰める。
今まででいちばん早い。
拳の部分だけを手で止める。
目の前で甲殻の刃は止まり、直ぐに俺の手を離れる。
1番力強い一撃だった。
「〈黒竜の息〉!」
息を吸い、吐く炎は黒い。
剣を振り、炎を引き裂く。
その晴れた視界の先には誰もいない。
左下に、僅かに見えた黒い髪、飛んでくる拳を剣を持っていない手で止める。
「俺も……見せよう」
この子以上に哀れな子はいないだろう。
誰よりもおそらく強いからここにいるのに……それは所詮俺の下位互換。
「『我は摘み取るもの』『終末論を綴るもの』『悪夢となり飲み込む』《限界突破》」
1歩後ろへ引く彼女。
この子に精一杯の一撃を、圧倒的な暴力を。
「これが、カルカトス ナイトメアだ」
全力の蹴り、それを腕で受止め、そのまま壁に吹き飛んでいく。
「……がっ!?う、腕が……!」
だらんと垂れ下がり、赤くなっている腕は折れているだろうな。
「……次で終わらせよう」
剣を持ち上げ、真っ直ぐ振り下ろすように構える。
「……ふぅ……ふぅ……!」
そして、同時に口を開く。
彼女は大きく息を吸う。
そして俺は言葉を紡ぐ。
「『悲哀と憎悪』『その果てに待つは絶望』『悲劇は今もそこに』〈悲劇的終末〉」
彼女は今までで1番のブレスを吐いた。
サクラよりも火力は上だろう。
剣を振り下ろす。
これは『我流剣術』の極地の果て、スキルの限界を超えた1太刀。
またも炎を切り裂き、そして消滅させる。
何もかもがなくなって、名も知らない俺の家族は塵になる。
「……シュプ フング、今に待ってろ」
やっとお前に復讐できる。




