表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
アレとコレの間
206/499

墓【カルカトス】

「…………」


 今日は生憎の雨、黒い傘をさしながら、今にも落ちてきそうな空の下、冥福を祈る。


 仲間3人、ここに眠っている。

日記も、魔剣も、杖も、短剣も、ここに眠っている。


「……おい、人間」


 ぶっきらぼうな女性の声、呼び方でわかる。


「……なんだ、ドラゴン」


 サクラも、仲間を失った1人、理由は同じだろう。


「……お前の仲間の人間……『デクター』と言ったな。

……凄いやつだった。お前が意識を失っている間、何に変えてもお前を守るという気迫を感じた。

私もあれ程強くなれたらと願うばかりだ……昨日死んだ奴らのことを忘れずに……お前はその3人を、私はナプラとデクターを目標に生きる」


「……お前は……強いなぁ……傘もささずに」


「はははっ!当たり前だろう!!私は純血の竜族が1人!『火竜サクラ グランド』だぞ!」


 その名前には聞き覚えがあるな。

というかそういう意味じゃない……


「なら、俺はお前を見習って傘なんてささないでいようかな」


 傘を閉めて、地面に置く。


「なんだ?私は死なないからお前が傘を刺さないようにする日なんて来ない!むしろ私が傘をさす!」


 その傘を開き、さす。


『私はお前よりも長生きしてやる』と言ってくれているふうに見える。


 それにしてもこうして雨に打たれているとこいつが傘をさしていなかった理由がわかった気がする。


「……なんだ?急に黙って」


「いいや?なんでもないさ」


 お前もこうやって泣いてたんだな。


 背を見せて無言で帰路を辿る。

このあまりにも墓地から近い我が家へ。


「おい!どこへ行く!」


「家だよ見えるだろ」


「傘は?」


「やるよ」


「風呂貸して」


「いいよ……ん!?」


「よし、二言はないからな」


「なんでだよ」


「風邪ひくかもだろ?それに宿屋に風呂ないから1度は入ってみたかったんだぁ……!」


 うっ、乙女の光を発している。

懐かしい、ディンやデクターと同じ光だ。


「仕方ないな……」


「っし!みんなに自慢しよっと」


 そうして家に招き入れる。


「邪魔するぞ」


「そういうとこはしっかりしてるな」


「当たり前だ」


 びちょびちょのままリビングに上がっていくのは非常識だがな。


「じゃ!お先!」


「おー、気をつけろ」


 うっきうきで浴場へ消えていった。


「んじゃ、俺も体拭い……て……」


 少し玄関でフリーズする。


「おーい?」


 自分でも驚くほどか細い声が出た。


「おーい!?タオル!せめて、くれよ!?」


 しかし返事はない。


「……俺も非常識ヤローか……」


 こんなことなら張り合うんじゃなかった。


 キッチンの手を拭く用のタオルでせめて水溜まりは拭き取り、上がってくるのを待つ。


「……寒いなぁ……夏なのに……」


 そして女性の風呂は長いのだ、故にテレビを見てま……


「キャッ!?」


 風呂場から女の子らしい短い悲鳴。

コケたのかな?床が心配だ。


「おい人間!!???温度!!冷たい!!どうしたらいい!!?」


「それはシャワーのホースの根元にある温度設定の今青色になっているところを赤にまで持っていけー!あと、タオ……」


 この質問はデクターにもされた。デクターは説明書読め。


「なるほど!感謝する!」


 バタンと閉める音。


「……タオルゥ……テレビ見るか」


 ニュースは俺達のこともいくつか拝見できたが、最近発覚した貴族暗殺事件は相変わらずだ。


「戦争にならないといいな」


 なんてことの無い一言。


 その後もぼーっとテレビを見ること数十分。


「おい、人間!上がったが……服はどうしよう!?下までぐしょぐしょで着れない!」


「……左の棚1番下の服は入る!?」


 ディンの服は……入らないだろうな、身長と……胸が違う。


「は、入らな……苦しい……」


 そんなにか、ドラゴンの鱗を締め付けるほどか。

背筋がヒヤリとしたがこれは怨霊の類じゃなくて冷えてるから。


「じゃあ下から二番目!」


 本命、デクターの服。

体格は同じぐらいくらい、剣士で身長はデクターの方が一回り大きいはず。

170越えは相当大きい。


「おぉ!はいるはいる!」


 胸も……いつも鎧で抑えてたから私服を見た時の驚きは俺とジャンパーで危うく1夜語り尽しかけたほど。


「……け、結構ダボダボだ……デクター……あいつガタイいいんだな」


「……おう、そうだな」


「なぜ目をそらす?」


 軽く火照った肌、湿った髪、そして大きい服、少しよってきて頭に乗せたタオルの隙間から赤い瞳が上目……あぁ!!


「反則!」


「何がだ!?」


「あと、タオル……!」


「あ、もしかして……ずっと?」


「風邪ひいたかもな」


「っ!ごめ……に、人間は脆弱だな……これだから人間は……」


「素直に謝れよ……」


 プライドが邪魔をしているのだろう。逆なら俺も謝れない。


「ま、風呂入ってくるわ」


「テレビ見てるな〜」


 完全にくつろぐ気だな


「……飲み物は冷蔵庫にある……」


「オレンジは?」


「……あるけど」


 目をキラキラさせる。

その目には『よこせ』『食わせろ』と書かれていた。


「……いいよ、食え」


「!本当か!?もしかすると私はお前を誤解していたかもしれない!」


「……俺も」


 ちょっと違う意味だがなぁ!?


「んじゃ、風呂入ってくるわ」


「ほふ!ひってはっはひ!(おう!いってらっしゃい)」


「飲み込んでから言え」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ