五十層の守護者 フレイ
「……マインさん……?」
そこに居たのはマインさん……以前1度戦った……あの英雄そのものだ。
「はい……以前の暴走の件から随分と落ち着きましたね」
「あの時の俺は……俺じゃなかったんですよ」
「えぇ、わかっています、あなたのお友達の精霊さんも、あなたを作ったマスターも、どちらとも理解しています……そして、私の力を貸して欲しい……そう仰ってましたね?」
「へ?あ、はい!」
「……なら、私の手を」
そう言って手を差し出す。
「……はい」
それを手に取り握る。
いつの間にか生えているその左腕で。
「……今からあなたに、私の《心象詠唱》を貸します……時間や身体の様子から、力をかせるのは1度きりでしょう……さぁ、あなたの魔法を!
たくさんの言葉を紡ぎ!敵を倒すのです!」
「……はい……」
息を吸い、落ち着いて告げる。
「『我が夢は希望』『我が夢は絶望』『我が未来に光なくとも』『光を求め今日も歩く』『限界はここでは無いのだから』〈心象詠唱〉《幸せな悪夢》」
「……その言葉懐かしいですね……頑張ってくださいよ……英雄」
「!……はい!」
光が包み込み、そして晴れる……
「!戻ってきた!」
腕は相変わらずないが……この全能感……なんでも出来そうだ。
「〈聖魔法〉〈聖域結界〉!」
「壁ぇ!?」
「どけ!ラング!」
斧を弾かれ焦るラングを押し飛ばし、壁を殴り壊す。
「相変わらずルールを破ってきますね……!」
未だに戦い続けている。
宝石が大量に洪水のように溢れ出る。
なんて美しいのだろうか……俺がやること……
やることは……ただひたすらに超え続ける。
「《限界突破》その先……限界を超えた先に生まれたその限界も超える!超えたその先……その先も……限界なんて……ないんだ!」
『異常行動を検知、代償を支払ってください』
何かの……経験が抜けていく……いや、スキルだ……ミランの剣術、俺の人生の悪夢魔術、そして、ウンディーネとの精霊とのつながり……それ以外なら全部くれてやる!
「もっとだ!もっと!もっと!もっともっともっともっともっともっと!」
『固有スキル《限界の先の未知》が発現しました』
「!……『固有スキル』《限界の先の未知》!」
そう告げ、前へ足を踏み出し、ピタッとフレイの目の前で止まる。
「……は?」
体が自分のものじゃないかのように軽い……早い……ほらもう目の前……止まって見える……こういうことか……
ゆっっっっっくりと振り下ろされる光の剣、そして同じく弾け飛ぶ光の粒たち。
そして、急ブレーキのせいで壊れたブーツと削れた地面。
右手だけで、ミランの剣を今なら再現出来る……性格無比なあの一閃を何度も何度も繰り出し続ける。
何度切ってもたちどころに再生を始める……なら考えがある。
傷がくっつくその瞬間、またそこを切り離す。
そしてその傷に吹き飛んだ左腕をねじ込み、こう叫ぶ。
「人を呪わばぁぁ!!!???」
「……あ、穴……二つ……!?」
「『呪術』〈耐治癒呪術〉!」
呪いをぶち込む……俺の血だって高級さ!
「……なるほどなるほど……これは私の負けかなぁ……困った……治ら……ない……」
膝をつく。
そして勝利を実感する。
「……で、でも……ね?」
血まみれの笑みでこちらを向く……無垢な笑みを貼り付けている。
「……遺言か?」
「……私を舐めないで……もら……いたい……私が……死んで……も、絶対1人……1人は……殺す……!」
「……させると思うか?」
「無理だね……だから……もう……もう『した』」
「……は?……まさかっ!?」
「前衛は……大変だねぇ……!」
「デクタァー!!?」
「……リー……ダー……」
その姿は……ジャンパーを彷彿とした……
「おい!?デクター!?お前!?」
ずっとフレイを見ていたせいでわからなかった……ボロボロだ。
「……なんで……そんなに……タフなんですか……早く……倒れて……倒れてくれてたら……」
「……仇を……取れたかな……?」
「……あいつの言葉が聞こえるだろ……お前やったんだよ!!……トドメは譲ってもらったけど……でも!お前がいないと勝てなかった……お前が!お前がいないと意味が無いんだ!!!」
ジャンパーの時と違って……悲しみを噛み締めるその瞬間がある……そのせいでやたらと悲しい……涙が溢れて止まらない……
「!……へへっ、リーダー……だから……花を持たせ……なきゃ……」
「……デクター……!死ぬなよ……!!」
「……泣かないでくれよ……騎士が死ぬのは名誉ある事だ……私の死は名誉ある死だろう?……未知の迷宮……その……敵を打った……な?」
「……お前は……お前は騎士じゃない!俺の仲間だ!冒険者なんだ!」
「……ディン……には悪いこと……したなぁ……悲しいな……」
「……おい!死ぬなって!?」
「……リーダー……いや……『カルカトス』」
より一層か細い声で名前を呼ぶ。
「……なんだよ!?」
「……『今までありがとう』皆と……一緒に……仲間でいられてよかった……強くなれた……悔いはある……けど……ありがとう……みんな……愛してる……ジャンパー……ディン……そして『カル』……みんなによろしく……」
「お前が言えよ……なぁ!?……ポーション!あるから!大丈夫だから!!」
ローブの中から取り出してありったけかける……いつかのアライトさんと戦った時の俺がされたみたいにかける。
「……ダメだよ……ダメなんだ」
綺麗なオッドアイから宝石みたいな、綺麗で透明な涙が流れる……
「……何が……だよ……!」
「泣かないでくれ……カル……私の眼帯あげるからさ……」
俺の涙を指で拭い、眼帯を手渡す。
「いらない……お前が生きていてくれ……!」
「……うん……」
そう言ってくれた途端……涙を浮かべるその瞳から光が消え……力なく眠りについた。
「……おい……おい!おいぃ!!」
「……無駄だよ……私の呪いは解けてない……何より……もう」
「うるさい……!黙れ!」
「『もう逝ったよ』」
「!っっつう!!?黙れ!」
「……私もあっちに行ってこよーっと……楽しかったよ……『ただ遊びたかった』……それが私の未練」
そう言うと淡い光が彼女を包み込む……
「……さようなら、英雄さん」
「……じゃあな……『聖女失格のフレイ』」
「……いい名前ね」
最後まで嫌なやつだ……
「……カルカトス……行くぞ」
ラングが俺の肩に手を置いた。
握りしめている眼帯を……ただ、今は大切に持った。
「……何が全能感だ……!」
すご、なんか勝手にアンノウンになってる……!?




