表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄?そんなのどうでもいいです
188/499

未練解消へ

「……ん?五十層の守護者?これが……?リーダー?どういうことだ?」


 迷宮に行くためにギルドで手続きをしているとジャンパーが声をかけてきた。


「あぁ、俺が言ったんだ、あれが五十層の守護者だ」


「……隠す気か……?」


「あぁ、そうだな」


「にしたってあんな化け物いねぇじゃん」


 4本の足、炎のような皮がビロビロと空を舞う。

頭は獅子を彷彿とさせるたてがみ、しかし顔は無い。

赤いその皮膚が空を覆うその様から、俺はこう名付けた。


「『紅月之空(アカツキノソラ)』あれこそが五十層の守護者だ」


「あんなやつ存在するわけないだろ!?」


「いや、いるさ」


 あれは、俺のノートに書き綴った身体合成先の1つの例だ。

まぁ、1番おぞましくていちばん恐ろしい形態を選んだつもりだ。


 炎を辺りに撒き散らかし、それに合わせて振り続ける黒い炎は消えることはなく、ひたすらに蝕み続ける。


 ドーム状の形態に変化し、炎による一酸化炭素中毒を目論む内部破壊攻撃も備えられている。


 信ぴょう性をもたせるために、性能のその全てを紙に記し、手配書の横に貼ってある。


 今、辺りの話題はそれらに包み込まれている。


「……五十層、来たぞ」


 今日も今日とて五十層。

2週間に今日でなるのかな?いつも通りフレイさんは前へ進み、俺たちの方へ振り返る。


「ありがとうございます、私は、やっと私の未練を見つけました」


「……へ?ほ、本当ですか!?」


 その言葉はあまりにも唐突で、それでも俺たちを喜ばせた。


「それで?未練って!?」


「私の未練……それは……」


 そう勿体ぶると、体の端から光が零れる。


「ほら!あってます!私の未練!私の未練は!『誰かに構って欲しかった!』『私だけを見ていて欲しかった!!』んだ!!やっぱり!」


 本当に嬉しそうだ……結局、本当に聖魔法を使えるかなんて、分からなかった、本物かどうかなんて、俺達には到底及ばない話だ。


 けど、これは分かる。この人はいい人だ。

だから、聖女じゃなくても、聖女の名を騙っているだけでも、俺たちはきっと彼女を昨日と同じように迎えられる。


「ありがとうございます、皆さん……私のこんな我儘の為だけに」


「いえ、あなたと会えてよかった」


「私もです、皆さんといられてよかった……生前と同じぐらい……いやそれ以上に楽しい数ヶ月間でした」


「……もう、お別れかな?」


 光で顔が見えにくくなってきた。


「はい、そのようです……それでは皆さん…………さようなら」


 その瞬間、背中に鳥肌が立つのかわかった。

彼女の笑みを見て、鳥肌が立ったのだ。

美しいから、その慈悲の笑みに鳥肌が立ったのだ………違う、その彼女を覆う光を塗りつぶすほどのその『ドス黒い悪意の笑み』


「〈擬似聖剣(ホーリーブレイド)〉ォ!」「危ない!」


 2つの声が、同時に響いた。

そして、1つ、2つと滴る音が聞こえる……血が滴るその音が。


「ジャンパァ!?」


 目の前に突如現れた……いや違う、俺の後ろにいたジャンパーと入れ替わった……!?


 そして、そのジャンパーの胸に……光の刃……?


「じ、ジャンパー……?ふ、フレイ……さん……?」


「りぃ……だ……」


「〈聖激(ホーリーブラスト)〉」


 剣が膨れ上がった。

そう思った瞬間には本能的に避けていた。

レーザーが、その横を通り抜ける。


 ジャンパーの体に空いた穴はさらに広げられた。


「ふ、フレイさん……何を……?嘘ですよね……?」


 目の前で起きていることは理解出来る。

『フレイさんがジャンパーを殺した』


 だが、それを俺の全細胞が否定する。

マスターの手をつけたその部分まで、そこまでもが否定する。


「これが聖魔法〈擬似聖剣〉とそこからつなげる〈聖激〉

騙されましたねぇ!?!?!!皆さんん!!」


 げらげらと笑い続ける。


「聖女様……!」


「んぁー?やめてよその呼び方ァ、私、そうやってヤレ聖女がどうの、それ聖女がなんだの言われるのやなの」


「何を……言っている」


「私の未練の話ぃ、聖女じゃないって、世界の皆に認めさせること」


「……は?」


 そんな願い叶うわけがないだろ……!?


「自分勝手にも程があるだろ……!」


 そう言葉を漏らすと、フレイは目が溢れんばかりに見開き、口は不気味に口角を上げ、言葉を吐く。


「自分勝手!?それは私のセリフだよ!

聖女がなによ!?私だって一般的な女の子よ!?

私だって普通に過ごしたいわよ!!

みんなと同じように学校に行って、みんなと同じように意味の無い会話をして!みんなと同じように叶うはずのない夢を語って!みんなと同じように夢に向かって!みんなと同じように恋をして!みんなと同じように笑って!泣いて!悩んで!苦しんで!そして!みんなと同じように支え合いたかった!!」


 怒涛の勢いでまくし立てる。

その口は今なお不気味につり上がっている。


「私が何をしたって言うのよ!?ただ生まれてきただけ!ただ!力が!あっただけ!

欲しかったなら誰かにあげた!捨てられるのならすぐに捨てた!でも!私が辞めたら家族に!国に!人類に!世界に!迷惑がかかるって言われ続けてきた!

聖女なら苦しんじゃいけない!?苦しむ人を助けるのが聖女なんだから!?聖女が自分勝手に生きちゃいけない!?皆を照らす太陽が自分勝手じゃいけないの!?

英雄も!剣聖も!魔王も!王も!みんなみんなみんなみんなみんな、私よりも自由で幸せそうだった!私は!したくないことも、人類のためだからってしないといけない!

私が生きるその意味は!私の為じゃなくて!私以外の誰かのため以外に生きることは許されない!

だから!私は!君のめざす英雄なんて!どーーーーーっでもいいっ!!!」

後半の密度やべぇ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ