現状報告
「……ただいまぁ〜!」
玄関の辺りからそんな声が聞こえてくる。
「おかえり!」
換金が終わって帰ってきたデクターがリビングにやってきた。
最近は迷宮から上がったあとの換金はデクターに任せてジャンパーとフレイさんにお使いを頼み、俺とディンは一足先に家で献立を考えたり、新聞やニュースの内容を軽くみんなに教える為に把握したりしている。
もっとも、俺はわかりやすく砕かれたニュースや自分の好きな週間冒険者を読んでいる。
「今日の晩御飯はなんだー?」
「今日はパスタだ、ソース何がいい?」
「んー……何がある!?」
「スープパスタとかミートソース、カルボナーラにまぁ一応ペペロンチーノも行けるな、調味料はある」
「なら!ミートソース!」
「了解、ディンはカルボナーラでいいね?」
「えぇ、お願いします」
帰ってきた2人のリクエストも聞き届け、パスタを作る。
自作のパンが意外と好評だった。
本を読み、昔の知識を元に作ったかいはあった。
「さて……ちょっといってきます」
フレイさんと一緒に玄関でリビングでお笑いを見ている3人に声をかける。
「?あぁ、行ってらっしゃい」
テレビの方に意識が行っているのか、なぜかは聞かなかった。
「……アリーさん、ギルマス、いますか?」
「あら、こんな時間に、フレイさんもご一緒で……いますけど……」
「ありがとうございます」
「へ?あ、はい」
無言で会釈し、後ろを歩くフレイさん。
「ギルドマスター……いますか?」
「ん?カルカトス君かな?どうぞ?」
「失礼します」
椅子に座り、書類を漁り仕事をしているみたいだ、こんな晩まで。
「やぁ、どうしたかな?」
「お仕事中に申し訳ありません……実は……話が」
「……ふむ」
俺の表情から察してくれたのか、ペンを止めて、ソファに座る。
「……まぁ、俺からの話なんである程度察していると思います」
「……フレイさんが、守護者なのか?」
流石に慣れているのか察しが良くなっている。
「えぇ、ですが……その」
「あぁ、君が今日に至るまで話さなかった理由が、本題なのだろ?」
「はい……今から話す内容は、俺たちと、国の重鎮にのみ、その人たちのみにしか離さないでいただきたい」
「……ほう?」
「戦争の、その火種になりかねない」
「……戦争……?どこと?」
「………ハリス」
「ハリスと?……ちょっと待て……フレイ……フレア様……か?」
流石の博識だ。
だが、ありえないという感じの顔だ。
「……私は、フレイ……フレア メイ テンス
今から一万年前の聖女にして、五十回層の守護者」
「……な、なるほどな」
聖女、それもフレイ、フレア様は聖女だ、その聖女が迷宮探索者に殺された……なんてことになれば、ハリスは黙っていないだろう。
一万年前の聖女?そんなものは関係ない。
今でもなお、ファンは多い、ある種、宗教だ。
「その話が本当なのは信じよう……なら、そこから君はどうする……?」
「俺のパーティーのみんなで、送る……あの世に」
「……未練の解消……か?」
「はい」
「その未練とは……?」
「私にも皆目検討がつきません……申し訳ありません……浅はかな気持ちでもう一度生きたいなどと願ったばかりに、周りにかかる迷惑をまるで考えていませんでした……」
「聖女の名の影響力は凄まじい……だからこそ、ここまで落ち込んでいらっしゃるのですね」
「……はい」
「……行動理念、存在するその意味を見つけること……そして、終わったら、私に連絡を送ってくれ、こちらの方でどうにか処理しよう……あなたはもう名前が広がりすぎた」
「へ?」
『分からない』と言った面持ちのフレイさんに答える。
「今週の週刊冒険者、ここ見てください」
アイテムボックスから取り出し、ページを開く。
23ページ、9行目、そこにある文字。
『新生カルカトスパーティー
白魔法使いフレイを加え、5人パーティーとなった』
「っ!!」
その後の文には目が追いつかない様子。
「……つまり、カルカトスくんの方では、フレイさんは実家に帰ったなんて感じの言い訳を、こちらでは偽の守護者を用意しなくてはならない」
「本当に……申し訳ありません、迷惑をおかけします」
頭を下げ、感謝する。
「か、カルカトスさん!?あなたがどうして頭を!?私が、私のせいなのに!」
「あなたは今は俺のパーティーの一員だ……全責任は……俺が取る」
「っ……わ、私からも、お願い致します……!」
頭を下げるフレイさん。
「……聖女様、カルカトスくん、顔をあげてください
私に任せてください、そこまで熱心にお願いされたら、断れませんよ」
この人は本当に良くも悪くもお人好しだ。
「……なら、せめて、これを」
アイテムボックスから1枚紙を取り出す。
「こ、これは?」
「それが、五十層の守護者〈50層の守護者〉だ」




