黒幕は幕の向こう
「……こないなら、こっちから行くぞ!」
実験場を飛び出し、実験室に、シュプ フングの自室に蹴り込む。
「ははっ!今ちょっと家を空けていてね、遠くから君の戦いっぷりを見せてもらった……やはり、戦闘力は申し分ない、これなら商品として扱えそうだ」
腹の立つ声が響く。
「どこにいるんだ!!?」
「そこじゃないどこか……かな」
「っ!なめやがって!」
ギリっと歯を食いしばる。
「にしたって、やはり君の成長は目を見張るものがある。
そんな君に教えてあげよう」
「何をだ!?」
「迷宮のお話さ」
「っ!ふざけているのか!?迷宮なんて今更どうでもいい!早く俺を返せ!」
「それは無理な話さ、諦めて話を聞いてくれ
今まで、君の視界を通じて、迷宮をずっと見てきた
そんな中で、やはり法則性があることを見つけた」
「……」
「1から10は毒や罠、呪い。
これは正しくアライト ワクレフトの戦い方そのものだ
11から20はボロボロの武器を持った亡霊たち。
大量の仲間を失ったクロン ウェイパーを思い出させる。
21から30は正しく彼女の本そのものだ
あの生き物を作ったマイン ウェイパーと言える。
31から40は心優しく内に秘める圧倒的な強さ
あの優しい剣聖ミラン ダリンのようだ。
なら、41から50は?」
合点の行く話だ、質問に渋々答える。
「……隠密、隠れることに特化した、辺りの景色と一体化するモンスターたち」
「その通り、故に私の主観になるが、フレア メイ テンスの真骨頂は聖魔法や、その人間性ではなく、辺りとの同化こそが彼女そのものなのでは無いのかと考察しているんだ」
「……何が言いたい?」
「君たちの目の前にいるフレア メイ テンスはもしかしたら我々の知っているフレア メイ テンスでは無いかもしれない」
「……なら、なんだと言うんだ?」
「偽物、フレア メイ テンスを名乗る何かだ」
「に、偽物……は?」
何をふざけたことを
「君は見た事がないだろう?彼女が聖魔法を扱うその姿を」
確かに見た事はない……
「あの時、デュラハンとの戦いで使用していたものは?」
「あれはただの光の魔法さ、治癒の程度も知れている
君が使うなと言ったから使わなかったのではなく、元々使えない偽物なじゃないのか?」
「……なら、なら誰なんだ?あの女性は……守護者に抜擢される程の実力者が自らを偽るか?」
「私にもわからん、だが、この考察はあながち間違っていないと思う。
君が死なないようにも、そのことだけは頭の中に入れて置いてくれ」
「……あぁ……仮にだ……もしも聖魔法が使えたら?」
少しの沈黙が当たりを包む。
「……その時は、振り出しからになるね……ま、私を殺すのはその後でも遅くはない、こちらとしても何十回も刺客に追われていて困っているんだ、大精霊に恨まれる記憶はないんだけどね」
大精霊……あの、神域の森での……その時のことを知らない……?
固有スキル発動時は視界をシャットダウンできるのか……?
「ま、君が50層を攻略した時にまた、ここで会おう、その時はここにいるさ」
「……言ったな?なら、今日は出直すとする」
勝負がつかないのはモヤモヤするが……今度あった時は必ず殺してやる。
シュプ フング、一筋縄出は終わらせませんよ。




