記憶のために【カルカトス】
「……という訳だ、いいかな?グリム」
俺は今、グリムと2人で会っている。
コーヒーをソーサーの上へ戻し、1泊おいてから口を開く。
「私としては、もっと早くそうして欲しかったな」
「それはすまん……ただ、取り戻すのが怖くてな……」
先の白い髪を弄りながら答える。
俺がここへ来た理由、それは
「ま、つまりグリムは俺を送ってくれるんだな……マスターの所へ」
マスターの居場所を突き止め、そして俺がマスターを殺すこと。
「そうね、そういうことになるわ。
……家族を皆殺しにしたあなたが、その過去と向き合う方が楽だと思えるなんて、あなた一体どんな記憶を失ったのよ」
「……その話はやめてくれ」
「そんなあなたが怖がるものなんて、いまさらあるのかしら?」
「……やめろと言っているだろ」
「……はぁ、悪かったわ。
それじゃ、いつにする?今からでも私はいいわよ」
「ちょっと待っててくれ、みんなに話してくる」
「今は新しいパーティーがあるもんね、いいわ、それじゃ、決まったら私にメールして」
「あぁ、恩に着る」
「いいわよ」
そう言ってカフェから出ていくグリム。
「会計は俺もちか」
少しぐらい兄らしいことしないとな……そう思いながら、1杯の割にやたら高いコーヒー代を2人分払い店を出た。
「なぁ、みんな、きいてくれ」
宿の食堂で集まっているみんなに声をかけると、皆食事の手を止め、こちらを向く。
「俺は明日からケリをつけるためとある人物を殺しに行ってくる。
だから明日は一日いないから各自自由な」
「「「「はぁ!?」」」」
「ま、そういうことだ、俺を作ったとある人間を殺すだけ、明日になれば分かるさ。
まぁまぁな要人だからな、あいつ」
「だ、だれよ?」
「それは新聞やニュースを見てからのお楽しみだな」
さぁ、明日のために荷物を詰めよう。
全力で殺そう、そうしなければ負ける可能性が生まれる。
「リーダー、俺も明日手伝おうか?」
「ジャンパー……いや、いい、俺一人でやることに意味がある」
「……そうか、なら自由にしてるわ」
「……なぁ、ジャンパーなら、自分より強い敵にどうやって勝つ?」
そう部屋を出るジャンパーに問いかけると、振り返り答える。
「そもそも自分より強いやつとは戦わないな……ただ、どうしても戦わないといけないのなら……強くなるか、何かを積み重ねるな」
「積み重ねる?」
「そいつよりも更に上の高みへ行けるように、な」
人差し指を上に立て、そう笑った。
「……なるほどな……」
図書館に向かい、生物図鑑を見た。
不利な状況を打破する方法を持つ生物……!
「……そんなのいないよな」
そんな事よりも自分がどう勝つかの方が大切だ。
ルールを破る方法はもう持っている。
あと必要なのは、その先にいる未曾有の存在から勝利をもぎ取る方法。
それは……あいつも知らない生き物……そんな奴いないか……
「そんな都合のいい生き物がいたらいいんだけどな」
誰も知らなくて、そしてとても強い生き物。
いたら、きっとあの男が既に素材にしているだろう。




