迷宮のそのまた奥へ
「……よし、46層到着……はぁ……」
まぁまぁ消耗するな、やっぱり余裕とは言えない。
魔法を使えば楽に勝てるが、魔法に頼りすぎると、燃費が悪いせいでいつか使い切ってしまう。
そのせいで、魔法を使うのを躊躇ってくらった手傷が多くなってきた。
ここのモンスターはみんな地面や空と交わって、ものすごく見にくい。
サソリにゴーレム、鹿に騎士、後は空を泳ぐ魚や鳥たち。
厄介すぎる。
「……少し、やり方を変えようか」
今度は誰にもバレないように、隠れて、息を潜めて、時には無視して。
その動きは間違っていなかった。
確実に、精密に、地道に前へ進めている。
49階層、この次が50層……噂によれば全100層の折り返し地点。
最後の1層ぐらいは普通に進もう……
そんなふうに考えて、剣を抜き、歩き回る。
「……中ボス……?」
パッと見のイメージは『聖騎士』
身に纏う鎧兜は皮膚というものをまるで見せず、大きな盾と、負けず劣らずの剣が、そのイメージを持たせた。
だが、これまた、身につけるものは辺りと全く同じく見ずらい。
こういうオーソドックスな剣士の倒し方は、盾ごと切ってしまえばいい。
「さぁて!数分ぶりの戦闘だ……!ハウル、行こうか!」
剣を抜き、ナイトラインはお休みだ。
二刀流が苦手なのもあるが、何よりも切れ味の差だ。
もっとも、剣聖の剣と比べられるレベルならば、それだけで立派な名剣だと思う。
剣先をむけ、突き穿つ……!
「よしっ!……」
確かに盾を貫き、相手の鎧も貫き、そして、鎧の中身も貫いた。
それにカウンターが飛んできた
「っが……!?」
嫌な予感のままに体をよじる。
胴に剣が突き刺さる。
「こいつも……ゴーレム……!?」
奇しくも同じ状況となった訳だが……俺の方が間違いなく重症だ。
そして、中ボスらしく……強い。
穴の空いた盾を地面に当てると、光が盾の前に浮かび上がる。
「……光魔法……!」
回復の為ではなく、ダメージを喰らわないようにするため……恐らくハウルなら貫けるが……
「やっぱり簡単には攻撃させてくれないよなぁ!?」
剣先を向け、光の玉を飛ばす『光弾』
直線に高速で飛んでくる……それを連射し続けてくる。
これが聖騎士の厄介な点だ。
回復、防御、攻撃、それら全てをかなりのレベルで行えるオールラウンダー。
さすがに中ボス相手に出し惜しみできるほど俺は強くないか……
「なら、ここで1つお披露目といこうかな」
机上論のようなものだが、マスターの作ったこの体が、俺の思いどおりのものならば、マスターすらも予想していない使い方ができるはず。
腕を増やすことは出来た、なら、今度は身体を別のものに変えるんだ……!
「『弓化』」
硬く、湾曲した1本の『骨』弦のようにピンと貼りながらも、伸縮性のある他の生物の『皮』
それらを体で再現し、弓を作る。
矢はどうするのか?そんなものはここまで出来ればどんな心配も要らない。
矢のような生き物……生き物の中には、矢のように硬い骨を持つ者がいる。
「〈悪夢魔術〉『尖骨弓』」
骨の端には俺の体と繋がるようにして、伸ばしてもフックショットのように戻せるように仕込む。
弱点はこの線が無くなると腕の骨が諸共持っていかれる所だ。
「〈風魔法〉『風加速』」
猛スピードで飛ばす。
伸びる線が、まるでほつれたマフラーのように、俺の体が崩壊していく。
光の玉をかいくぐり、光の盾を貫いた。
地を蹴り、駆け出し、ほつれていない右手でしっかりと剣を握り、盾を蹴りあげ、空いた胴に斬撃を何度も浴びせる。
「……よし、消えたな」
星屑のようになり、騎士は消えていった。
「……さぁこい、50層の守護者」
頬を叩き、階段を下る




