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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、誰よりも優しくてカッコイイ人だろう
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四十層の試練

「……嗚呼!最高のセリフを……最高の言葉を!ありがとう!私の王子様……!」


「……『当たり前でしょ』姫様よりも先に倒れる王子様がいちゃダメでしょ?」


「あはは……それも、そうだね……っふふ!さぁ、見せてごらん?王子様」


 さっきに比べて随分と存在が希薄になっている?


 だが、それでもこの深手を踏まえて計算すれば間違いなくさっきよりも悪い状態だ。


 執念と気合いだけでたっているような俺じゃとても勝てない。


 だから、ここで……使いたくなかったが、奥の手を使う。


 最後の最後だ。

体の形は絶対に変えない。王子様は人だからな。


「ウンディーネ……俺と『契約』してくれるかな?」


 それは、一生を共にしろということ。

結婚とも取れる、だが、悪い言い方をすれば、離れたくても離れられない『呪い』


 そして、恐ろしい制約も課せられる。


 それでも、してくれるか?

そう聞いている。


『いいですよ、あなたとなら』


 そう言ってくれた。

『契約』の仕方は、一生を共にすると言う心を持って、キスをする。


 あの時の頬へのキスはスキンシップだが、これは意味が違う。


 手の甲を差し出し、キスするようにアイコンタクトをとると、彼女は俺の唇にキスをした。


「……っ!?んなっ!?何してっ!?ええっ!?え!?」


「最後になりますね、やりたいことはやりますよ」


「あれ?声……!?」


「知らなかったんですね、契約のその重大さ」


「いや、知ってるさ」


「……後で深く話します。 今はあなたがいるからこそ……私の全てを捧げます。」


「へ?ど、どういう意味だ!?」


「『ワタシハイツモヒトリダ』『ワタシノコイハカナワナイ』『ソンナワタシヲアイシテクレタ』『ソンナアナタニタダタダカンシャヲ』《捧魂貴愛(アルマ・ブーケ)》」


「え?魔法……?何を!?」


「ありがとうございます、少しの間……本当に短かったけど、あなたに会えてよかった、私はあなたの中でいつまでもいるから……いつでも思い出してね

愛してる……私を唯一愛してくれて、私の唯一愛した人」


 そういうと、彼女が俺の中に入ってくるのを感じる。


 冷たいようで暖かくて、内には熱くて熱くて、それでもどこか日光のように優しい温かさ。


 体の中の不純物が洗い流され、押し出され、俺の髪が黒く染まり出す。


 髪の先は白いままだが、黒髪は帰ってきた。


 傷は癒え、1つの文が……ウィンドウが現れた。


『水精霊との同化を果たしました

様々なスキルを追加します。』


 同化……!?


「傷が治った!?……ウンディーネちゃんは消えたの?……いや、いるね、私には見える」


「……みたいだね、全力でやるよ、ウンディーネのためにも、俺のためにも、ミランの為にも」


「ははっ、かかっておいで」


 だが、勝負はあっさりとケリが着いた。


 未練がほぼほぼ解消されたミランと、万全の状態よりも更に上、感じたことの無い高揚感と、最高のコンディションが産んだ剣閃は自分のものか疑うほどに素晴らしかった。


 ミランほどではないが、素晴らしい剣だ。


 そして、ついに、決着が着く。


 お互い、剣をもち、正面に経つ。


 距離を詰め、剣を振るう……その瞬間……ミランの剣だけが飛ばされた。


「……私の負けか……剣をなくした私なんてか弱い女の子……ははっ、残念残念……私の負け、降参するよ」


 はははっと力なく笑い、両手をあげる。


「勝者!カルカトス選手!」


「カル……ありがとうね、私の未練は今、果たされたよ」


 会場の真ん中で座り、歓声を肌に受け、耳が痛いはずなのに、彼女の声だけは聞こえた。


「そっか」


「ありがとうね、本当に感謝してる……私はもうサヨナラだよ」


「……そっ……か」


「悲しいの?」


「悲しいさ」


「……私も悲しいかな……会えないんだもん……輝石になっても、よろしくね」


「あぁ、もちろんだ」


「あと、この剣もあげるよ」


 拾ってきた剣を、俺に渡す。


「……あれっ?……ははっ、力が入らないや」


 ぺたりと、コケる。


 それを抱き抱え、お姫様抱っこをしてあげる。


「わわわっ!?何してるの!?」


「何って……お姫様抱っこ」


「……そっか、私は君のお姫様だもんね」


「あぁ、普通だろ」


「だね……ははっ、こんな白黒の世界じゃなくて、君が見たかったなぁ」


「……見たいか?」


「……もちろんだよ……私はこの目で色を見た事がないんだから」


「なら、見せてあげよう」


「……っへ?」


「少し、いやかなり気持ち悪いと思うけど、ごめんね」


 抱っこから下ろし、地面に膝をつき、彼女の瞳に手を合わせる。


 唯一使わなかった身体変化のスキルをつかい、彼女の視神経?だっけ?それを魔力で上手く繋ぎ、俺の手のひらに作りだした新しい瞳で確認させる。


「……どう?見えるかな?ミラン」


「見えてる!見えるよ!!カル!あぁ!これが君なんだね!髪の色も、瞳の形も!その全てがスキルで見るのとは大違いだ!

はははっ!なんて素晴らしいサプライズなの!?

ありがとう!カル!」


 抱きしめられ、苦しくなるほどだ。


 そして、唇に、彼女の唇が当たった。


「んむっ!?」


「むふふー」


 熱く、情熱的なキスをされた。


 中にいるウンディーネも、流石に許してくれたのか、和やかな流れを感じる。


「……ありがとう、王子様。

次に会う時は……カルの方からしてね?」


「!……なんて恥ずかしいことを俺はしてるんだろうな

ははっ、もちろんだ、約束しよう」


 小指を立て、約束をする。


「ふふっ……指切り……げんまん………だから……ね?」


「あぁ!もちろんだ……!」


「ははっ……ありが……とうね……カル」


 身体が光になって消えていく。


 その光は一点に収縮し、輝石になる。


 その瞬間、俺は意識を失った。


 深い深いその眠りから覚められる気はしなかった

【契約】


 精霊と精霊使いの間に果たすこと出来るもの。

一生を共にし、永遠を共にあゆむと約束する事。

契約は近いと共にキスをすることが条件で、簡単だ。


 その契約は仮契約と比べられないほど近づくことが出来る。


 精霊は術者と同じ言語を話すことが出来る。

本来精霊語を解すことが出来ない術者にとってこれは大きな変化である。


 他にも力が増したりなど様々な効果があるが。

『同化』これが最も大切だ。

身も心も存在も、主に捧げ、ひとつになる。

術者は精霊の力手にし、精霊はこの世から消える。

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